【行政書士の実務】定款に何を書く?──絶対的記載事項と落とし穴を説明する
会社を作ろうとしている方から、相談が届く。
「会社を設立したいのですが、定款というものを作ると聞きました。ひな形をダウンロードしてみたものの、何を書けばよいのか分かりません。書き忘れると困るものがあれば教えてください。」
行政書士の実務で、定款の作成は入口の仕事だ。力になるのは、こうして「書かないと無効になるもの」と「書かないと効力を生じないもの」を分けて示せたときである。この記事では、必ず書く5つ、書かないと効力が生じない4つ、認証の要否、そして落とし穴までを通しで整理する。
まず結論:定款の記載事項は3層になっている
| 層 | 呼び方 | 書かないとどうなるか | 条文 |
|---|---|---|---|
| 1 | 絶対的記載事項 | 定款そのものが無効になる | 会社法27条 |
| 2 | 相対的記載事項 | 定款は有効だが、その事項の効力が生じない | 28条、29条前段 |
| 3 | 任意的記載事項 | 何も起きない(書けば拘束力を持つ) | 29条後段 |
この3層を分けて説明すると、相談者の「書き忘れると困るもの」への答えが整理できる。
必ず書く5つ
株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所(会社法27条)
4号の書き方に注意する。「価額又はその最低額」だ。確定額でなくてもよく、最低額でよい。設立時に集まる額が動く可能性がある場合、最低額で書いておくと後で困らない。
3号の本店の所在地も落とし穴がある。条文は「所在地」であって「所在場所」ではない。最小行政区画(市区町村)まで書けば足りるとされている。番地まで定款に書くと、同じ市内で移転しただけでも定款変更(株主総会の特別決議)が必要になる。市区町村までにとどめるのが実務の定石だ。
1号の目的は、許認可が必要な事業を予定しているなら、その事業に必要な文言を入れておく。後から目的を追加すると、定款変更と登記が必要になる。相談の段階で、将来やる可能性のある事業まで聞いておく。
書かないと効力を生じない4つ
株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。
一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数
二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)(会社法28条)
いわゆる変態設立事項だ。会社の財産を危うくするおそれがあるため、定款に書かせて表に出すという仕組みになっている。
| 号 | 通称 | 場面 |
|---|---|---|
| 1号 | 現物出資 | お金の代わりに車やパソコン、不動産を出資する |
| 2号 | 財産引受け | 設立後に特定の財産を買うと約束しておく |
| 3号 | 発起人の報酬・特別利益 | 設立の手間に対する報酬 |
| 4号 | 設立費用 | 会社が負担する設立の費用 |
1号の現物出資は相談が多い。「手持ちのパソコンを資本金に充てたい」という形だ。
定款に書けばよいが、原則として裁判所が選任する検査役の調査が要る。ただし33条10項に例外があり、定款に記載された現物出資財産等の価額の総額が500万円を超えない場合などは調査が要らない。
500万円の線を意識して設計するのが実務になる。検査役の調査は時間も費用もかかるため、超えるなら現金出資に組み替えるほうが早いことが多い。
4号のかっこ書も見る。定款の認証の手数料その他、株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものは除かれる。認証手数料は定款に書かなくても会社が負担できるということになる。
そのほかに書けること
第二十七条各号及び前条各号に掲げる事項のほか、株式会社の定款には、この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる。(会社法29条)
前半が28条以外の相対的記載事項、後半が任意的記載事項にあたる。
| よく入れるもの | 性質 |
|---|---|
| 株式の譲渡制限に関する定め | 相対的記載事項。書かないと譲渡制限がかからない |
| 取締役会・監査役を置く旨 | 相対的記載事項 |
| 取締役の任期の伸長 | 相対的記載事項 |
| 事業年度 | 任意的記載事項 |
| 公告の方法 | 任意的記載事項(定めがない場合は官報とされる) |
1行目が実務で最も重要になる。非公開会社にするには、定款に譲渡制限の定めを置く。これがないと株式が自由に譲渡でき、知らない人が株主になり得る。小規模な会社では、ほぼ必ず入れる。
発行可能株式総数の4分の1
発起人は、発行可能株式総数を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
3 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。(会社法37条1項・3項)
3項のただし書が実務で効く。公開会社でない会社(=全部の株式に譲渡制限がある会社)では、4分の1の制限がかからない。
だから譲渡制限を付けた会社では、設立時に100株発行して、発行可能株式総数を10,000株にするといった設計ができる。将来の増資に備えて枠を大きく取っておける。
逆に、譲渡制限を付けない設計にすると、発行可能株式総数は設立時発行株式数の4倍までに縛られる。ここは1行目の譲渡制限の定めと連動する。
発行可能株式総数は27条の絶対的記載事項に入っていないので、定款に書かなくても定款は無効にならない。ただし37条1項により成立の時までに定めなければならないので、実務では最初から書いておく。
認証が要る会社と要らない会社
第二十六条第一項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。(会社法30条1項)
26条1項は株式会社の定款についての規定だ。持分会社には、別の条文が置かれている。
合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称する。)を設立するには、その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。(会社法575条1項)
| 会社の種類 | 公証人の認証 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 必要 | 30条1項 |
| 合同会社・合名会社・合資会社 | 不要 | 575条に認証の定めがない |
575条には認証の規定がない。持分会社の定款は、作成して署名・記名押印すれば足りる。
費用と時間の差になるので、合同会社という選択肢を示す場面が出てくる。ただし取引先からの信用や、将来の株式による資金調達を考えると株式会社が向くこともある。「安いから合同会社」ではなく、何をする会社かで選ぶ形で渡す。
持分会社の定款の記載事項も別に定められている(576条1項)。
| 号 | 記載事項 |
|---|---|
| 1号〜3号 | 目的、商号、本店の所在地(株式会社と同じ) |
| 4号 | 社員の氏名又は名称及び住所 |
| 5号 | 社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別 |
| 6号 | 社員の出資の目的(有限責任社員は金銭等に限る)及びその価額又は評価の標準 |
4号に注意する。持分会社では社員(出資者)の氏名・住所が定款の必要的記載事項だ。株式会社は発起人を書くだけで、株主は定款に書かない。社員が変わるたびに定款変更が要るという違いにつながる。
認証後は原則として変更できない
前項の公証人の認証を受けた定款は、株式会社の成立前は、第三十三条第七項若しくは第九項又は第三十七条第一項若しくは第二項の規定による場合を除き、これを変更することができない。(会社法30条2項)
認証を受けたら、成立前は原則として変更できない。例外は検査役の調査を受けた場合の変更(33条7項・9項)と発行可能株式総数の定めの設定・変更(37条1項・2項)だけだ。
だから認証の前に、すべて確定させておくことになる。誤字や事業年度の設定ミスに認証後に気づくと、設立をやり直すか、成立後に定款変更することになる。認証は最後の関門だと押さえておく。
チェックの手順——この順番で見る
- 27条の5つが揃っているか。目的・商号・本店の所在地・出資される財産の価額または最低額・発起人の氏名等。
- 本店の所在地が市区町村までか。番地まで書いていないか。
- 目的に、予定している許認可事業の文言が入っているか。将来やる可能性のある事業も聞く。
- 商号が使えるか。同一本店・同一商号の登記がないか法務局で確認する。
- 現物出資があるか。あれば28条1号に記載し、総額500万円を超えないか確認する(33条10項)。
- 設立費用を会社に負担させるか。させるなら28条4号に記載する。
- 譲渡制限の定めを入れるか。入れると37条3項の4分の1制限が外れる。
- 発行可能株式総数を書く(37条)。
- 機関設計を確認する。取締役会・監査役を置くなら定款に定める。
- 事業年度・公告の方法を決める。
- すべて確定させてから認証へ(30条2項)。
プロならこう説明する
定款は、書き忘れたときの結果が2段階に分かれます。そこから整理しましょう。
1つめが、書かないと定款そのものが無効になるものです。5つあります。目的、商号、本店の所在地、出資される財産の価額または最低額、発起人の氏名と住所。ひな形には最初から欄がありますので、埋めていただければ大丈夫です。
ただ、ここで2つお伝えしておきたい点があります。
1つは本店の所在地です。法律は「所在地」としか書いていませんので、市区町村までで足ります。番地まで書いてしまいますと、同じ市内で引っ越しただけでも定款の変更が必要になります。市区町村までにとどめておきましょう。
もう1つが目的です。将来やってみたいお仕事はありますか。後から目的を足すには定款の変更と登記が要りますので、今の段階で入れておくほうが安く済みます。
2つめの段階が、書かないと「その部分だけ」効力が生じないものです。4つあります。
この中でご相談が多いのが現物出資です。お手持ちのパソコンや車を資本金に充てたい、という形ですね。定款に、誰が何をいくらで出資するかを書けば可能です。
ただ、原則として裁判所が選ぶ検査役の調査が必要になります。例外があって、現物出資の総額が500万円を超えない場合などは調査が要りません。500万円が1つの線とお考えください。超えるようでしたら、現金でご出資いただくほうが早く進みます。
それから、ひな形には入っていないことが多いのに、入れたほうがよいものがあります。株式の譲渡制限です。
これを入れておかないと、株式が自由に譲渡でき、ご存じない方が株主になることがあります。小規模な会社では、まず入れます。
この譲渡制限には、もう1つ効き目があります。将来の増資の枠を大きく取れるようになるのです。譲渡制限のない会社では、発行できる株式の総数は設立時の4倍までに縛られますが、譲渡制限を入れるとこの制限がかかりません。
最後に、進め方で気をつけていただきたいことがあります。株式会社の定款は、公証人の認証を受けないと効力を生じません。そして認証を受けた後は、会社ができるまでの間、原則として変更できません。
ですので、認証をお受けになる前に、すべて確定させます。誤字、事業年度、目的、機関の設計。認証後に気づくと、やり直しになります。私のほうで一度お預かりして確認いたします。
なお、合同会社という選択肢もあります。こちらは公証人の認証が要りませんので、費用と時間が抑えられます。ただ、取引先からの見え方や、将来株式で資金を集めるお考えがあるかによって向き不向きがあります。どちらがよいかは、何をなさる会社かをうかがってからご一緒に決めましょう。
よくある質問と、その答え方
「資本金は1円でもいいのですか」
会社法27条4号が求めているのは設立に際して出資される財産の価額又はその最低額の記載であって、下限額を定めてはいない。だから1円でも設立自体はできる。ただし許認可には財産的基礎の要件があるものがあり(建設業許可など)、取引先の与信でも見られる。「法律上は可能だが、その後の事業で困ることがある」という形で渡す。事業に必要な運転資金から逆算するのが実務になる。
「設立費用は会社に払わせられますか」
28条4号に記載すれば可能だが、定款に記載しなければその効力を生じない。ただし同号のかっこ書により、定款の認証の手数料その他、株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものは除かれる。認証手数料は記載しなくても会社の負担にできる。何が除かれるかは省令で定まっているので、個別に確認してから答える。
「合同会社なら定款は適当でもいいですか」
そうではない。認証が不要なだけで、576条1項の記載事項は必要的だ。とくに4号(社員の氏名・住所)と5号(無限責任社員か有限責任社員かの別)、6号(出資の目的と価額)は株式会社の定款にない項目になる。しかも社員が変われば定款変更が要るため、後の運用は株式会社より手間がかかる面もある。認証がないことと、内容が緩いことは別だと分けて伝える。
説明で外したくないポイント
- 3層に分ける:絶対的(27条)/相対的(28条・29条前段)/任意的(29条後段)。
- 27条の5つ:目的・商号・本店の所在地・出資される財産の価額または最低額・発起人。
- 本店は市区町村まで:番地まで書くと移転のたびに定款変更。
- 28条は「記載しなければその効力を生じない」:定款は無効にならない。
- 現物出資は総額500万円が1つの線(33条10項)。
- 譲渡制限を入れると37条3項の4分の1制限が外れる。
- 株式会社は認証が要り、持分会社は要らない(30条1項、575条)。
- 認証後は成立前の変更が原則できない(30条2項)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 会社法26条 | 定款の作成 | 発起人が作成し全員が署名または記名押印。電磁的記録も可 |
| 会社法27条 | 定款の記載又は記録事項 | 目的・商号・本店の所在地・設立に際して出資される財産の価額または最低額・発起人の氏名等 |
| 会社法28条 | — | 現物出資・財産引受け・発起人の報酬等・設立費用。記載しなければ効力を生じない。4号かっこ書で認証手数料等を除く |
| 会社法29条 | — | 定款の定めがなければ効力を生じない事項と、法に違反しないその他の事項を記載できる |
| 会社法30条 | 定款の認証 | 公証人の認証を受けなければ効力を生じない。成立前は原則として変更できない |
| 会社法33条10項 | — | 現物出資財産等の価額の総額が500万円を超えない場合等は検査役の調査を要しない |
| 会社法37条 | 発行可能株式総数の定め等 | 成立の時までに定める。設立時発行株式の総数は発行可能株式総数の4分の1を下れない。公開会社でない場合を除く |
| 会社法575条 | 定款の作成 | 持分会社は社員になろうとする者が作成し署名等。認証の定めはない |
| 会社法576条1項 | 定款の記載又は記録事項 | 目的・商号・本店の所在地・社員の氏名等・責任の別・出資の目的と価額 |