【行政書士の実務】会社を作った後は何を出す?──設立後の届出を期限順に整理する
会社を設立したばかりの方から、相談が届く。
「先日、登記が完了して会社ができました。これで終わりだと思っていたのですが、税務署や年金事務所にも書類を出す必要があると聞きました。何をどこに、いつまでに出せばよいのでしょうか。従業員は今のところ私1人です。」
行政書士の実務で、設立後の届出は抜けやすい。力になるのは、こうして期限の短い順に並べて渡せたときである。この記事では、それぞれの届出の根拠と期限、社長1人でも要るもの、そして順番までを通しで整理する。
まず結論:期限は5日・10日・1月・2月に分かれる
| 期限 | 届出 | 提出先 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 5日以内 | 新規適用事業所の届出(健康保険・厚生年金) | 年金事務所 | 厚生年金保険法施行規則13条1項 |
| 10日以内 | 保険関係成立届(労働保険) | 労働基準監督署 | 労働保険徴収法4条の2第1項 |
| 1月以内 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 所得税法230条 |
| 2月以内 | 法人設立届出書 | 税務署 | 法人税法148条 |
期限がばらばらなので、「登記が終わったら、まず年金事務所と労働基準監督署」と覚える。税務署の2つは相対的に余裕がある。
ただし従業員を雇う予定があるかどうかで、必要なものが変わる。相談者は「今のところ私1人」なので、そこを確認してから組み立てる。
社会保険は5日以内
まず、その会社が適用事業所に当たるかを確認する。
次の各号のいずれかに該当する事業所若しくは事務所……を適用事業所とする。
一 次に掲げる事業の事業所又は事務所であつて、常時五人以上の従業員を使用するもの……
二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの(厚生年金保険法6条1項)
1号と2号を分けて読む。1号は個人事業の話で、常時5人以上という人数の要件がある。
2号は法人だ。こちらには人数の要件がない。「常時従業員を使用するもの」とだけ書かれている。
だから法人は、社長1人でも適用事業所になる。役員として報酬を受けていれば、その社長が被保険者になる。相談者の「従業員は私1人」は、加入しなくてよい理由にならない。
ここは相談で最も誤解が多い。「人を雇っていないから関係ない」と思っている経営者が多いので、条文の1号と2号の違いを示して伝える。
届出の期限は省令にある。
法第六条第一項の規定により初めて適用事業所……となつた事業所の事業主……は、当該事実があつた日から五日以内に、次に掲げる事項を記載した届書を機構に提出しなければならない。(厚生年金保険法施行規則13条1項)
5日以内だ。設立後の届出の中でいちばん短い。健康保険についても同様の届出があり、実務では1つの様式で同時に処理される。
労働保険は10日以内
前二条の規定により保険関係が成立した事業の事業主は、その成立した日から十日以内に、その成立した日、事業主の氏名又は名称及び住所、事業の種類、事業の行われる場所その他厚生労働省令で定める事項を政府に届け出なければならない。
2 保険関係が成立している事業の事業主は、前項に規定する事項のうち厚生労働省令で定める事項に変更があつたときは、厚生労働省令で定める期間内にその旨を政府に届け出なければならない。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律4条の2)
起点は保険関係が成立した日だ。設立の日ではなく、労働者を雇い入れた日になる。
ここが社会保険との違いになる。労働保険は「労働者」を対象とする制度なので、役員だけの会社では保険関係が成立しない。
相談者が社長1人でやっている間は、労働保険の届出は要らない。最初の従業員を雇った日から10日以内に出すことになる。
だから「いつ人を雇う予定か」を聞いておく。雇う直前になって慌てないよう、先に段取りを渡しておく。
2項の変更の届出も伝えておく。事業所の移転や名称変更のたびに必要になる。
給与支払事務所等の開設は1月以内
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し、若しくは廃止した者は、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。(所得税法230条)
この届出は役員報酬を支払う場合にも必要になる。「給与等」には役員報酬が含まれるためだ。社長1人の会社でも、報酬を出すなら提出する。
移転・廃止のときも同じ届出になる(同条)。設立時だけの手続きではない。
あわせて検討する納期の特例
……当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。……)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、一月から六月まで及び七月から十二月までの各期間……に……徴収した所得税の額を、……一月から六月までの期間に係る……ものにあつては当該期間の属する年の七月十日までに、七月から十二月までの期間に係る……ものにあつては当該期間の属する年の翌年一月二十日までに国に納付することができる。(所得税法216条)
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 給与等の支払を受ける者が常時10人未満の事務所等 |
| 手続き | 所轄税務署長の承認 |
| 効果 | 源泉徴収した所得税の納付が年2回になる |
| 期限 | 1月〜6月分は7月10日まで/7月〜12月分は翌年1月20日まで |
原則は毎月10日までの納付だ。小さな会社では、この毎月の手続きが負担になる。
216条の承認を受けると年2回になる。設立時にあわせて申請しておくと、その後の事務が軽くなる。
ただし条文は「常時十人未満であるものに限る」としている。人が増えたら使えなくなる。10人に近づいたら見直すことを伝えておく。
法人設立届は2月以内
新たに設立された内国法人である普通法人又は協同組合等は、その設立の日以後二月以内に、次に掲げる事項を記載した届出書に定款の写しその他の財務省令で定める書類を添付し、これを納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(法人税法148条)
4つの届出の中でいちばん期限が長い。ただし定款の写しの添付が要るので、設立時の書類を手元に残しておく。
税務署のほか、都道府県税事務所と市町村にも法人設立の届出をする。こちらは地方税法に基づくもので、期限は自治体ごとに定められている。「税務署に出したから終わり」ではないことを伝える。
従業員を雇うかどうかで変わるもの
| 届出 | 社長1人(役員のみ) | 従業員を雇う |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金の新規適用 | 要る(法人は人数要件なし) | 要る |
| 労働保険の保険関係成立届 | 要らない(労働者がいない) | 要る(雇入れの日から10日以内) |
| 雇用保険の適用事業所設置届 | 要らない | 要る |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 要る(役員報酬も給与等) | 要る |
| 法人設立届出書 | 要る | 要る |
相談者のように社長1人で始める場合でも、3つは必要になる。労働保険だけが後回しという整理になる。
そのほか、設立時に検討するもの
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 青色申告の承認申請書 | 提出しないと白色申告になる。期限が厳格なので設立時にあわせて出す |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 届け出ない場合は法定の方法になる |
| 棚卸資産の評価方法の届出書 | 同上 |
| 消費税関係の届出 | 課税事業者の選択、インボイスの登録など。判断を要する |
これらは税務の判断が入る。行政書士は税務の申告書類の作成や税務相談ができないので、税理士へつなぐ。
ただし「こういう届出があります」と一覧で渡すことはできる。相談者が知らないまま期限を過ぎる、という事態を防ぐ意味がある。案内と、判断の代行は別だと線を引いて動く。
進め方の手順——この順番で出す
- 登記事項証明書を取る。ほとんどの届出で添付する。複数通取っておく。
- 法人番号を確認する。登記が完了すると指定される。
- 役員報酬を出すかを決める。出すなら給与支払事務所等の開設届出書が要る(所得税法230条)。
- 年金事務所へ新規適用の届出をする。5日以内(厚年則13条1項)。法人は人数要件がない(厚年法6条1項2号)。
- 給与支払事務所等の開設届出書を出す。1月以内(所得税法230条)。
- 納期の特例の承認申請を検討する。給与の支払を受ける者が常時10人未満なら(所得税法216条)。
- 法人設立届出書を出す。2月以内、定款の写しを添付(法人税法148条)。
- 都道府県税事務所・市町村へも設立の届出をする。
- 青色申告の承認申請など、税務の届出を税理士と検討する。
- 従業員を雇うことになったら、労働保険の成立届を出す。雇入れの日から10日以内(徴収法4条の2第1項)。
プロならこう説明する
登記が終わって、ここからが手続きの本番になります。期限の短い順にご説明します。
いちばん急ぐのが年金事務所です。5日以内と定められています。
ここで、よく誤解される点をお伝えします。従業員がいらっしゃらなくても、法人であれば加入します。
法律の条文を見ますと、個人でお店をされている場合は「常時5人以上」という人数の条件がありますが、法人にはこの条件がありません。「常時従業員を使用するもの」とだけ書かれています。役員として報酬をお受け取りになるのであれば、社長さんご自身が対象になります。
次が労働基準監督署で、10日以内です。ただしこちらは、今すぐには要りません。
労働保険は働く方のための制度ですので、従業員の方を雇われた日から10日以内になります。社長さんお一人の間は対象になりません。初めての方を雇われるご予定はいつごろでしょうか。その時期が見えましたら、事前にご案内します。
3つめが税務署です。2種類あります。
1つは給与支払事務所等の開設届出書で、1か月以内です。役員報酬も「給与等」に入りますので、社長さんお一人でも提出します。
もう1つが法人設立届出書で、2か月以内です。定款の写しを添えますので、設立のときの書類はまとめて保管しておいてください。
あわせて、事務の負担を減らせる仕組みをご案内します。源泉徴収した所得税の納付は、原則として毎月10日までですが、給与をお支払いになる方が常時10人未満でしたら、税務署の承認を受けることで年2回にできます。7月10日と、翌年の1月20日です。
毎月の手続きがなくなりますので、設立のこの時期にあわせて申請されることをお勧めします。人が増えて10人以上になりますと使えなくなりますので、そのときは見直しましょう。
それから、税務署だけでなく、都道府県税事務所と市役所にも設立の届出があります。ここを忘れやすいので、あわせて出しておきましょう。
最後に、私からできることの線をお伝えします。税務の申告に関する書類の作成や、税額のご相談は税理士の業務です。青色申告の承認申請など、判断が要るものは税理士をご紹介します。
ただ、どういう届出があるかを一覧でお渡しすることはできます。知らないまま期限を過ぎてしまうのがいちばん困りますので、まずこの一覧をお持ちください。そのうえで、判断が要るところは専門の方におつなぎします。
よくある質問と、その答え方
「社長1人なので社会保険は入らなくていいですよね」
入る。厚生年金保険法6条1項は、1号で個人の事業所について「常時五人以上の従業員を使用するもの」としているのに対し、2号は「法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの」としており、人数の要件を置いていない。役員報酬を受けていれば被保険者になる。1号と2号を並べて示すと納得が早い。
「労働保険も一緒に出しておきますか」
まだ出せない。労働保険徴収法4条の2第1項は「保険関係が成立した事業の事業主は、その成立した日から十日以内に」としており、起点は保険関係の成立だ。労働者を雇っていなければ成立しない。設立の日ではない。先に出しておく、という進め方にはならないので、雇入れの予定を聞いて時期を決める。
「納期の特例は後から申請できますか」
できるが、承認を受けた日の属する期間からの適用になる(所得税法216条かっこ書)。承認前の分は原則どおり毎月納付することになる。設立時にあわせて出しておくほうが、事務が一度で済む。あわせて「常時十人未満であるものに限る」という条件があるので、人を増やす計画があるなら、いつ使えなくなるかも見ておく。
説明で外したくないポイント
- 期限は5日・10日・1月・2月:短い順に案内する。
- 法人は人数要件なしで社会保険の適用事業所(厚年法6条1項2号)。
- 社会保険の届出は5日以内(厚年則13条1項)。
- 労働保険の起点は保険関係の成立=雇入れ(徴収法4条の2第1項)。
- 役員報酬も「給与等」:給与支払事務所等の開設届出書が要る(所得税法230条)。
- 納期の特例は常時10人未満・承認制(所得税法216条)。
- 法人設立届は2月以内、定款の写しを添付(法人税法148条)。
- 都道府県・市町村への届出も忘れない。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 法人税法148条 | 内国普通法人等の設立の届出 | 設立の日以後2月以内に、定款の写し等を添付して納税地の所轄税務署長へ |
| 所得税法216条 | 源泉徴収に係る所得税の納期の特例 | 給与等の支払を受ける者が常時10人未満で、所轄税務署長の承認を受けた場合。7月10日/翌年1月20日 |
| 所得税法230条 | 給与等の支払をする事務所の開設等の届出 | 事実があつた日から1月以内。移転・廃止も対象 |
| 厚生年金保険法6条1項 | 適用事業所 | 1号は個人の事業所で常時5人以上。2号は法人の事業所で常時従業員を使用するもの(人数要件なし) |
| 厚生年金保険法施行規則13条1項 | 新規適用事業所の届出 | 事実があつた日から5日以内 |
| 労働保険徴収法4条の2 | 保険関係の成立の届出等 | 保険関係が成立した日から10日以内。変更のときも届け出る |