行政書士の実務クエスト

【行政書士の実務】離婚協議書には何を書く?──決めておく項目と公正証書を説明する

離婚を考えている方から、相談が届く。

「話し合いで離婚することになりました。役所に紙を出せば済むと思っていたのですが、後でもめないように書面を作ったほうがよいと言われました。何を決めておけばよいのでしょうか。子どもが1人います。」

行政書士の実務で、離婚協議書の作成は相談の多い分野だ。力になるのは、こうして「届出に必要なこと」と「後で困らないために決めておくこと」を分けて示せたときである。この記事では、条文が求める事項、決めておく項目、期限のあるもの、そして書面の形までを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエストを読み物として再構成したもの。人物・案件はすべて架空です。行政書士は当事者間で合意ができている内容の書面を作成できますが、交渉の代理はできません。争いがある場合は弁護士へおつなぎください。

まず結論:届出に必要なのは、実は少ない

夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。(民法763条)

条文はこれだけだ。協議が調えば離婚できる。ただし、届出の受理には条件がつく。

離婚の届出は、……夫婦間に成年に達しない子がある場合には次の各号のいずれかに該当することを認めた後でなければ、受理することができない
一 親権者の定めがされていること。
二 親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていること。
2 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない。(民法765条)

届出に必要か
親権者の定め(未成年の子がいる場合)必要(765条1項1号)。または申立てがされていること(同2号)
養育費、財産分与、面会の取決め不要

相談者の「役所に紙を出せば済む」は、届出という意味では正しい。だから届出だけなら、養育費も財産分与も決めずに離婚できてしまう。

そこが問題になる。決めずに離婚すると、後から請求しようとしても相手の連絡先が分からない、応じてもらえない、という事態になる。「離婚できること」と「後で困らないこと」は別だと、最初に分けて伝える。

親権者は「双方又は一方」から選ぶ

父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。(民法819条1項)

条文は双方または一方としている。父母の双方を親権者と定めることもできる

協議が調わないとき、または協議ができないときは、家庭裁判所が父または母の請求によって協議に代わる審判をする(819条5項)。

裁判所が双方とするか一方とするかを判断する際の考慮事項も定められている。

裁判所は、……父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。(民法819条7項)

親権者は後から変更できる。子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる(819条6項)。当事者の協議だけでは変更できず、家庭裁判所を通すという点を伝えておく。

子について決める4項目

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌父又は母と子との交流子の監護に要する費用の分担その他子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。(民法766条1項)

条文の言葉実務での呼び方
1子の監護をすべき者監護者
2子の監護の分掌監護の分担
3父又は母と子との交流面会交流
4子の監護に要する費用の分担養育費

1項後段が子の利益を最も優先して考慮しなければならないとしている点は、協議書を作るときの基準になる。父母のどちらが得かではなく、子にとってどうかで組み立てる。

協議が調わないときは家庭裁判所が定め(766条2項)、必要があると認めるときは家庭裁判所が定めを変更できる(同条3項)。

4項に注意する。前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない(766条4項)。

つまり監護者を定めても、それだけで親権が動くわけではない。親権者と監護者を分けることはできるが、両者は別の概念だ。協議書では、どちらの話をしているかを明確に書き分ける。

財産分与の期限は5年

協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から五年を経過したときは、この限りでない。(民法768条1項・2項)

2項ただし書の5年を落とさない。古い資料には2年と書かれているものがある。条文の現行の数字で確認する。

意味も正確に押さえる。5年が経過すると請求できなくなるのは、家庭裁判所への「協議に代わる処分」の請求だ。当事者間の協議そのものは、1項に期限が書かれていない。「5年で財産分与が一切できなくなる」ではないが、話がまとまらないときの出口が閉じるので、実質的な期限として扱う。

家庭裁判所が考慮する事情も条文にある。

……当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度婚姻の期間婚姻中の生活水準婚姻中の協力及び扶助の状況各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。(民法768条3項)

後段が実務で効く。寄与の程度は、異なることが明らかでないときは相等しいものとする専業主婦(夫)であっても、寄与は原則として同等に扱われるということになる。「収入がなかったから取り分は少ない」という前提で協議に臨まないよう、先に伝える。

協議書に入れる項目

項目根拠・注意点
離婚の合意と届出どちらがいつ届け出るか
親権者双方か一方か(819条1項)。届出に必要
監護者親権者と分ける場合(766条1項)。親権とは別(同条4項)
養育費金額・支払日・支払方法・終期(766条1項)
父母と子の交流頻度・方法・連絡の取り方(766条1項)
財産分与対象・金額・時期・方法(768条1項)
年金分割按分割合。期限に注意
慰謝料あれば金額と支払方法
住居誰が住むか、家賃・ローンの負担
清算条項これ以外に債権債務がないことの確認

養育費で落としやすいのが終期だ。「20歳まで」「大学卒業まで」「22歳に達した後の最初の3月まで」など、書き方で結果が変わる。曖昧に書くと、その時期が来たときに争いになる

強制執行認諾文言付きの公正証書にする

協議書は当事者間の合意を書いたものだが、相手が払わなくなったときに、それだけでは差押えができない。裁判を起こして判決を得る必要がある。

これを避ける形が強制執行認諾文言付きの公正証書だ。

私署の協議書公正証書(認諾文言付き)
作成当事者(行政書士が作成を支援)公証人
費用作成費用のみ公証人の手数料
不払いのとき裁判が要るそのまま差押えができる
証拠力争われる余地がある高い

養育費のように長期にわたって毎月支払われるものがあるなら、公正証書にする価値が高い。10年以上続く約束で、途中で止まる可能性がある。

逆に、財産分与を離婚時に一括で済ませて、養育費もない事案では、私署の協議書で足りることもある。「継続的な支払いがあるか」で判断すると分かりやすい。

公正証書にする場合、当事者双方が公証役場へ出向くことになる。相手が協力しない事案では作れない。合意ができている段階で、早めに作るのが実務になる。

行政書士ができることの線

相談を受けるときに、最初に伝えておく。

行政書士
合意ができている内容の協議書を作成するできる
公正証書の案文を作り、公証役場との打合せを支援するできる
相手方と交渉する、代理するできない
調停・裁判の書面を作る、代理するできない

争いがある事案は弁護士へつなぐ。「話し合いで決まった」と言っていても、実際には一方が押し切られている場合がある。両方の話を聞いて、合意ができているかを確かめてから着手する

進め方の手順——この順番で組む

  1. 未成年の子がいるかを確認する。いれば親権者を決めないと届出が受理されない(765条1項)。
  2. 親権者を双方にするか一方にするかを話し合う(819条1項)。
  3. 766条1項の4項目を1つずつ決める。監護者、監護の分掌、父母と子の交流、養育費。子の利益を最優先に(同項後段)。
  4. 養育費の終期を具体的に決める。「20歳に達する月まで」など。
  5. 財産を洗い出す。名義にかかわらず、婚姻中に取得・維持したもの。負債も。
  6. 財産分与を決める。寄与の程度は明らかでなければ相等しい(768条3項後段)。
  7. 年金分割の手続きを確認する。期限があるので早めに。
  8. 清算条項を入れるか決める
  9. 公正証書にするかを決める。継続的な支払いがあるなら勧める。
  10. 離婚届の提出と、協議書の作成の順序を決める先に届け出ると、後から協議に応じてもらえないことがある

プロならこう説明する

まず、届出そのものについてお答えします。お子さまがいらっしゃる場合、親権者を決めないと離婚届は受理されません。逆に言いますと、それ以外は決めなくても離婚できてしまいます。

ここが、書面を作ったほうがよいと言われた理由です。養育費も財産分与も決めずに離婚することが、制度上はできます。そして決めずに離婚しますと、後からお話し合いをするのが難しくなります。連絡が取れなくなる、応じていただけない、ということが起こります。

親権についてお伝えします。法律では父母の双方または一方を親権者と定めることになっています。おふたりを親権者とすることもできます。どちらがよいかは、お子さまの生活の形によって変わりますので、ご一緒に考えましょう。

そのうえで、お子さまについて決めておく項目が法律に4つ挙げられています。誰が育てるか、育てる役割をどう分けるか、お子さまと会う機会をどうするか、そして養育費です。

法律には「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と書かれています。おふたりのどちらが有利かではなく、お子さまにとってどうか、という基準で決めていく形になります。

養育費で、後からもめやすい点を1つお伝えします。いつまで払うかです。「20歳まで」「大学を出るまで」では、その時期が来たときに解釈が分かれます。「◯歳に達する月まで」のように、日付で決まる書き方にしましょう。

財産分与についてもお伝えします。お話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に申し立てられる期間は、離婚の時から5年です。古い本には2年と書かれているものがありますが、今は5年です。

もう1つ、大事な点があります。財産分与では、どちらがどれだけ貢献したかが明らかでない場合、同じ程度とみなされます。お仕事をされていなかった方の取り分が少なくなる、という前提ではありません。

最後に、書面の形についてご提案します。養育費のように毎月続くお支払いがある場合は、公正証書でお作りになることをお勧めします。

ふつうの書面ですと、お支払いが止まったときに、裁判を起こしてからでないと差押えができません。強制執行を認める文言を入れた公正証書にしておくと、そのまま手続きに進めます。

ただし、公正証書はおふたりで公証役場へ出向いていただく必要があります。お話し合いができている今のうちにお作りになるほうが確実です。

それから、離婚届を出す前に書面を作るほうが安全です。先に届けを出してしまいますと、その後の話し合いに応じていただけないことがあります。

1点、私からできることの線もお伝えします。おふたりで合意ができている内容を書面にすることはできますが、相手の方と交渉することはできません。意見が食い違っている部分があるようでしたら、弁護士をご紹介します。

よくある質問と、その答え方

「親権は母親になると決まっているのですか」
決まっていない。819条1項はその協議で、その双方又は一方を親権者と定めるとしているだけで、父母のどちらかを優先していない。協議が調わない場合の裁判所の判断でも、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないとされている(819条7項)。性別で決まる規定はないと条文で示す。

「親権者と監護者を分けられますか」
分けられる。766条1項が子の監護をすべき者を協議で定める事項として挙げている。ただし同条4項が前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じないとしているので、監護者を定めても親権が動くわけではない。分ける場合は、協議書でどちらの話かを明確に書き分ける必要がある。運用が複雑になるため、分ける理由があるかを確認してから勧める。

「5年を過ぎたら財産分与は一切できませんか」
条文を正確に読む。768条2項ただし書が制限しているのは家庭裁判所に対する「協議に代わる処分」の請求だ。1項の請求そのものに期限は書かれていない。当事者間で合意できるなら、5年を過ぎても分与はできる。ただし相手が応じない場合の出口が閉じるので、実質的な期限として扱うのが実務になる。「一切できない」でも「期限なくできる」でもないと、正確に伝える。

説明で外したくないポイント

  1. 届出に必要なのは親権者の定めだけ(765条1項)。他は決めなくても離婚できてしまう。
  2. 親権者は双方または一方から選ぶ(819条1項)。性別で決まる規定はない。
  3. 766条1項の4項目:監護者・監護の分掌・父母と子の交流・養育費。子の利益を最優先。
  4. 監護者を定めても親権は動かない(766条4項)。
  5. 財産分与の家裁への請求は離婚から5年(768条2項ただし書)。2年ではない。
  6. 寄与の程度は明らかでなければ相等しい(768条3項後段)。
  7. 継続的な支払いがあるなら公正証書:不払いのときに裁判を経ずに進める。
  8. 届出より先に書面を作る

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
民法763条協議上の離婚夫婦は協議で離婚できる
民法765条離婚の届出の受理未成年の子がある場合、親権者の定めまたは指定を求める申立てがなければ受理できない。違反して受理されても離婚の効力は妨げられない
民法766条1項離婚後の子の監護に関する事項の定め等監護をすべき者・監護の分掌・父母と子の交流・監護に要する費用の分担。子の利益を最も優先して考慮する
民法766条2項〜4項同上協議が調わないときは家庭裁判所。変更もできる。監護の範囲外では父母の権利義務に変更を生じない
民法768条1項・2項財産分与相手方に分与を請求できる。家庭裁判所への協議に代わる処分の請求は離婚の時から5年まで
民法768条3項同上考慮する事情の列挙。寄与の程度は異なることが明らかでないときは相等しい
民法771条協議上の離婚の規定の準用766条から769条までを裁判上の離婚に準用
民法819条1項・5項〜7項離婚又は認知の場合の親権者協議で双方または一方を親権者と定める。協議に代わる審判。変更は家庭裁判所。判断の考慮事項
条文の記述は執筆時点のもの。行政書士は交渉の代理ができないため、当事者間で意見が分かれている事案は弁護士へおつなぎします。

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