【行政書士の実務】貸したお金が返らない──内容証明が証明するもの、しないもの
個人の依頼者から、こんな相談が届く。
「友人に30万円を貸したのですが、期日を過ぎても返してもらえません。返してほしいと伝えたいのですが、あとで証拠が残る形にしたいです。貸した日は今年の4月1日、返済期日は6月30日で、すでに過ぎています。」
行政書士の実務で、内容証明郵便の文面づくりはよく扱う仕事である。力になるのは、文面を整える前に「何を証明できる書面なのか」を正確に伝えられたときだ。この記事では、内容証明の性質、出すことで生じる法律上の効果、文面の組み立て、そして行政書士が引ける線までを通しで整理する。
まず結論:内容証明だけでは「届いたこと」を証明できない
依頼者は「証拠が残る形にしたい」と言っている。ここで内容証明が何を証明する取扱いなのかを、条文で確かめておきたい。
内容証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。(郵便法48条1項)
配達証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物を配達し、又は交付した事実を証明する。(郵便法47条)
| 取扱い | 証明されること | 条文 |
|---|---|---|
| 内容証明 | 文書の内容 | 48条1項 |
| 配達証明 | 配達し、又は交付した事実 | 47条 |
2つの条文が、証明する対象を別々に書いている。内容証明は内容を証明するだけで、届いたことは証明しない。
差出日については、内容証明の認証の中身に書かれている。郵便認証司の職務として、「当該郵便物の内容である文書に当該郵便物が差し出された年月日を記載すること」が挙がっている(郵便法58条1号)。いつ出したかは残る。
残らないのがいつ届いたかである。そして後で述べるとおり、効果はほとんど到達を起点に発生する。内容証明には配達証明を併せて付けるのが実務の型になる。
依頼者に「証拠が残る形に」と言われたとき、何の証拠が要るのかまで含めて答える。ここが最初の説明になる。
なぜ到達が起点になるのか
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。(民法97条)
1項が到達主義である。出した時ではなく届いた時に効力が生じる。だから到達の証明が要る。
2項も実務で効く。正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。受け取りを拒まれた場合の手当てが条文にある。
だから受け取ってもらえなかったときの記録も残しておく。差出の記録、郵便物の追跡の記録がそれにあたる。
3項は、通知を発した後に本人が亡くなっても効力が妨げられないとしている。
出すことで何が起きるか——3つの効果
依頼者は「返してほしいと伝えたい」と言っている。伝えること自体に、法律上の効果がある。
1.時効の完成猶予
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。(民法150条)
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。(民法166条1項)
150条2項が重要である。猶予されている間に再度催告をしても、効力は生じない。
つまり内容証明を繰り返し出しても、6箇月がその都度延びるわけではない。ここは相談者が誤解しやすい。
猶予される6箇月は次の手を打つための期間と考える。時効を更新するには、裁判上の請求などが要る(民法147条)。
そして猶予されるのは「完成」であって、時効そのものが振り出しに戻るわけではない。更新と猶予は別物である。この違いを最初に伝えておくと、後の日程の話が通じやすい。
2.履行遅滞の起算
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。(民法412条)
| 期限の定め | 遅滞になる時 |
|---|---|
| 確定期限(今回の6月30日) | 期限の到来した時。請求がなくても遅滞になる |
| 不確定期限 | 請求を受けた時/到来を知った時のいずれか早い時 |
| 期限を定めなかったとき | 請求を受けた時 |
今回の相談は1項にあたる。返済期日が6月30日と決まっているので、その日を過ぎた時点ですでに遅滞である。内容証明を出して初めて遅滞になるわけではない。
効いてくるのは期限を決めていなかった場合だ。3項により請求を受けた時から遅滞になる。その請求の到達を証明できる形にしておく意味がここにある。
だから面談では「返す日を決めていましたか」を必ず聞く。決めていた/決めていなかったで、内容証明の意味合いが変わる。
3.催告による解除(契約の場面)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。(民法541条)
本文の「相当の期間を定めて」が、文面の期限の設定につながる。相当と言えない短さでは、この条文の催告にならない。
そしてただし書。期間を経過した時の不履行が軽微であるときは解除できない。解除まで見据える場面では、不履行の程度も文面で特定しておく。
今回は貸金の返還請求なので解除の場面ではないが、売買や賃貸借の相談では、この条文が文面の設計を決める。
文面に入れる要素
| 要素 | 書くこと | 効いてくる条文 |
|---|---|---|
| 当事者 | 誰から誰への通知か | 民法97条1項(到達の相手方) |
| 発生した事実 | いつ、いくらを、どういう約束で渡したか | 債権の特定 |
| 期限の定め | 返済期日を定めたか、定めたならいつか | 民法412条1項〜3項 |
| 現在の状態 | 期日を経過しても履行がないこと | 民法541条(不履行の特定) |
| 請求 | いくらを、いつまでに、どこへ支払うか | 民法150条1項(催告) |
| 期限 | 本書面到達後◯日以内、という起算のはっきりした形 | 民法541条(相当の期間) |
| 今後 | 支払いがない場合に検討すること | — |
期限を「本書面到達後7日以内」と書くのには理由がある。到達を起点にすれば、配達証明の日付から期限が確定する。
「◯月◯日までに」と暦の日で書くと、配達が遅れた場合に相当の期間と言えなくなることがある。到達を起点にすれば、その心配がない。
金額は元本と、遅延損害金を請求するならその旨を分けて書く。今回は確定期限を過ぎているので、遅滞はすでに始まっている。
文面の例
私は貴殿に対し、本年4月1日、金30万円を、返済期日を本年6月30日と定めて貸し付けました。
しかし、返済期日を経過した現在に至るも、ご返済いただけておりません。
つきましては、本書面到達後7日以内に、上記金30万円を下記口座までお支払いくださいますよう請求いたします。万一お支払いいただけない場合は、法的手続きを検討せざるを得ないことを申し添えます。
事実を特定し、期限を切り、請求する。感情を書き込まないほうが、後で書面として使いやすい。
行政書士がどこまで扱えるか
ここは条文で線を引いておきたい。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類……その他権利義務又は事実証明に関する書類……を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。(行政書士法1条の3)
行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。(行政書士法1条の4第1項)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求……その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。(弁護士法72条)
行政書士法の2つの条文が、どちらも他の法律による制限を留保している。1条の3第2項と、1条の4第1項ただし書だ。
その制限にあたるのが弁護士法72条である。
整理すると、書類を作ることと、その後の交渉をすることは別になる。文面の作成と相談は行政書士法1条の3・1条の4第1項3号4号の範囲だが、相手方と交渉して和解をまとめるところは72条の「法律事務」にあたる。
だから相談の最初に「相手と話し合う段になったら、弁護士におつなぎします」と伝えておく。後から線を引くより、最初に引くほうが依頼者のためになる。
1条の4第1項2号の不服申立ての代理は、同条2項により特定行政書士に限られている。こちらは行政庁に対する手続きの話で、今回の場面とは別の系統になる。
相談の進め方——この順番で確認する
- 返す日を決めていたかを聞く。決めていたなら、すでに遅滞である(民法412条1項)。
- 証拠になるものを確認する。借用書、振込の記録、やり取りの記録。
- いつから数えて何年かを確認する(民法166条1項)。時効が近いかどうかで打つ手が変わる。
- 相手の住所を確認する。到達しなければ効力が生じない(民法97条1項)。
- 文面を作る。事実の特定→請求→期限→今後。
- 期限を到達起点で書く。「本書面到達後◯日以内」(民法541条)。
- 配達証明を付けて差し出す(郵便法47条)。
- 差出の控えと配達証明を保管する。
- 6箇月の期限を控えておく。猶予されるのはこの間だけで、再度の催告に効力はない(民法150条)。
- 次の手を決めておく。交渉の段になったら弁護士へつなぐ(弁護士法72条)。
プロならこう説明する
「証拠が残る形に」というご希望でしたので、内容証明で何が残って、何が残らないかを先にお伝えします。
郵便法に、内容証明は「文書の内容を証明する」取扱いだと書かれています。どんな文面を出したかは残ります。差し出した年月日も、文書に記載されます。
ところが、相手に届いたことは、内容証明では証明されません。届いた事実を証明するのは配達証明という別の取扱いです。
これが大事なのは、民法で、通知は相手に届いた時から効力が生じると決まっているからです。ですので、配達証明を必ず併せてお付けします。
次に、出すことで何が起きるかをご説明します。
1つめが時効です。請求をすると、その時から6箇月の間は時効が完成しません。
ここで1つ、押さえておいていただきたいことがあります。この6箇月の間にもう一度出しても、期間は延びません。条文にそう書かれています。
ですので、この6箇月は次の手を打つための時間とお考えください。時効を仕切り直すには、裁判上の請求などが必要になります。
2つめが遅れの責任です。今回は6月30日という返済期日を決めていらっしゃるので、その日を過ぎた時点ですでに遅れの責任が生じています。内容証明を出して初めて、というわけではありません。
反対に、返す日を決めていなかった場合は、請求が届いた時から遅れの責任が生じます。この場合、届いたことの証明がそのまま効いてきます。
文面についてです。いつ・いくらを・どういう約束で貸したか、期日を過ぎても返済がないこと、いつまでに・いくらを・どこへ払ってほしいかを、順に書きます。
期限は「本書面到達後7日以内」という形にします。暦の日で書きますと、配達が遅れたときに期間が短くなってしまうためです。
お気持ちの部分は、あえて書きません。事実と請求だけのほうが、後で書面として使いやすいためです。
最後に、私がお手伝いできる範囲を申し上げます。文面をお作りすることと、書き方のご相談をお受けすることは、行政書士の業務です。
一方で、相手の方と話し合って条件をまとめるところは、弁護士法で弁護士の業務とされています。その段になりましたら、弁護士をご紹介します。先にお伝えしておきます。
では、借用書やお振込の記録と、相手の方の現在のご住所をご用意ください。文面をお作りします。
よくある質問と、その答え方
「内容証明を出せば、届いたことも証明できますよね」
できない。郵便法48条1項は内容証明を「内容である文書の内容を証明する」取扱いとしており、配達については47条が配達証明を別に定めている。証明する対象が条文上分かれている。民法97条1項が到達した時から効力を生ずるとしている以上、配達証明を併せて付けるのが実務になる。差し出した年月日は、郵便認証司の認証の中で文書に記載される(郵便法58条1号)。
「時効が近いので、半年ごとに内容証明を出し続ければよいですか」
それでは延びない。民法150条2項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない」としている。猶予される6箇月は1回きりと考える。時効を更新するには裁判上の請求などが要る(147条)。6箇月は、次の手を決めて動くための期間である。
「相手が受け取りを拒んだら、無駄になりますか」
そうとは限らない。民法97条2項は「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」としている。妨げられた場合の手当てが条文にある。だから差出の控えと、郵便物がどう扱われたかの記録を残しておく。
「そのまま相手と話をつけてもらえますか」
そこは弁護士の業務になる。行政書士法1条の3第2項は「その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」とし、1条の4第1項もただし書で同じ留保を置いている。弁護士法72条が報酬を得る目的で法律事件に関して代理・和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じている。文面の作成と相談までを行政書士が担い、交渉は弁護士へつなぐ。
説明で外したくないポイント
- 内容証明が証明するのは文書の内容(郵便法48条1項)。
- 届いたことを証明するのは配達証明(同47条)。必ず併せる。
- 差出年月日は文書に記載される(同58条1号)。
- 通知は到達した時から効力を生ずる(民法97条1項)。妨げられた場合の手当てもある(同2項)。
- 催告で6箇月の完成猶予。再度の催告に効力はない(民法150条)。
- 確定期限があれば期限の到来で遅滞、期限を定めなければ請求を受けた時から(民法412条1項・3項)。
- 解除の催告は相当の期間を定めて。軽微なときは解除できない(民法541条)。
- 期限は到達を起点に書く。配達証明の日付から確定する。
- 文面の作成と相談は行政書士、交渉は弁護士(行政書士法1条の3第2項・1条の4第1項、弁護士法72条)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 郵便法47条 | 配達証明 | 配達し、又は交付した事実を証明する |
| 郵便法48条1項 | 内容証明 | 内容である文書の内容を証明する |
| 郵便法58条1号 | 郵便認証司の職務 | 差し出された年月日を文書に記載する |
| 民法97条 | 意思表示の効力発生時期等 | 1項 到達主義/2項 到達を妨げたときのみなし/3項 発信後の死亡等 |
| 民法147条 | 裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新 | 更新には裁判上の請求等が要る |
| 民法150条 | 催告による時効の完成猶予 | 1項 6箇月の完成猶予/2項 再度の催告に効力なし |
| 民法166条1項 | 債権等の消滅時効 | 知った時から5年/行使できる時から10年 |
| 民法412条 | 履行期と履行遅滞 | 確定期限/不確定期限/期限を定めなかったときの起算 |
| 民法541条 | 催告による解除 | 相当の期間を定めた催告。ただし書で軽微な不履行を除く |
| 行政書士法1条の3 | 業務 | 権利義務又は事実証明に関する書類の作成。2項で他の法律による制限 |
| 行政書士法1条の4第1項 | — | 3号 代理人として作成/4号 作成についての相談。ただし書で他の法律による制限 |
| 弁護士法72条 | 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止 | 報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を業とすることの禁止 |