【行政書士の実務】クーリング・オフはどう出す?──期間と発信主義を説明する
訪問販売で契約してしまった方から、相談が届く。
「自宅に来た業者から、その場で契約書にサインしてしまいました。後から考えると必要のないものでした。クーリング・オフができると聞いたのですが、どうすればよいのでしょうか。契約したのは6日前です。」
行政書士の実務で、クーリング・オフ通知の作成は相談の入口になる。力になるのは、こうして期間の起算と、通知の出し方を正確に渡せたときである。この記事では、取引類型ごとの期間、通知の方法、効力が生じる時点、そして事業者に請求されないものまでを通しで整理する。
まず結論:期間は取引の種類で8日と20日に分かれる
| 取引の類型 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 訪問販売 | 8日 | 特定商取引法9条1項ただし書 |
| 電話勧誘販売 | 8日 | 同法24条 |
| 特定継続的役務提供 | 8日 | 同法48条 |
| 訪問購入 | 8日 | 同法58条の14 |
| 連鎖販売取引 | 20日 | 同法40条 |
| 業務提供誘引販売取引 | 20日 | 同法58条 |
この表は法定書面の受領を起算点とする類型で揃えている。通信販売は別のしくみになる。
……その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除……を行うことができる。ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合……には、この限りでない。(特定商取引法15条の3第1項)
起算点が商品の引渡しを受けた日で、しかも広告に特約を表示していれば適用されない。上の表と同じ列に並べると誤解を生むので、別のしくみとして分けて扱う。
8日が4類型、20日が2類型という分かれ方だ。20日になるのは連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引で、いずれも「儲かる」という誘い方をする取引にあたる。判断に時間がかかる性質のものに、長い期間が置かれている。
相談者は訪問販売なので8日。契約から6日なので、まだ期間内の可能性がある。ただし起算点を確認する必要がある。
起算点は「書面を受領した日」
ただし、申込者等が第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合……においては、この限りでない。(特定商取引法9条1項ただし書)
起算点は契約した日ではなく、法定の書面を受領した日だ。
| 書面 | 内容 |
|---|---|
| 4条1項の書面 | 申込みを受けたときに交付する申込書面 |
| 5条1項・2項の書面 | 契約を締結したときに交付する契約書面 |
条文は5条の書面を受領した日を原則とし、その日より前に4条の書面を受領していれば、そちらの日から数えるとしている。早いほうから起算するという構造だ。
だから相談では「いつ契約しましたか」ではなく「書面をいつ受け取りましたか」と聞く。
さらに重要な点がある。書面が交付されていない、または記載事項に不備がある場合、期間が進まないと解されている。「もう8日過ぎた」と思っている相談者でも、書面を確認すると期間が始まっていないことがある。
期間が過ぎたと思っても、まず書面を見せてもらう。これが相談の実務でいちばん効く動きになる。
ただし書には、期間が延びる場合も定められている。事業者が6条1項に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げたことにより誤認した場合、または6条3項に違反して威迫したことにより困惑した場合で、それにより期間内に撤回等を行わなかったときは、事業者が撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日になる(9条1項ただし書かっこ書)。
「クーリング・オフはできません」と言われて信じたという事案は、この定めに当たり得る。期間が過ぎていても諦めない材料になる。
通知は書面または電磁的記録で
……書面又は電磁的記録……によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除……を行うことができる。(特定商取引法9条1項本文)
条文は書面または電磁的記録としている。口頭ではできない。
電磁的記録が加わったのは近年の改正による。電子メールなどでも可能だが、相手方が受け取ったこと、送った内容を後で示せることが実務では重要になる。
発した時に効力が生じる
申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。(特定商取引法9条2項)
これが発信主義だ。民法97条1項の到達主義(意思表示は相手方に到達した時から効力を生ずる)に対する特則になる。
実務での意味は大きい。期間の最終日に発送すれば、相手に届くのが期間経過後でも間に合う。相談者が「明日で8日目です」という状況でも、その日のうちに発送すれば効力が生じる。
だからこそ「発した」ことを証明できる形が要る。書面なら特定記録郵便や簡易書留、確実にするなら内容証明郵便を使う。いつ、何を、誰に送ったかが残る。
電子メールで送る場合も、送信日時と内容が残る形にする。送信済みフォルダの保存だけでなく、自分にも同報しておくといった手当てをする。
事業者が請求できないもの
9条は、撤回等の後の関係も定めている。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 3項 | 販売業者等は、損害賠償又は違約金の支払を請求することができない |
| 4項 | 商品の引渡し・権利の移転が既にされているとき、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担 |
| 5項 | 既に商品が使用され、権利が行使され、役務が提供されたときでも、使用により得られた利益や役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない |
5項が強い。すでに使ってしまった商品でも、使用利益の支払を請求されない。役務の提供を受けていても、その対価を請求されない。
相談では「もう使ってしまったので無理ですよね」と言われることが多い。条文はそう書いていない。使ったかどうかは、クーリング・オフの可否に影響しない。
4項も伝える。商品を返す送料は事業者の負担だ。「着払いで送ってよい」という案内になる。相談者が自腹で送ってしまう前に伝える。
通知に書くこと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 宛先 | 販売業者等の名称・住所。担当者名だけにしない |
| 表題 | 「契約解除通知書」など |
| 契約年月日 | 契約書に記載された日 |
| 商品名・役務の内容 | 特定できるように |
| 契約金額 | |
| 意思表示 | 契約を解除する(申込みを撤回する)旨を明確に |
| 支払済みの金銭 | 返還を求める旨 |
| 商品の引取り | 引き取りを求める旨 |
| 作成日・氏名・住所 | 作成日は発送日と合わせる |
クレジット契約を利用している場合は、信販会社にも同時に通知する。販売業者へ出すだけでは、支払の請求が止まらないことがある。
適用されない場合
26条が適用除外を定めている。すべての訪問販売にクーリング・オフができるわけではない。
実務でよく問題になるのが、営業のため若しくは営業として締結する取引だ。事業者が事業のために契約した場合、消費者保護の規定が適用されないことがある。
相談者が個人事業主で、事務所に来た業者と契約した、という事案では「その契約は事業のためのものか」を確認する。自宅兼事務所という形は判断が分かれるので、慎重に見る。
ほかにも、政令で定める消耗品を使用した場合や、3,000円未満の現金取引など、適用が除かれる場面がある。「訪問販売なら必ずできる」とは言わない。
対応の手順——この順番で進める
- 契約書と受け取った書面をすべて見せてもらう。いつ受け取ったかを確認する(9条1項ただし書)。
- 書面の記載事項に不備がないか確認する。不備があれば期間が進んでいない可能性がある。
- 取引の類型を特定する。8日か20日か。
- 適用除外に当たらないか確認する(26条)。事業のための契約でないか。
- 期間内かを計算する。受領日を1日目として数える(「起算して」)。
- 期間が過ぎていても、不実告知や威迫がなかったか聞く(9条1項ただし書かっこ書)。
- 通知書を作る。書面または電磁的記録で(9条1項本文)。
- 発送する。発した時に効力が生じる(9条2項)。証拠が残る方法で。
- クレジット契約があれば信販会社にも通知する。
- 商品の返還は着払いでよいと伝える(9条4項)。
プロならこう説明する
まず、お持ちの書類をすべて見せていただけますか。契約書だけでなく、その場で渡された紙は全部お願いします。
理由をご説明します。クーリング・オフの期間は、契約した日からではなく、法律で決められた書面を受け取った日から数えます。
訪問販売の場合は8日です。6日前のご契約とのことですので、期間内である可能性が高いです。ただ、書面をお受け取りになった日を確認させてください。
それから、もう1つ大事な点があります。渡された書面に必要な記載が欠けている場合、そもそも期間が始まっていないと考えられています。ですので、書面の中身を確認します。
次に、出し方です。電話で伝えるだけでは足りません。法律は書面または電磁的記録による通知を求めています。
ここで、いちばんお伝えしたいことがあります。この通知は、出した時点で効力が生じます。相手に届いた時ではありません。
ですので、期間の最終日に発送しても間に合います。相手方に届くのがその後になっても大丈夫です。
ただし、「いつ出したか」を後で示せる形にしておく必要があります。内容証明郵便でお出しになるのが最も確実です。書留や特定記録でも記録は残ります。
ご心配な点についてもお答えします。
解約したことで、違約金や損害賠償を請求されることはありません。法律で、事業者は請求できないと定められています。
それから、もう商品を開けてしまった、使ってしまった、という場合でも大丈夫です。使ったことで得た利益を払え、という請求もできないことになっています。
商品を返す送料も、事業者の負担です。着払いでお送りいただいて構いません。ご自身で送料を負担される必要はありません。
1点、確認させてください。お支払いにクレジットをお使いになりましたか。その場合は、販売した会社だけでなく信販会社にも同じ通知を出します。販売会社にだけ出しますと、引き落としが続いてしまうことがあります。
通知書の文案をお作りします。今日中に発送できるように進めましょう。日数に余裕があっても、早いほうが確実です。
よくある質問と、その答え方
「もう8日過ぎてしまいました。手遅れですか」
まず書面を確認する。法定の書面が交付されていない、または記載事項に不備がある場合、期間が進んでいないと解されている。また9条1項ただし書のかっこ書は、事業者が撤回等に関する事項につき不実のことを告げたり威迫したりしたことで期間内に行わなかった場合、あらためて交付された書面を受領した日から8日としている。「クーリング・オフはできない」と言われた事案は、ここに当たり得る。日数だけで諦めさせない。
「電話で解約すると伝えました。それで足りますか」
足りない。9条1項は書面又は電磁的記録により行うと定めている。電話は含まれない。すぐに書面または電子メール等で出し直す。なお2項の発信主義により発した時に効力が生じるので、期間内に出せば間に合う。電話で伝えた事実も記録しておくと、経緯の説明に使える。
「事業で使うために買いました。できますか」
確認が要る。26条が適用除外を定めており、営業のため若しくは営業として締結する取引は対象から外れることがある。ただし個人事業主が事業と関係の薄いものを購入した場合など、判断が分かれる事案もある。「事業者だからできない」と即答しない。契約の目的と使用の実態を聞いたうえで、必要なら消費生活センターへつなぐ。
説明で外したくないポイント
- 8日が4類型、20日が2類型:連鎖販売と業務提供誘引販売が20日。
- 起算点は書面を受領した日:契約した日ではない(9条1項ただし書)。
- 書面の不備があれば期間が進まない:期間が過ぎたと思っても書面を見る。
- 通知は書面または電磁的記録:口頭は不可(9条1項本文)。
- 発した時に効力が生じる:最終日の発送で間に合う(9条2項)。
- 損害賠償・違約金を請求されない(9条3項)。
- 返還の費用は事業者負担:着払いでよい(9条4項)。
- 使ってしまっても使用利益を請求されない(9条5項)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 特定商取引法9条1項 | 訪問販売における契約の申込みの撤回等 | 書面または電磁的記録により行う。5条の書面(先に4条の書面があればその日)の受領から起算して8日。不実告知・威迫があった場合の起算の特則 |
| 特定商取引法9条2項 | 同上 | 通知を発した時に効力を生ずる |
| 特定商取引法9条3項〜5項 | 同上 | 損害賠償・違約金の請求不可。引取り・返還の費用は販売業者の負担。使用利益等の請求不可 |
| 特定商取引法24条 | 電話勧誘販売における契約の申込みの撤回等 | 8日 |
| 特定商取引法26条 | 適用除外 | 営業のため若しくは営業として締結する取引ほか |
| 特定商取引法40条 | 連鎖販売契約の解除等 | 20日 |
| 特定商取引法48条 | 特定継続的役務提供等契約の解除等 | 8日 |
| 特定商取引法58条 | 業務提供誘引販売契約の解除 | 20日 |
| 特定商取引法58条の14 | 訪問購入における契約の申込みの撤回等 | 8日 |
| 特定商取引法15条の3第1項 | 通信販売における契約の解除等 | 商品の引渡し等を受けた日から起算して8日。広告に特約を表示していた場合は適用しない |
| 民法97条1項 | 意思表示の効力発生時期等 | 到達主義(特商法9条2項の発信主義との対比) |