【FP3級の実務】病気で長く休むとき、収入はどうなる?──「いつからいつまで」の形を伝える
体調を崩して休職することになった相談者から、こんな相談が届く。
「しばらく仕事を休むことになりました。給料が止まると、住宅ローンも生活費もどうなるのか不安です。何かもらえる制度はありますか。」
FPの実務で、この場面はまず使える制度を並べるところから始まる。ただ、相談者がいちばん知りたいのは金額そのものより「いつから入って、いつまで続くのか」である。家計の見通しは、そこが決まらないと立たない。この記事では、その形を条文から整理する。
まず結論:入口と出口が、条文で決まっている
被保険者(任意継続被保険者を除く。……)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなつた日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
4 傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。(健康保険法99条1項・4項)
| 条文の言葉 | やさしい言い方 | |
|---|---|---|
| 入口 | 労務に服することができなくなつた日から起算して三日を経過した日から | 休み始めて4日目から |
| 出口 | 支給を始めた日から通算して一年六月間 | 受け取った日を足していって1年6か月分まで |
相談者に最初に渡すのは、この2つである。「4日目から始まって、受け取った分を足して1年6か月まで」。
この形が分かると、家計の見通しを立てられる。金額は保険者に確認すればよいが、期間の形は先に渡せる。
そして最初の3日分は出ない。ここも先に伝えておく。後から知ると「聞いていない」になる。
「通算」がいちばん大事
4項の「通算して」という言葉が、この制度のいちばんの特徴である。
連続している必要がない。受け取った日を足していって、合計で1年6か月分という数え方になる。
だからいったん復職して、また休むことになった場合、残りの期間を使える。カレンダーで1年6か月経ったら終わり、ではない。
これは復職を試しやすくするための仕組みである。相談者に伝えると、「治りきっていないのに戻らなければ」という焦りが減ることがある。
やさしく伝えるなら「日数を貯金のように使っていくイメージです。途中で復帰されても、残りは残ります」という言い方になる。
ただし同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病についての1年6か月である。別の病気なら、また別に数える。
対象になるのは「仕事以外」の病気やけが
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害……以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い……(健康保険法1条)
健康保険の目的規定が「業務災害……以外の」としている。
だから仕事中や通勤中のけがは、健康保険ではなく労災保険の話になる。制度がまるごと変わる。
相談の入口で「お仕事中のことでしたか」を確かめる。ここを聞かずに傷病手当金の説明を始めると、全部やり直しになる。
労災保険のほうには休業補償の仕組みがあり、待期の日数の考え方も、期間の考え方も違う。「そちらは別にご説明します」と切り替える。
給与が出ている間は、その分だけ調整される
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき……は、その差額を支給する。(健康保険法108条1項)
「支給しない。ただし……差額を支給する」という形である。
だから「給与が少しでも出たら1円も出ない」ではない。手当金のほうが多ければ、その差額が出る。
会社によっては休職中に給与の一部が出ることがある。相談者は「会社から出るなら、こちらはもらえない」と思っていらっしゃることが多い。ここは確かめる価値がある。
3項には障害厚生年金との調整も置かれていて、こちらも同じ「支給しない。ただし……差額を支給する」の形になっている。
やさしく伝えるなら「会社から出る分があれば、その分は引かれます。ただし引いて残る分は出ます」という形になる。
退職したらどうなるか——2つの条文を分けて読む
ここは相談で必ず聞かれるところである。2つの条文が別のことを言っているので、分けて押さえる。
被保険者の資格を喪失した日……の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であつた者……であつて、その資格を喪失した際に傷病手当金……の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであつた期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。(健康保険法104条)
| 場面 | 結論 | 条文 |
|---|---|---|
| 退職時にすでに受けている/退職前日まで1年以上被保険者だった | 退職後も続けて受けられる | 104条 |
| 退職後に任意継続被保険者になって、そこから新たに受けようとする | 受けられない | 99条1項かっこ書 |
この2つは別の話である。
104条は「その資格を喪失した際に……支給を受けているもの」を対象にしている。退職する時点ですでに受けていることが条件である。
一方、99条1項のかっこ書は「任意継続被保険者を除く」としている。任意継続の資格で新たに受け始めることはできない。
だから「健康保険を任意継続すれば、これから病気になっても傷病手当金がもらえる」ということにはならない。ここは誤解が多い。
104条の条件も細かい。資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であったこと。しかもかっこ書で任意継続被保険者を除いて数える。
相談では「いま加入されてから、どのくらい経ちますか」を伺う。1年に満たない場合は、104条が使えない。
そして「被保険者として受けることができるはずであつた期間」とあるとおり、期間が延びるわけではない。通算1年6か月の残りを、退職後も受けられるという意味である。
やさしく伝えるための言い換え
| 条文の言葉 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 労務に服することができない | お仕事を休まれている |
| 三日を経過した日から | 4日目から |
| 通算して一年六月間 | 受け取った日を足して1年6か月分まで |
| 報酬との調整 | 会社から出る分は引かれる(引いて残る分は出る) |
| 資格喪失後の継続給付 | 退職しても続けて受けられる場合がある |
| 任意継続被保険者 | 退職後もご自身で健康保険を続けている状態 |
ここでも短くしないのが原則である。条文の短い言葉を、長いふつうの言葉にほどく。
そして金額の計算式は言わない。「おおよそ給与の3分の2くらいですが、正確な額は保険者にご確認ください」で足りる。計算方法は条文にあるが、それを口頭で説明しても伝わらないし、覚えていただく必要もない。
FPが渡すのは「いつから、いつまで、いくらくらい」の見取り図である。正確な数字は保険者が出す。
案内の順番——この順で伝える
- お仕事中のことかを確かめる(健保法1条)。労災なら別の説明になる。
- 4日目からと伝える(同法99条1項)。最初の3日は出ない。
- 通算1年6か月と伝える(同条4項)。連続でなくてよい。
- 会社から給与が出るかを確認する(同法108条1項)。出ても差額は出る。
- 退職のご予定を伺う。104条が使えるか。
- 加入からの期間を伺う。1年以上か(同条)。
- 任意継続との違いを伝える。新たには受けられない(同法99条1項かっこ書)。
- 金額は保険者に確認していただく。
- 手続きは勤務先か保険者に。申請書に事業主と医師の記入欄がある。
- 家計の見通しを立てる。ここからがFPの仕事になる。
プロならこう説明する
ご不安なところ、まずお使いいただける制度からご説明します。健康保険から「傷病手当金」というものが出ます。
その前に、1つだけ確認させてください。お仕事中や通勤中のおけがではありませんか。
もしそうでしたら、健康保険ではなく労災保険のお話になりまして、内容がまるごと変わります。……そうではないのですね。では、健康保険のほうでご説明します。
いちばん知りたいのは「いつから、いつまで」だと思いますので、そこからお伝えします。
始まるのは、お休みになってから4日目です。法律に「3日を経過した日から」と書かれています。最初の3日分は出ません。ここは先にお伝えしておきます。
続くのは、受け取った日を足して1年6か月分までです。
ここが大事なところで、カレンダーで1年6か月ではありません。法律に「通算して」と書かれています。
つまり途中で復帰されて、また休まれることになっても、残りの日数は残ります。日数を貯金のように使っていくイメージです。
ですので、「治りきっていないのに戻らなければ」とお考えになる必要はありません。体調を見ながら、無理のない形で進めていただけます。
金額についてです。おおよそ、お給料の3分の2くらいとお考えください。正確な額は、ご加入の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)で出していただきます。計算方法が細かく決まっていますので、そちらのほうが確実です。
それと、会社からお給料の一部が出る場合についてです。
「会社から出るなら、こちらはもらえない」とお考えの方が多いのですが、そうとは限りません。法律に「支給しない。ただし……その差額を支給する」と書かれています。
つまり会社から出る分は引かれますが、引いて残る分は出ます。お勤め先の休職中の扱いを、就業規則でご確認いただけますか。
最後に、退職された場合についてお伝えします。ここは2つに分かれます。
1つめ。退職される時点ですでに受け取っていらっしゃって、退職の前日まで1年以上健康保険に入っていらっしゃった場合は、退職後も続けて受けられます。
ただし期間が延びるわけではありません。1年6か月分の残りを、退職後も受けられるという意味です。
2つめ。退職後にご自身で健康保険を続けられた場合(任意継続)、そこから新たに受け始めることはできません。法律に、そのように書かれています。
ですので「健康保険を続けておけば、これから病気になっても大丈夫」ということにはなりません。ここは誤解されやすいところですので、お伝えしておきます。
では、ご加入からどのくらい経っていらっしゃいますか。1年以上かどうかで、退職された場合の扱いが変わります。
そこまで確認できましたら、いつからいくら入るかの見通しを作りましょう。住宅ローンのお支払いと合わせて、足りない時期があるかどうかを一緒に見ます。足りない時期が分かれば、そこだけ手を打てます。
よくある質問と、その答え方
「休んだ日から全部出るのですよね」
4日目からになる。健康保険法99条1項は「労務に服することができなくなつた日から起算して三日を経過した日から」としている。最初の3日分は出ない。ここは先に伝えておく——後から知ると「聞いていない」ということになってしまう。
「1年6か月経ったら、もう終わりですよね」
数え方が違う。同条4項は「支給を始めた日から通算して一年六月間」としている。「通算して」なので、受け取った日を足していって1年6か月分という数え方になる。途中で復職して、また休むことになっても、残りは残る。カレンダーで数えるのではない。復職を試しやすくする仕組みである。
「会社から給与が少し出るので、もらえませんよね」
そうとは限らない。同法108条1項は「支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が……算定される額より少ないときは、その差額を支給する」としている。会社から出る分は引かれるが、引いて残る分は出る。就業規則で休職中の扱いを確認していただく。
「退職しても健康保険を続ければ、傷病手当金ももらえますよね」
2つに分けて考える。退職の時点ですでに受けていて、前日まで1年以上被保険者だった場合は、104条により退職後も続けて受けられる(ただし期間が延びるわけではなく、通算1年6か月の残りを使う)。一方、任意継続の資格で新たに受け始めることはできない——99条1項のかっこ書が「任意継続被保険者を除く」としているためだ。「続けておけば、これから病気になっても大丈夫」ではない。
案内で外したくないポイント
- まず業務外かを確かめる(健保法1条)。業務上なら労災の話になる。
- 4日目から(同法99条1項)。最初の3日は出ないと先に伝える。
- 通算して1年6か月(同条4項)。連続でなくてよい。
- 同一の疾病等についての1年6か月。別の病気なら別に数える。
- 給与が出ても差額は出る(同法108条1項)。
- 障害厚生年金とも同じ形で調整(同条3項)。
- 退職時に受けていて、前日まで1年以上なら続けられる(同法104条)。
- ただし期間は延びない。通算1年6か月の残りを使う。
- 任意継続では新たに受けられない(同法99条1項かっこ書)。
- 金額は保険者に確認していただく。FPが渡すのは期間の見取り図。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 健康保険法1条 | 目的 | 業務災害以外の疾病・負傷等に関して保険給付を行う |
| 健康保険法99条1項 | 傷病手当金 | 3日を経過した日から。かっこ書で任意継続被保険者を除く |
| 健康保険法99条4項 | 同上 | 同一の疾病等について、支給を始めた日から通算して1年6月間 |
| 健康保険法104条 | 傷病手当金又は出産手当金の継続給付 | 資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者で、喪失の際に受けているとき |
| 健康保険法108条1項・3項 | 報酬等との調整 | 支給しない。ただし少ないときは差額を支給する |