【FP3級の実務】所得税と住民税、何が違う?──「いつの所得か」がいちばんの違い
働き始めたお客様から、こんな相談が届く。
「給料から『所得税』と『住民税』の両方が引かれていました。どちらも収入にかかる税金なのに、なぜ2つに分かれているのですか? この2つは何が違うのか、初心者にもわかるように教えてほしいです。」
FPの実務で、税の基本をやさしく伝える場面は多い。ここで力になるのは「いつの所得にかかるかが違います」と伝えられたときだ。この1点が分かると、働き始めた年に住民税が引かれない理由も、退職した翌年に驚く理由も、まとめて説明できる。この記事では、そこから整理する。
まず結論:住民税は「前年の所得」にかかる
所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。(地方税法32条1項)
「前年の所得」と条文に書かれている。ここがいちばんの違いである。
所得税はその年の所得にかかり、その年のうちに給与から引かれる(概算で引いて年末に精算する)。
住民税は前年の所得にかかり、その翌年度に納める。1年ずれている。
この1点で、いくつもの疑問がまとめて解ける。
- 働き始めた年に住民税が引かれないのはなぜか——前年に所得がなかったから
- 2年目から引かれる額が増えるのはなぜか——1年目の所得に対する住民税が始まるから
- 退職した翌年に住民税の通知が来るのはなぜか——在職中の所得に対するものだから
お客様は働き始めたばかりでいらっしゃる。「来年から、いまより引かれる額が増えます」と先にお伝えしておくと、2年目に驚かれない。これは実務で効く一言である。
税率の形が違う
居住者に対して課する所得税の額は、その年分の課税総所得金額……をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額……とする。(所得税法89条1項)
所得割の額は、課税総所得金額……の合計額に、百分の四(……指定都市……の区域内に住所を有する場合には、百分の二)の標準税率によつて定める率を乗じて得た金額とする。(地方税法35条1項=道府県民税)
所得割の額は、課税総所得金額……の合計額に、百分の六(……指定都市……の区域内に住所を有する場合には、百分の八)の標準税率によつて定める率を乗じて得た金額とする。(同法314条の3第1項=市町村民税)
| 税率の形 | |
|---|---|
| 所得税 | 金額を区分して、区分ごとに違う率を掛けて合計する |
| 住民税の所得割 | 合計額に、1つの率を掛ける |
条文の書き方がそのまま違う。所得税は「区分して……合計した」、住民税は「合計額に……乗じて得た」である。
だから所得税は所得が増えるほど率が上がるが、住民税の所得割は所得にかかわらず同じ率になる。
道府県民税4%と市町村民税6%を合わせて10%。指定都市では2%と8%だが、合計は同じ10%である。
やさしく伝えるなら「所得税は収入が増えると率が上がる階段になっていますが、住民税はどなたでも同じ率です」という形になる。
そして「標準税率」という言葉に注意したい。標準であって、自治体が変えられる。「原則はこの率ですが、お住まいによって違うことがあります」と添える。
住民税には「均等割」がある
道府県民税は、第一号に掲げる者に対しては均等割額及び所得割額の合算額により……課する。(地方税法24条1項)
個人の均等割の標準税率は、千円とする。(同法38条=道府県民税)
個人の均等割の標準税率は、三千円とする。(同法310条=市町村民税)
住民税は均等割と所得割の合算である。所得税にはない部分がある。
均等割は、所得の大きさによらず同じ額である。「そこに住んでいることに対する負担」という性格を持っている。
お客様に伝えるなら「住民税には、所得に応じた分と、みなさん同じ額の分の2つがあります」という形になる。
こちらも標準税率なので、自治体で変わりうる。また別に加算される仕組みが置かれている時期もあるので、金額は市区町村の資料で確認していただく。
計算のしかたは同じだが、控除の額が違う
前項の総所得金額……は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による……計算の例により算定するものとする。(地方税法32条2項)
「所得税法……の計算の例により算定する」とある。所得の計算のしかたは、基本的に同じである。
ところが冒頭に「この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか」とある。地方税法に別の定めがあれば、そちらによる。
実際、基礎控除や扶養控除などの金額は、所得税と住民税で違う。住民税のほうが小さいことが多い。
だから「所得税がかからないから住民税もかからない」とは限らない。控除の額が違うので、境目がずれる。
これは配偶者の働き方の相談で効いてくる。「税金の壁」が1つではない理由の1つがこれである。
数字は改正されるので言わない。「控除の額が少し違うので、境目もずれます」という構造だけを渡す。
納め方も違う
| 納め方 | |
|---|---|
| 所得税 | 毎月の給与から概算で引かれ、年末に精算される |
| 住民税 | 前年の所得が確定した後、6月から翌年5月にかけて引かれる |
所得税は年末調整で精算されるので、その年のうちに正しい額に落ち着く。
住民税は前年の所得が確定してから金額が決まるので、精算という考え方がない。決まった額を12回に分けて納める形になる。
だから住民税の額が変わるのは6月である。「6月に手取りが変わったのはなぜ」という質問は、これで説明できる。
そして退職された場合である。給与から引けなくなるので、ご自身で納める形に変わる。前年の所得に対する住民税が、収入のない時期に請求されることになる。
退職のご相談では、必ずこれを伝える。「退職された翌年に、住民税の納付書が届きます。その分を残しておいてください」——これを知らないと、生活が苦しくなる。
やさしく伝えるための言い換え
| 専門の言い方 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 所得割 | 所得に応じてかかる分 |
| 均等割 | みなさん同じ額でかかる分 |
| 課税標準 | 税を計算するもとになる金額 |
| 標準税率 | 原則の率(自治体で変わることがある) |
| 前年の所得について算定した | 去年の収入をもとに計算した |
| 特別徴収 | 給与から引かれる形 |
「所得割」「均等割」は音が似ていて、聞いただけでは区別できない。「所得に応じてかかる分」「みなさん同じ額でかかる分」とほどく。
そして「標準税率」は、「標準」を落とさずに言い換える。「原則の率です。お住まいによって違うことがあります」まで含めて1つの言い換えにする。
案内の順番——この順で伝える
- いつの所得にかかるかが違うと最初に伝える(地方税法32条1項)。
- 働き始めた年に引かれない理由を説明する。
- 来年から増えると先に伝えておく。
- 税率の形が違う(所法89条1項/地方税法35条・314条の3)。
- 合わせて10%だが標準税率であると添える。
- 均等割がある(地方税法24条・38条・310条)。
- 計算のしかたは同じだが、控除の額が違う(同法32条2項)。
- 納め方が違う。住民税は6月から翌年5月。
- 退職したときの注意を伝える。翌年に請求が来る。
- 数字は最新の資料で。改正され、自治体でも変わりうる。
プロならこう説明する
いいご質問だと思います。いちばん大きな違いからお伝えします。
いつの所得にかかるかが違います。
所得税は、その年の所得にかかります。ですので、いまお給料から引かれているのは今年の分です。
住民税は、前年の所得にかかります。法律に「前年の所得について算定した」と書かれています。1年ずれているのです。
この1点で、いくつものことが説明できます。
お客様は今年から働き始められたのですね。でしたらいま引かれている住民税は、ごく少ないか、無いはずです。前年に所得がなかったからです。
そして——ここが大事なのですが——来年から、いまより引かれる額が増えます。今年の所得に対する住民税が始まるからです。
先にお伝えしておきます。来年の6月ごろに手取りが減って驚かれる方が多いのですが、知っていれば準備できます。
次に、税率の形が違います。
所得税は、収入が増えると率が上がる階段になっています。法律も「金額を区分して、それぞれに税率を乗じて合計する」という書き方です。
住民税の所得に応じてかかる分は、どなたでも同じ率です。合わせて10%とお考えください。
ただし法律は「標準税率」という言い方をしていまして、自治体が変えられることになっています。原則の率、とお考えください。
それと、住民税には所得税にない部分があります。みなさん同じ額でかかる分です。所得の大きさによらず、そこにお住まいであることに対してかかります。
もう1つ、知っておいていただくとよいことがあります。
所得の計算のしかたは、基本的に所得税と同じです。法律にも「所得税法の計算の例により算定する」と書かれています。
ただし控除の金額が少し違います。住民税のほうが小さいことが多いです。
ですので「所得税がかからないから住民税もかからない」とは限りません。境目が少しずれます。将来ご家族の働き方をお考えになるときに、ここが効いてきます。
最後に、納め方です。
所得税は毎月だいたいの額を引いて年末に精算しますが、住民税は精算がありません。前年の所得で額が決まって、6月から翌年5月までの12回に分けて引かれます。
ですので6月に手取りが変わります。これも覚えておかれるとよいと思います。
そしていちばん気をつけていただきたいことを1つ。
お仕事を辞められた場合、翌年に住民税の納付書がご自宅に届きます。在職中の所得に対するものですので、収入がない時期に請求が来る形になります。
これを知らないと、その時期に生活が苦しくなります。いますぐのお話ではありませんが、転職や退職をお考えになるときは、この分を残しておいてください。
よくある質問と、その答え方
「なぜ働き始めた年は住民税が引かれないのですか」
住民税が前年の所得にかかるからである。地方税法32条1項は「所得割の課税標準は、前年の所得について算定した……金額とする」としている。前年に所得がなければ、その分の住民税は生じない。そして来年から引かれる額が増えるので、先に伝えておくと2年目に驚かれない。
「住民税も収入が増えると率が上がりますよね」
所得割は同じ率である。所得税法89条1項は「金額を区分して……税率を乗じて計算した金額を合計した金額」という階段の形だが、地方税法35条1項・314条の3第1項は「合計額に……率を乗じて得た金額」という1つの率の形になっている。道府県民税4%と市町村民税6%で合わせて10%(指定都市では2%と8%で合計は同じ)。ただし「標準税率」なので自治体が変えられる。
「所得税がかからないなら、住民税もかかりませんよね」
限らない。地方税法32条2項は所得の計算を「所得税法……の計算の例により算定する」としているが、冒頭に「この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか」とある。実際に基礎控除や扶養控除などの金額は所得税と住民税で違い、住民税のほうが小さいことが多い。境目がずれるので、配偶者の働き方の相談ではここが効く。さらに均等割という別の部分もある。
「退職したら、税金は引かれなくなりますよね」
住民税は翌年に請求が来る。前年の所得に対するものなので、収入がない時期に納付書が届く形になる。給与から引けなくなるため、ご自身で納めることになる。退職や転職のご相談では、必ずこれを伝える——知らないと、その時期に生活が苦しくなる。「その分を残しておいてください」まで言う。
案内で外したくないポイント
- 住民税は前年の所得にかかる(地方税法32条1項)。いちばんの違い。
- 働き始めた年は引かれない。前年に所得がないから。
- 来年から増えると先に伝える。2年目に驚かせない。
- 所得税は階段、住民税の所得割は1つの率(所法89条/地方税法35条・314条の3)。
- 合わせて10%。ただし標準税率で自治体が変えられる。
- 住民税には均等割がある(地方税法24条・38条・310条)。
- 所得の計算は同じだが控除の額が違う(同法32条2項)。境目がずれる。
- 住民税に精算はない。6月から翌年5月の12回。
- 6月に手取りが変わるのはそのため。
- 退職の翌年に納付書が届く。残しておくよう伝える。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 所得税法89条1項 | 税率 | 金額を区分して、区分ごとの税率を乗じて合計する |
| 地方税法24条1項/294条1項 | 納税義務者等 | 均等割額及び所得割額の合算額により課する |
| 地方税法32条1項 | 所得割の課税標準 | 前年の所得について算定した金額 |
| 地方税法32条2項 | 同上 | 所得税法の計算の例により算定する。ただし特別の定めがある場合を除く |
| 地方税法35条1項 | 所得割の税率(道府県民税) | 百分の四(指定都市は百分の二)の標準税率 |
| 地方税法314条の3第1項 | 所得割の税率(市町村民税) | 百分の六(指定都市は百分の八)の標準税率 |
| 地方税法38条/310条 | 個人の均等割の税率 | 標準税率は千円/三千円 |