【FP3級の実務】投資の前に準備することは?──「何か月分」の数字がどこから来るか
投資を始めたいお客様から、こんな相談が届く。
「将来のために投資を始めてみたいと思っています。ただ、いきなり全部を投資に回して大丈夫なのか不安です。貯金は少しだけで、急な出費への備えはありません。始める前に準備しておくべきことがあれば教えてください。」
FPの実務で、投資の前の土台づくりを伝える場面は多い。ここで力になるのは「生活費の◯か月分です」と数字を答えることではなく、その数字がどこから来るかを説明できたときだ。月数は人によって違い、決め方が分かれば、ご自身で出せる。この記事では、そこから整理する。
まず結論:何のためのお金かを決める
生活防衛資金は「万が一のためのお金」と説明されることが多いが、これでは曖昧すぎる。いくら必要かが決まらない。
もう少し絞ると、2つのためである。
- 収入が止まったときに、次に入るまでの間、生活を止めないため
- 急な出費が来たときに、借りずに、また運用中のものを取り崩さずに済ませるため
この2つに絞ると、金額が計算できるようになる。「収入が止まってから、次が入るまで何か月か」と、「その間の生活費はいくらか」を掛ければよい。
だから「◯か月分」という数字は、人によって違う。一般的な目安をそのまま当てはめない。
月数は「収入の止まり方」で決まる
| お立場 | 収入が止まったときに支えるもの | 月数の考え方 |
|---|---|---|
| 会社員(病気で働けない) | 傷病手当金が支える(待期の後) | その分、短めでも回りやすい |
| 会社員(退職・転職) | 雇用保険の給付。すぐには入らない | 入るまでの期間を見る |
| 自営業 | 傷病手当金がないことがほとんど | 長めに見る |
月数の根拠は、公的な支えがどれだけあるかである。
会社員の方が病気で働けなくなった場合は、健康保険から傷病手当金が出る。ただしすぐには始まらない——休み始めて数日は出ないし、手続きから振り込みまでにも時間がかかる。
退職や転職の場合は雇用保険の給付があるが、手続きから支給までに時間がかかる。しかも退職の翌年には住民税の請求が来る——前年の所得に対するものだからである。
自営業の方は、国民健康保険に傷病手当金がないことがほとんどである。働けなくなると、収入がそのまま止まる。だから長めに見る。
この対応関係を渡すと、お客様がご自身で月数を決められるようになる。数字より、決め方を渡す。
置き場所は「すぐ動かせる」ことが条件
生活防衛資金は増やすためのお金ではない。必要なときにすぐ使えることが、いちばんの条件である。
だから普通預金など、すぐ引き出せる形で持つ。金利の高さで選ばない。
ここは0129で見た「金利と引き出しやすさの交換」そのものである。生活防衛資金では、引き出しやすさのほうを選ぶ。
そして生活費の口座と分けておくとよい。混ざっていると、いくら残っているか分からなくなるし、つい使ってしまう。
「増やせないのはもったいない」と感じられるかもしれませんが、これは増やすためのお金ではありません——そう伝える。役割が違う。
なぜ「投資の前」なのか
お客様は「いきなり全部を投資に回して大丈夫か」とご心配である。その感覚は正しい。
理由は取り崩す時期を選べなくなるからである。
急にお金が必要になったとき、手元に現金がなければ、運用しているものを売ることになる。そのとき値下がりしていても、売るしかない。
生活防衛資金があると、この事態を避けられる。売る時期を、自分で選べる。
これは0109で見た「長期・積立・分散」を成り立たせる土台でもある。長く持つには、途中で売らずに済む状態が要る。
やさしく伝えるなら「値下がりしているときに売らずに済むためのお金です」という形になる。投資を否定する話ではなく、投資を続けるための準備である。
ただし「貯まるまで投資しない」ではない
ここは正確に伝えたい。生活防衛資金が満額貯まるまで、投資を始めてはいけない、という決まりはない。
実際には「先に貯める分」と「投資に回す分」を、同時に少しずつという形もある。どちらが正しいというものではない。
ただし順番に意味はある。手元にまったく現金がない状態で全額を投資に回すのは、売る時期を選べなくなるからだ。
お客様には「まず何か月分かをためて、そのあと配分を考える」という形と、「両方に少しずつ入れる」という形の両方をお見せする。選ぶのはご本人である。
そして「投資を始めたい」というお気持ちを止めない。始めたいときが、いちばん続く。土台を作りながら始める形もある。
使ったら、戻す
見落とされやすいのが使った後である。
生活防衛資金は使うためにあるので、使うこと自体は問題ではない。問題は、戻さないまま忘れることである。
だから使ったら、いつまでにいくら戻すかを決める。次に必要になったときのために。
そして減ったことを責めない。「役に立ったということです。また少しずつ戻しましょう」と言えるかどうかで、その後の付き合い方が変わる。
あわせて年に1度は金額を見直す。生活費が変われば、必要な額も変わる。ご家族が増えた、住まいが変わった、といったときが見直しの時期になる。
やさしく伝えるための言い換え
| 専門の言い方 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 生活防衛資金 | 収入が止まっても、しばらく暮らせるお金 |
| 流動性 | すぐに引き出せること |
| 元本の安定性 | 金額が減らないこと |
| 取り崩す | 運用しているものを売って現金にすること |
| 資産配分 | どこにいくら置くかの割り振り |
「生活防衛資金」という言葉自体が、やや大げさに聞こえることがある。「収入が止まっても、しばらく暮らせるお金」とほどくと、目的がそのまま伝わる。
そして「防衛」という言葉から不安を強めない。備えの話は、脅しにしない。「これがあると、慌てて判断しなくて済みます」という言い方のほうが、実際の効用に近い。
案内の順番——この順で伝える
- ご心配は正しいと伝える。全部を投資に回さない感覚は合っている。
- 何のためのお金かを2つに絞る。収入が止まったとき、急な出費。
- お立場を伺う。会社員か自営業か。
- 公的な支えを確認する。傷病手当金があるか。
- 月数を一緒に決める。目安をそのまま当てはめない。
- 月の生活費を出す。掛ければ金額が決まる。
- 置き場所を決める。すぐ動かせる形で、口座を分ける。
- 投資の前に置く理由を説明する。売る時期を選べるように。
- 両方に少しずつという形もあると伝える。始めたい気持ちを止めない。
- 使ったら戻す。年に1度は金額を見直す。
プロならこう説明する
まず、そのご心配は正しいと思います。いきなり全部を投資に回さないほうがよいのは、そのとおりです。
準備しておくとよいのは「収入が止まっても、しばらく暮らせるお金」です。生活防衛資金と呼ばれます。
よく「生活費の◯か月分」と言われるのですが、この数字は人によって違います。ですので決め方のほうをお伝えします。
考え方は2つです。収入が止まったときに、次に入るまでの間の生活費。それと急な出費が来たときです。
ですので「収入が止まってから、次が入るまで何か月か」が分かれば、月数が決まります。
そこで伺わせてください。お勤めでいらっしゃいますか。
会社員の方でしたら、病気で働けなくなったときに健康保険から傷病手当金が出ます。ただしすぐには始まりません。休み始めて数日は出ませんし、手続きから振り込みまでにも時間がかかります。
ご退職やご転職の場合は雇用保険の給付がありますが、こちらも手続きから支給までに時間がかかります。それとご退職の翌年には住民税の請求が来ますので、その分も見ておかれるとよいです。
自営業でいらっしゃる場合は、国民健康保険に傷病手当金がないことがほとんどです。働けなくなると収入がそのまま止まりますので、長めに見ておかれるほうが安全です。
この考え方でしたら、ご自身で月数を決められると思います。そこにひと月の生活費を掛ければ、金額が出ます。
次に、どこに置くかです。
これは増やすためのお金ではありません。必要なときにすぐ使えることが条件ですので、普通預金など、すぐ引き出せる形で持ってください。金利の高さでお選びにならないほうがよいです。
できれば生活費の口座と分けておかれると、いくら残っているかが分かりやすくなります。
それから、なぜ投資の前なのかをご説明します。
急にお金が必要になったとき、手元に現金がないと、運用しているものを売ることになります。そのとき値下がりしていても、売るしかありません。
このお金があると、売る時期をご自分で選べます。投資を否定するお話ではなく、投資を続けるための準備です。
ただし1つ、正確にお伝えしておきます。「これが貯まるまで投資してはいけない」という決まりはありません。
先に貯める分と、投資に回す分を、同時に少しずつという形もあります。どちらが正しいというものではありません。
ですので両方の形をお見せします。お決めになるのはお客様です。始めたいと思われているときが、いちばん続きますので、そのお気持ちは大事にしていただきたいと思います。
最後に、使った後のことです。このお金は使うためにありますので、使うこと自体は問題ありません。
ただ使ったら、いつまでにいくら戻すかを決めておいてください。次に必要になったときのためです。
それと年に1度は金額を見直しましょう。ご家族が増えた、お住まいが変わった、というときは、必要な額も変わります。
よくある質問と、その答え方
「生活費の何か月分あればいいですか」
人によって違うので、決め方を渡す。「収入が止まってから、次が入るまで何か月か」で決まり、それは公的な支えがどれだけあるかによる。会社員が病気で働けない場合は傷病手当金が支えるがすぐには始まらない。自営業の方は国民健康保険に傷病手当金がないことがほとんどなので長めに見る。目安をそのまま当てはめない。
「置いておくだけでは、もったいないですよね」
増やすためのお金ではない。条件は必要なときにすぐ使えることなので、普通預金など、すぐ引き出せる形で持つ。金利の高さで選ばない。これは金利と引き出しやすさの交換で、生活防衛資金では引き出しやすさのほうを選ぶということである。役割が違う。生活費の口座と分けておくと、残りが分かりやすい。
「なぜ投資より先なのですか」
売る時期を選べるようにするためである。急にお金が必要になったとき、手元に現金がないと運用しているものを売ることになる——値下がりしていても売るしかない。生活防衛資金があると、この事態を避けられる。投資を否定する話ではなく、投資を続けるための準備である。長く持つには、途中で売らずに済む状態が要る。
「貯まるまで、投資は始められませんか」
そういう決まりはない。先に貯める分と投資に回す分を、同時に少しずつという形もある。どちらが正しいというものではない。ただし手元にまったく現金がない状態で全額を投資に回すのは、売る時期を選べなくなるので、順番には意味がある。両方の形を見せて、選んでいただく。始めたいときが、いちばん続く——その気持ちは止めない。
案内で外したくないポイント
- ご心配は正しいと先に伝える。
- 目的を2つに絞る。収入が止まったとき、急な出費。絞ると金額が計算できる。
- 月数は収入の止まり方で決まる。目安を当てはめない。
- 会社員は傷病手当金があるが、すぐには始まらない。
- 自営業は長めに見る。傷病手当金がないことがほとんど。
- 退職の翌年は住民税の請求が来る。その分も見る。
- 置き場所はすぐ動かせる形。金利で選ばない。口座を分ける。
- 投資の前に置くのは、売る時期を選べるようにするため。
- 貯まるまで投資しない、という決まりはない。両方の形を見せる。
- 使ったら戻す。年に1度見直す。減ったことを責めない。