【FP3級の実務】年末調整って何をしてる?──「概算で引いて、年末に精算する」と伝える
年末調整の書類を求められたお客様から、こんな相談が届く。
「年の終わりに『年末調整の書類を出して』と言われました。生命保険の証明書を出すと少しお金が戻ってくると聞いたのですが、そもそも年末調整が何をしているのかが分かりません。初心者にも分かるように教えてください。」
FPの実務で、年末調整をやさしく伝える場面は多い。ここで力になるのは「毎月引かれている額は、実は概算です」と伝えられたときだ。なぜ戻るのかも、なぜ書類が要るのかも、そこから説明できる。この記事では、その1点から整理する。
まず結論:毎月引かれているのは「概算」
居住者に対し国内において……給与等……の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。(所得税法183条1項)
会社は給与を支払うたびに所得税を徴収して納める義務を負っている。これが源泉徴収である。
ところがその時点では、1年分の給与も、その方の控除も、確定していない。だからあらかじめ決められた表にあてはめて、おおよその額を引いている。
ここが出発点である。毎月引かれている額は、正確な税額ではない。
だから年末に、1年分が確定したところで計算し直す。それが年末調整である。
やさしく伝えるなら「毎月はだいたいの額を引いておいて、年末に正しい額を計算して精算します」という形になる。この一言で、なぜ戻るのかまで説明できている。
条文が、そのまま「精算」の形をしている
給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、……給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、……その年最後に給与等の支払をする場合……において、第一号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、……徴収して……納付しなければならない。(所得税法190条)
| 条文の要素 | 意味 |
|---|---|
| 1号に掲げる所得税の額の合計額 | その年にすでに引かれた額 |
| 2号に掲げる税額 | その方の本来の税額 |
| 超過額は……充当し | 引きすぎていたら戻る |
| 不足額は……徴収して | 足りなければ追加で引かれる |
「過不足があるとき」と書かれている。戻ることも、追加で引かれることもある。
お客様は「少しお金が戻ってくると聞いた」とおっしゃっている。戻るとは限らないと伝えておく。
途中で扶養が減った、賞与が多かった、といった場合は不足になることがある。「引かれることもあります」と先に言っておくと、後で驚かれない。
そして2,000万円以下という条件がある。それを超える方は年末調整の対象にならず、確定申告になる。
「その年最後に給与等の支払をする場合」とあるので、12月の給与(または賞与)のときに精算される。会社によって12月か1月かが違うのは、支払日の関係である。
年末調整でできる控除は、条文に並んでいる
190条2号のイとロが、年末調整で反映できる控除を並べている。
- 社会保険料(74条2項)
- 小規模企業共済等掛金(75条2項)
- 生命保険料(新・旧、介護医療、新・旧個人年金)(76条)
- 地震保険料(77条1項)
これに加えて、扶養控除等申告書で申告する扶養控除・配偶者控除などが反映される。
お客様がおっしゃった「生命保険の証明書」は、このうち生命保険料控除のためのものである。
ここに並んでいないものは、年末調整では反映できない。条文が範囲を決めているということだ。
| 主なもの | |
|---|---|
| 年末調整でできる | 社会保険料/小規模企業共済等掛金(iDeCoなど)/生命保険料/地震保険料/扶養・配偶者に関する控除/住宅ローン控除(2年目以降) |
| 確定申告が要る | 医療費控除/寄附金控除(ふるさと納税でワンストップを使わない場合)/雑損控除/住宅ローン控除の1年目 |
右側が相談でいちばん役に立つところである。
「医療費がかかった年は、年末調整では戻りません」——これを伝えられるかどうかで、お客様が受けられる控除が変わる。
「会社に出したから、全部やってもらえた」と思っていらっしゃることが多い。年末調整は万能ではない。
そして両方できる点も伝える。年末調整を受けたうえで、確定申告で医療費控除を足せる。どちらかを選ぶのではない。
書類を出さないと、反映されない
190条2号ロのかっこ書が、「当該申告書に記載され、かつ、……書類の提出又は提示のあつたものに限る」としている。
申告書に書いて、証明書を出したものだけが反映される。払っていても、書かなければ反映されない。
だから生命保険料の控除証明書は、届いたら保管していただく。10月ごろに届くことが多く、年末までにどこかへいってしまうのが、よくある形である。
そして間に合わなかった場合でも、確定申告で反映できる。「出し忘れたら終わり」ではない——これは伝える価値がある。
iDeCoに加入していらっしゃる方は、小規模企業共済等掛金払込証明書も同じである。こちらも年末調整で使えることをご存じない方がいらっしゃる。
やさしく伝えるための言い換え
| 専門の言い方 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 源泉徴収 | 給与から先に引いておくこと |
| 年末調整 | 年末に正しい額を計算して精算すること |
| 過不足を精算する | 引きすぎなら戻り、足りなければ引かれる |
| 所得控除 | 税の計算のもとになる額から差し引くもの |
| 扶養控除等申告書 | 家族の状況を伝える書類 |
| 控除証明書 | 払ったことの証明書 |
「年末調整」という言葉そのものが分かりにくい。「調整」が何を指すかが見えないからである。
「精算」と言い換えると伝わりやすい。先に払っておいて、後で足りない分を払う/多い分を返してもらうという形は、日常でもある。
そして「戻る」という言葉を使うときは、必ず「引かれることもあります」を添える。条文が「過不足」と書いているとおりである。
案内の順番——この順で伝える
- 毎月引かれているのは概算と伝える(所法183条1項)。
- 年末に計算し直して精算する(同法190条)。
- 戻るとは限らない。過不足を精算する仕組み。
- 年末調整でできる控除を挙げる(同条2号イロ)。
- できない控除を挙げる。医療費・寄附金・雑損。
- 両方できると伝える。年末調整+確定申告。
- 書類を出さないと反映されない(同号ロかっこ書)。
- 控除証明書の保管をお願いする。10月ごろ届く。
- 間に合わなくても確定申告で反映できると伝える。
- 2,000万円超は対象外(同条本文)。確定申告になる。
プロならこう説明する
「年末調整が何をしているか分からない」というのは、言葉が分かりにくいからだと思います。まずそこからご説明します。
毎月のお給料から所得税が引かれていますが、あれは実は「だいたいの額」です。
その時点では、1年間にいくらもらうかも、どんな控除があるかも決まっていません。ですのであらかじめ決められた表にあてはめて、おおよその額を引いています。
そして年末に、1年分が確定したところで計算し直します。それが年末調整です。
「調整」というより「精算」とお考えいただくと分かりやすいと思います。先に払っておいて、後で足りない分を払う、多い分を返してもらう、という形です。
ですので「戻ってくる」とは限りません。法律にも「過不足があるとき」と書かれていて、引かれることもあります。
途中でお子さんが独立された、賞与が多かった、といった場合は不足になることがあります。先にお伝えしておきますね。
次に、書類を出す理由です。
年末調整で反映できる控除は、法律に並んでいます。社会保険料、iDeCoなどの掛金、生命保険料、地震保険料、それにご家族の状況によるものです。
お客様がお出しになる生命保険の証明書は、このうち生命保険料の控除のためのものです。
ここで大事なのが、書類を出さないと反映されないということです。法律に「申告書に記載され、かつ、書類の提出又は提示のあつたものに限る」と書かれています。
払っていても、出さなければ反映されません。控除証明書は10月ごろに届きますので、届いたら保管しておいてください。
もし間に合わなかった場合でも、確定申告で反映できます。出し忘れたら終わり、ではありませんのでご心配なく。
それから、年末調整でできないこともお伝えしておきます。ここがいちばん大事かもしれません。
医療費控除は、年末調整ではできません。ふるさと納税の寄附金控除も、簡単な申請をされていない場合は同じです。
ですので医療費がたくさんかかった年は、ご自身で確定申告をしていただくことになります。
「会社に書類を出したから、全部やってもらえた」とお考えの方が多いのですが、年末調整は万能ではありません。
そして両方できます。年末調整を受けたうえで、確定申告で医療費控除を足す、という形です。どちらかを選ぶわけではありません。
もしiDeCoをされていましたら、そちらの証明書も年末調整で使えます。ご存じない方が多いところですので、お伝えしておきます。
今年、医療費が多くかかったことはありませんでしたか。ご家族の分も合わせられますので、領収書を見ておかれるとよいと思います。
よくある質問と、その答え方
「年末調整をすると、お金が戻ってくるのですよね」
戻るとは限らない。所得税法190条は「過不足があるとき」として、超過額は充当し、不足額は徴収して納付するとしている。引かれることもある。途中で扶養が減った、賞与が多かったといった場合が該当する。「戻る」と言うときは、必ず「引かれることもあります」を添える。
「会社に書類を出したので、全部やってもらえますよね」
できる控除は決まっている。所得税法190条2号イ・ロが並べているのは社会保険料/小規模企業共済等掛金/生命保険料/地震保険料で、これに扶養控除等申告書によるものが加わる。医療費控除・寄附金控除・雑損控除は入っていないので、確定申告が必要になる。年末調整は万能ではない。そして両方できる——年末調整を受けたうえで確定申告で足せる。
「保険料は払っているので、自動的に反映されますよね」
書類が要る。所得税法190条2号ロのかっこ書は「当該申告書に記載され、かつ、……書類の提出又は提示のあつたものに限る」としている。払っていても、申告書に書いて証明書を出さなければ反映されない。控除証明書は10月ごろ届くので保管していただく。間に合わなくても確定申告で反映できるので、「出し忘れたら終わり」ではない。
「毎月きちんと引かれているのに、なぜ年末に計算し直すのですか」
毎月の額が概算だからである。所得税法183条1項により会社は支払のたびに徴収するが、その時点では1年分の給与も、その方の控除も確定していない。だからあらかじめ決められた表にあてはめて引いている。年末に1年分が確定したところで計算し直すのが年末調整である。「毎月はだいたいの額、年末に精算」という一言で、なぜ戻るのかまで説明できる。
案内で外したくないポイント
- 毎月引かれているのは概算(所法183条1項)。
- 年末調整は精算(同法190条)。「調整」より「精算」と言う。
- 戻るとは限らない。条文は「過不足があるとき」。
- 2,000万円超は対象外(同条本文)。確定申告になる。
- できる控除は条文に並んでいる(同条2号イロ)。
- 医療費控除・寄附金控除・雑損控除はできない。確定申告が要る。
- 両方できる。年末調整を受けたうえで確定申告で足せる。
- 書類を出さないと反映されない(同号ロかっこ書)。
- 間に合わなくても確定申告で反映できる。
- iDeCoの証明書も年末調整で使える。ご存じない方が多い。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 所得税法183条1項 | 源泉徴収義務 | 給与の支払の際に所得税を徴収し、翌月10日までに納付する |
| 所得税法190条本文 | 年末調整 | 扶養控除等申告書の提出/2,000万円以下/その年最後の支払のとき/過不足の精算 |
| 所得税法190条2号イ・ロ | 同上 | 年末調整で反映できる控除の範囲。ロのかっこ書で書類の提出又は提示が要件 |
| 所得税法74条〜77条 | 社会保険料控除ほか | 190条2号が参照している各控除 |