【FP3級の実務】医療保険とがん保険、何が違う?──「引き金」の広さの違いだと伝える
民間の保険を考え始めたお客様から、こんな相談が届く。
「周りの人にすすめられて、民間の医療保険やがん保険を考え始めました。でも、この2つが何を保障してくれて、どう違うのかがよく分かりません。そもそも自分に必要なのかも迷っています。初心者にも分かるように教えてください。」
FPの実務で、民間保険の要否をやさしく整理する場面は多い。ここで力になるのは、商品を比べることよりも「2つは、給付の引き金の広さが違うだけです」と示せたときだ。そして必要かどうかは、公的な制度で足りない部分から決まる。この記事では、その順で整理する。必要性は断定しない。
まず結論:どちらも同じ種類の契約である
傷害疾病定額保険契約 保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するものをいう。(保険法2条9号)
民間の医療保険もがん保険も、法律上は同じ「傷害疾病定額保険契約」である。別の種類の保険ではない。
だから比べるべきは、種類ではなく中身になる。
そして定義に「一定の保険給付」とある。あらかじめ決められた額が支払われるという意味である。実際にかかった費用を払うのではない。
ここは相談で誤解されやすい。「かかった分が出る」と思っていらっしゃることがある。「入院1日につき◯円」というように、決められた額が出ます」と最初に伝える。
だから実際の費用より多く出ることも、少なく出ることもある。費用を埋める仕組みではなく、決めた額を受け取る仕組みである。
違いは「引き金」の広さ
| 給付の引き金 | |
|---|---|
| 医療保険 | 病気やけが全般(がんも含むことが多い) |
| がん保険 | がんに限る |
2つの違いは何が起きたときに支払われるか——引き金の広さである。
医療保険は広い。だから1回あたりの額は抑えめになりやすい。
がん保険は狭い。そのぶんがんと診断されたときの給付が手厚く設計されていることが多い。
やさしく伝えるなら「浅く広くか、狭く深くかの違いです」という形になる。
だから「どちらがよいか」は決まらない。広く備えたいのか、特定のものに厚く備えたいのか——ご本人のお考えによる。
そして両方入る必要があるとは限らない。医療保険にがんの保障が含まれていることも多いので、重なりを確認する。
支払われる条件は、商品ごとに違う
ここがいちばん確認が要るところである。法律ではなく、約款で決まっている。
よく確認する点を挙げる。
- 入院何日目から出るか——日帰りから出るものもあれば、条件があるものもある
- 1回の入院で何日まで出るか——上限が置かれていることが多い
- 通院は対象か——入院を伴う通院に限られることがある
- 手術はどの範囲か——対象になる手術が定められている
- がんの「診断」とは何を指すか——上皮内がんの扱いが分かれることがある
- 待ち期間があるか——契約から一定期間は対象にならないことがある
これらは商品ごとに違うので、FPが一般論で答えない。約款とパンフレットを一緒に開く。
とくにがん保険の待ち期間は、入ってすぐは対象にならないという形なので、先に伝えておく。
お客様には「ご検討の商品が決まったら、この6点を一緒に確認しましょう」と、確認の観点そのものを渡す。次に別の商品を見るときにも使える。
告知は、生命保険と同じ形
保険契約者又は被保険者になる者は、傷害疾病定額保険契約の締結に際し、給付事由……の発生の可能性……に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの……について、事実の告知をしなければならない。(保険法66条)
生命保険の37条とほぼ同じ書き方である。「保険者になる者が告知を求めたもの」について答える。
つまり聞かれたことに、事実を答える義務であって、自分から思いつく限りを申告する義務ではない。
ただし医療保険やがん保険では、健康状態を聞かれる範囲が広いことが多い。過去の受診歴や検査の結果まで聞かれることがある。
正確に答えていただく。そしてFPが「これは書かなくていい」と言わない。ここは生命保険と同じである。
84条以下に告知義務違反による解除の規定があり、こちらも生命保険と同じ構造で、解除できない場合や期間の制限が置かれている。
必要かどうかは、公的から引いて決める
お客様の「そもそも自分に必要なのか」というご質問が、いちばん大事である。
順番は、公的な制度が先である。
- 高額療養費で、1か月に払う医療費に上限がある
- 会社員なら傷病手当金で、働けない間の収入をある程度支える
- それでも公的が届かない費用がある——差額ベッド代、入院中の食事代、先進医療の技術料など
- そして収入が減る分と、通院の交通費や家族の負担
民間保険が意味を持つのは、3と4の部分である。ここを出してから、いくら備えるかを決める。
そして貯蓄で足りるなら、それでもよい。保険は、貯蓄で足りない部分を前倒しで用意する仕組みである。
「入るべき」とも「不要」とも言わない。足りない額を出して、それを保険で埋めるか貯蓄で持つかを、ご本人に選んでいただく。
お客様は「すすめられて」とおっしゃっている。すすめられたから入る、にならないように——ご自身の数字で判断していただくのが、この相談のいちばんの目的である。
やさしく伝えるための言い換え
| 専門の言い方 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 傷害疾病定額保険契約 | けがや病気のときに、決めた額が出る契約 |
| 定額給付 | かかった費用ではなく、決められた額が出ること |
| 給付事由 | お金が出る条件 |
| 約款 | 契約の細かい決まりが書かれた文書 |
| 免責期間・待ち期間 | 契約してすぐは対象にならない期間 |
| 入院給付金日額 | 入院1日につき出る金額 |
いちばん先に伝えたいのが「定額」である。「かかった費用ではなく、決められた額が出ます」と言う。
ここを言わずに進むと、「治療費が全部出る」と受け取られる。後から知ると、制度への不信になる。
そして「約款」は必ず名前で伝える。「細かい決まりは、この文書に書かれています」と場所を渡しておけば、後でご自身で確認できる。
案内の順番——この順で伝える
- どちらも同じ種類の契約と伝える(保険法2条9号)。
- 決められた額が出ると伝える。実費ではない。
- 違いは引き金の広さ。浅く広くか、狭く深くか。
- 重なりを確認する。医療保険にがんが含まれることが多い。
- 支払の条件は約款で確認する。6つの観点を渡す。
- 待ち期間を先に伝える。
- 告知は聞かれたことに答える(同法66条)。正確に。
- 公的な制度から引く。高額療養費、傷病手当金。
- 公的が届かない費用を出す。ここが備える範囲。
- 貯蓄で持つか保険で持つかを、ご本人に選んでいただく。
プロならこう説明する
ご質問が2つありますね。違いと、必要かどうか。順にお答えします。
まず、この2つは法律上、同じ種類の契約です。「けがや病気に基づいて、決めた額を支払う契約」という定義になっています。別の種類の保険ではありません。
ここで、いちばん先にお伝えしたいことがあります。
かかった費用が出るのではなく、あらかじめ決められた額が出ます。「入院1日につき◯円」という形です。
ですので実際の費用より多く出ることも、少なく出ることもあります。費用を埋める仕組みではなく、決めた額を受け取る仕組みです。ここは最初に押さえておいてください。
そのうえで、2つの違いです。お金が出る引き金の広さが違います。
医療保険は病気やけが全般で、幅が広い。そのぶん1回あたりの額は抑えめになりやすいです。
がん保険はがんに限るので、幅は狭い。そのぶん診断されたときの給付が手厚く設計されていることが多いです。
浅く広くか、狭く深くか——そういう違いだとお考えください。どちらが優れているという話ではありません。
それと、両方に入る必要があるとは限りません。医療保険にがんの保障が含まれていることも多いので、重なっていないかを確認しましょう。
次に、いちばん大事なご質問——必要かどうかです。
ここは、公的な制度から先に見ます。
まず高額療養費があって、1か月にお支払いになる医療費には上限があります。会社員でいらっしゃれば、傷病手当金もあって、働けない間の収入をある程度支えてくれます。
そのうえで、公的が届かない部分があります。差額ベッド代、入院中のお食事代、先進医療の技術料。それと収入が減る分や、通院の交通費、ご家族のご負担です。
民間の保険が意味を持つのは、この部分です。
ですので「いくら足りないか」を先に出しましょう。そこが決まってから、保険で持つか、貯蓄で持つかをお決めいただきます。
貯蓄で足りるなら、それでも構いません。保険は、貯蓄で足りない部分を前倒しで用意する仕組みです。
ご検討の商品が決まりましたら、約款を一緒に見ましょう。確認する点は決まっていまして、入院何日目から出るか、1回の入院で何日までか、通院は対象か、手術はどの範囲か、がんの診断とは何を指すか、契約してすぐは対象にならない期間があるか——この6つです。
この6つは次に別の商品をご覧になるときにも使えますので、覚えておかれるとよいと思います。
最後に。お客様は「すすめられて」とおっしゃいました。
私からは「入るべき」とも「不要です」とも申し上げません。足りない額をお出ししますので、ご自身の数字でお決めください。そのお手伝いをするのが私の役割です。
よくある質問と、その答え方
「入院したら、かかった費用が出るのですよね」
決められた額が出る。保険法2条9号は傷害疾病定額保険契約を「人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するもの」と定義している。「一定の」=あらかじめ決められた額である。だから実際の費用より多く出ることも、少なく出ることもある。費用を埋める仕組みではない——ここを言わずに進むと、後から知って制度への不信になる。
「医療保険とがん保険、どちらがいいですか」
引き金の広さが違うだけで、優劣ではない。医療保険は病気やけが全般と幅が広く、そのぶん1回あたりは抑えめになりやすい。がん保険はがんに限るぶん、診断時の給付が手厚く設計されていることが多い。浅く広くか、狭く深くか——ご本人の考え方による。なお医療保険にがんの保障が含まれていることも多いので、重なりを確認する。
「入ればすぐに保障が始まりますよね」
商品による。とくにがん保険には、契約から一定期間は対象にならない期間が置かれていることが多い。これは法律ではなく約款で決まっているので、FPが一般論で答えず、約款を一緒に開く。あわせて入院何日目から/1回の入院で何日まで/通院は対象か/手術の範囲/がんの診断の定義も確認する。この6つの観点そのものを渡すと、次に別の商品を見るときにも使える。
「すすめられたのですが、入ったほうがいいですか」
公的から引いて、足りない額を出してから決める。高額療養費で1か月の医療費に上限があり、会社員なら傷病手当金もある。そのうえで差額ベッド代・食事代・先進医療の技術料・収入が減る分などが残る。民間保険が意味を持つのはこの部分である。貯蓄で足りるならそれでもよい——保険は貯蓄で足りない部分を前倒しで用意する仕組みである。「入るべき」とも「不要」とも言わず、数字を出して選んでいただく。
案内で外したくないポイント
- どちらも同じ種類の契約(保険法2条9号)。比べるのは中身。
- 「一定の保険給付」=決められた額。実費ではない。最初に伝える。
- 違いは引き金の広さ。浅く広くか、狭く深くか。
- 優劣ではない。ご本人の考え方による。
- 重なりを確認する。両方入る必要があるとは限らない。
- 支払の条件は約款。6つの観点を渡す。
- 待ち期間を先に伝える。入ってすぐは対象にならないことがある。
- 告知は聞かれたことに答える(同法66条)。「書かなくていい」と言わない。
- 公的から引いて、足りない額を出す。そこが備える範囲。
- 「入るべき」とも「不要」とも言わない。数字を出して選んでいただく。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 保険法2条9号 | 定義 | 傷害疾病定額保険契約=人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行う契約 |
| 保険法66条 | 告知義務 | 保険者になる者が告知を求めたものについて事実を告知する |
| 保険法84条以下 | 告知義務違反による解除ほか | 生命保険と同じ構造で、解除できない場合や期間の制限が置かれている |
| 健康保険法115条 | 高額療養費 | 1か月の自己負担に上限がある(公的から引く出発点) |
| 健康保険法63条2項 | 療養の給付 | 食事療養・評価療養・選定療養は給付に含まれない(公的が届かない部分) |