【FP3級の実務】入院費が高額になりそう──先に手続きすると窓口で払わずに済む
手術と入院が決まった相談者から、こんな相談が届く。
「来月、手術で2週間ほど入院します。医療費が100万円くらいかかると言われました。3割負担でも30万円です。とても払えないのですが、どうすればいいでしょうか。」
FPの実務で、この不安には答えがある。ただし「あとで戻ってきます」と伝えるだけでは、目の前の不安は消えない。いったん30万円を用意しなければならないからだ。力になるのは、先に手続きをすれば窓口でその額を払わずに済むと伝えられたときである。この記事では、その仕組みと、数え方のルールを整理する。
まず結論:先に手続きをすれば、窓口で払わずに済む
……一部負担金……の支払が行われなかつたときは、保険者は、……高額療養費について、当該一部負担金の額……から次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を控除した額の限度において、当該保険医療機関等……に支払うものとする。
一 ……イ ……に該当していることにつき厚生労働省令で定めるところにより保険者の認定を受けている者 ……(健康保険法施行令43条)
この条文が「窓口で払わずに済む」仕組みの根拠である。
本来なら、いったん窓口で3割を払って、あとで高額療養費として戻ってくる。ところが保険者が病院へ直接支払う形にすれば、患者は限度額までを払えばよいことになる。
条件は「保険者の認定を受けている者」であることだ。先に手続きが要る。
だから相談者への最初の一言は「30万円を用意する必要はないかもしれません。先に手続きをしましょう」になる。
手続きの方法や必要な書類は保険者によって案内が異なるので、加入されている健康保険に問い合わせていただく。マイナンバーカードを健康保険証として使う仕組みでも同様の取扱いがあるので、その点も併せて確認していただく。
FPが渡せる最大の価値は、金額の計算ではなくこの一言である。「あとで戻る」と「先に払わなくてよい」は、目の前の家計にとってまったく違う。
限度額は「所得の区分ごと」に決まっている
高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計、とりわけ長期にわたつて継続的に療養を受ける者の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。(健康保険法115条2項)
金額は法律ではなく政令に置かれている。つまり改定されるということである。
だから限度額の数字を覚えて答えない。「所得の区分ごとに上限が決まっていて、金額は改定されます。ご加入の保険者の最新のご案内で一緒に確認しましょう」と伝えて、その場で調べる。
実際に施行令42条を見ると、標準報酬月額の区分ごとに額が定められ、しかも「療養に要した費用の額」が一定額を超えた分の1%を足すという形になっている。医療費が高いほど、限度額もわずかに上がる設計である。
お客様には「かかった医療費が大きいほど、上限も少しだけ上がります」とだけ伝えれば足りる。計算式を説明しても伝わらないし、覚えていただく必要もない。
数え方のルール——ここでつまずく
……被保険者……又はその被扶養者が同一の月にそれぞれ一の病院、診療所、薬局その他の者(以下「病院等」という。)から受けた療養(……食事療養……生活療養……を除く。……)……に係る次のイからヘまでに掲げる額(七十歳に達する日の属する月以前の療養に係るものにあつては、二万千円……以上のものに限る。)を合算した額(健康保険法施行令41条1項1号)
| ルール | 条文の言葉 | 意味 |
|---|---|---|
| ①暦月 | 同一の月に | 月をまたぐと、月ごとに数え直す |
| ②医療機関ごと | それぞれ一の病院等から受けた療養 | 病院・診療所・薬局ごとに分けて数える |
| ③金額の下限 | 70歳到達月以前は21,000円以上のものに限る | 小さい額のものは合算されない |
| ④食事代は別 | 食事療養・生活療養を除く | 入院中の食事代は計算に入らない |
この4つが、相談で「思ったより戻ってこなかった」となる原因である。先に伝えておく。
①の暦月がいちばん大きい。同じ入院でも月をまたげば、それぞれの月で上限まで負担することになる。
今回は「来月、2週間ほど入院」とのことなので、1か月に収まるかどうかを確認する。日程に選択の余地があるなら、月初のほうが収まりやすい。ただし治療の都合が最優先である。
②と③は、通院と入院が重なる場合に効く。別の病院にかかった分や、薬局で払った分は、それぞれ21,000円以上でなければ合算されない(70歳到達月以前の場合)。
④の食事代は、115条1項のかっこ書でも重ねて除かれている。条文が2か所で外している。金額は読めるので、「食事代は別にかかります」と一言添える。
回数が重なると、上限が下がる
ただし、当該療養のあつた月以前の十二月以内に既に高額療養費……が支給されている月数が三月以上ある場合(……「高額療養費多数回該当の場合」という。)にあつては、……(健康保険法施行令42条1項1号ただし書)
直近12か月のうち、すでに3か月分が支給されている場合、4回目からは上限が下がる。
この仕組みは、115条2項が「とりわけ長期にわたつて継続的に療養を受ける者の家計に与える影響」を考慮すると書いていることの表れである。制度の設計思想が条文に出ている。
治療が長引きそうな方には、これを伝える価値がある。「ずっと同じ負担が続くわけではありません」と言える。
数字は改定されるので言わない。「4回目からは上限が下がります」という仕組みだけを渡す。
世帯でまとめられる
施行令41条1項は「被保険者……又はその被扶養者が」受けた療養の額を合算した額を基準にしている。同項が使う「一部負担金等世帯合算額」という言葉が、それを表している。
つまりご本人と、扶養に入っているご家族の分をまとめて数えられる。
ただし②と③のルールはここにもかかる。それぞれ21,000円以上(70歳到達月以前)のものだけが合算の対象になる。
ご家族が同じ月に医療機関にかかっていた場合は、領収書をまとめて確認していただく。本人の分だけ見て終わりにしない。
やさしく伝えるための言い換え
| 条文の言葉 | やさしい言い方 |
|---|---|
| 高額療養費算定基準額 | 1か月に払う上限 |
| 同一の月に | その月の1日から末日まで |
| 一の病院等から受けた療養 | 病院・診療所・薬局ごとに |
| 一部負担金等世帯合算額 | ご家族の分をまとめた額 |
| 多数回該当 | 4回目からは上限が下がる |
| 保険者の認定 | 先にする手続き |
「高額療養費算定基準額」のような言葉は、そのまま言っても伝わらない。「1か月に払う上限」とほどく。
ただし手続きのときに必要な言葉は、一度は正式に言う。保険者に問い合わせるときに、正式な名前を知っているほうが話が早いからである。
案内の順番——この順で伝える
- 先に手続きをすれば窓口で払わずに済むと最初に伝える(健保法施行令43条)。
- 保険者に問い合わせていただく。手続きの方法と必要な書類。
- 限度額は所得の区分ごとと伝える(健保法115条2項)。数字は保険者の資料で。
- 入院が月をまたがないかを確認する(施行令41条1項1号)。
- 通院や薬局の分を確認する。21,000円以上か(同号かっこ書)。
- ご家族の分を確認する。同じ月にかかっていないか。
- 食事代は別と伝える(同号/健保法115条1項)。
- 差額ベッド代も別と伝える(同法63条2項5号)。
- 治療が長引く見込みなら、4回目からの仕組みを伝える(施行令42条1項ただし書)。
- それでも足りない分を一緒に考える。ここからがFPの仕事。
プロならこう説明する
30万円のご心配、まず結論からお伝えします。その30万円を、窓口でお支払いにならずに済む方法があります。
高額療養費という仕組みがあって、1か月に払う額に上限が決まっています。本来は、いったん窓口で3割をお支払いになって、あとから上限を超えた分が戻ってくる形です。
ただそれですと、いったん30万円を用意しなければなりません。そこで、先に手続きをしておくと、窓口では上限までのお支払いで済みます。
法律の作りとしては、保険者の認定を受けている方について、保険者が病院へ直接支払う形になっています。ですので手続きが先です。
ご加入の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)にお問い合わせいただけますか。手続きの方法をご案内してもらえます。マイナンバーカードを保険証としてお使いの場合の扱いも、そこで確認できます。
入院までに間に合わせましょう。ここがいちばん大事です。
上限の金額ですが、所得の区分ごとに決まっていて、政令で定められています。改定されますので、正確な額はご加入先の最新のご案内で一緒に確認させてください。
そのうえで、数え方のルールを4つお伝えします。ここを知らないと「思ったより戻らなかった」となりやすいところです。
1つめ。1か月ごとに数えます。その月の1日から末日までです。
ですので今回の入院が、1か月に収まるかどうかを確認させてください。月をまたぎますと、それぞれの月で上限までのご負担になります。日程にご都合がつくようでしたら月初からのほうが収まりやすいのですが、治療のご都合が最優先です。
2つめ。病院・診療所・薬局ごとに分けて数えます。
3つめ。それぞれ21,000円以上のものだけが合算されます(70歳になられる月まではこの扱いです)。ですので、通院や薬局で少額をお支払いになった分は、合算されないことがあります。
4つめ。入院中のお食事代は、この計算に入りません。別にかかります。それと個室をご希望になった場合の差額ベッド代も別です。
それから、ご家族の分もまとめられます。扶養に入っていらっしゃるご家族が同じ月に医療機関にかかっていましたら、領収書をまとめてご確認ください。ただしこちらも21,000円以上のものが対象です。
最後に、もし治療が長引きそうでしたら、お伝えしておきたいことがあります。
直近12か月のうち、すでに3か月分この制度を使っている場合、4回目からは上限が下がります。法律にも「長く療養を受ける方の家計に与える影響を考慮して」と書かれていて、そのための仕組みです。
ずっと同じご負担が続くわけではありません。
では、まず保険者への問い合わせから始めましょう。上限の額が分かりましたら、食事代や差額ベッド代も足して、ひと月にいくら必要かを一緒に出します。そこまで見えれば、手の打ちようがあります。
よくある質問と、その答え方
「30万円をいったん用意しないといけませんよね」
先に手続きをすれば不要になる。健康保険法施行令43条は、「保険者の認定を受けている者」について、一部負担金の支払が行われなかったときは保険者が保険医療機関等に支払うとしている。つまり窓口では上限までを払えばよい。ただし認定を受けていることが条件なので、入院までに手続きを済ませる。「あとで戻る」と「先に払わなくてよい」は、目の前の家計にとってまったく違う。
「同じ入院なのに、上限を2回払うのですか」
月が変わればそうなる。健康保険法施行令41条1項1号は「同一の月に」受けた療養の額を合算するとしている。暦月ごとに数え直すので、同じ入院でも月をまたげばそれぞれの月で上限まで負担することになる。日程に選択の余地がある予定手術なら、月初のほうが1か月に収まりやすい。ただし治療の都合が最優先である点は必ず添える。
「通院した分も足してもらえますよね」
条件がある。同号は「それぞれ一の病院等から受けた療養」ごとに数え、かっこ書で「七十歳に達する日の属する月以前の療養に係るものにあつては、二万千円……以上のものに限る」としている。病院・診療所・薬局ごとに分け、それぞれ21,000円以上のものだけが合算の対象になる(70歳到達月以前)。少額の通院や薬局の分は合算されないことがある。
「食事代や個室代も上限に入りますよね」
入らない。施行令41条1項1号は食事療養・生活療養を除くとしており、健康保険法115条1項のかっこ書でも重ねて除かれている。差額ベッド代は選定療養として療養の給付に含まれない(同法63条2項5号)ため、こちらも別である。上限額のほかに、これらがかかることを先に伝えて、ひと月に必要な額を一緒に出す。
案内で外したくないポイント
- 先に手続きをすれば窓口で払わずに済む(健保法施行令43条)。これを最初に言う。
- 条件は「保険者の認定を受けている者」。入院までに済ませる。
- 限度額は政令(健保法115条2項)。数字は保険者の資料で確認する。
- 暦月ごと(施行令41条1項1号)。月をまたぐと数え直す。
- 病院等ごとに分けて数える(同号)。
- 70歳到達月以前は21,000円以上のものだけ合算(同号かっこ書)。
- 食事代・差額ベッド代は入らない(同号、健保法115条1項・63条2項5号)。
- 世帯でまとめられる(施行令41条1項)。家族の領収書も確認する。
- 直近12か月で3か月分使っていれば4回目から上限が下がる(同令42条1項ただし書)。
- 上限額のほかにかかる分を足して、ひと月の必要額を出す。そこからがFPの仕事。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 健康保険法115条1項 | 高額療養費 | 一部負担金等の額が著しく高額であるとき。食事療養・生活療養を除く |
| 健康保険法115条2項 | 同上 | 支給要件・支給額は政令で定める。長期の療養者の家計への影響を考慮 |
| 健康保険法63条2項5号 | 療養の給付 | 選定療養(差額ベッド代)は給付に含まれない |
| 健康保険法施行令41条1項1号 | 月間の高額療養費の支給要件及び支給額 | 同一の月に/病院等ごとに/70歳到達月以前は21,000円以上/食事療養・生活療養を除く |
| 健康保険法施行令42条1項ただし書 | 高額療養費算定基準額 | 療養のあった月以前12月以内に3月以上支給されている場合(多数回該当) |
| 健康保険法施行令43条 | その他高額療養費の支給に関する事項 | 保険者の認定を受けている者について、保険者が保険医療機関等に支払う |