FP2級の実務クエスト

【FPの実務】相続税はかかる?──基礎控除の「人数」の数え方から説明する

相続を心配するお客様から、こんな相談が届く。

「父にもしものことがあったら相続税がかかるのか心配です。相続人となる見込みは母、私、弟の3人です。相続税がかからない基準のようなものはありますか?」

FPの実務で、相続税の見通しの説明はよく扱う。力になるのは、式を渡すだけでなく「人数がどう数えられるか」まで伝えられたときだ。この記事では、基礎控除の中身、人数の数え方、非課税枠との違い、そして申告が要る場合までを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「相続税の基礎控除を計算して説明する」を読み物として再構成したもの。人物・相談はすべて架空です。税制は改正されることがあるため、実際のご提案では最新の制度をご確認ください。

まず結論:式は条文にそのまま書かれている

相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格……の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。(相続税法15条1項)

計算金額
3,000万円 + 600万円 × 3人4,800万円

お父さまの財産の合計が4,800万円以下なら、相続税の総額は生じない

ここで大事なのが、条文が「当該被相続人の相続人の数」と書いていることだ。実際に財産を受け取った人の数ではない

お客様は「相続人となる見込みは3人」とおっしゃっている。この3人が民法どおりの相続人かどうかを、まず確かめる。ここが違うと、式に入れる数字が変わる。

「人数」の数え方——3つの決まり

前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人(相続税法15条2項)

決まり内容
①放棄放棄がなかったものとした場合の相続人の数。放棄しても人数は減らない
②養子実子がいれば1人まで。実子がいなければ2人まで
③実子とみなす特別養子縁組による養子、配偶者の実子で養子となった者、代襲相続人となった直系卑属(15条3項)

①がいちばん誤解される。相続を放棄しても、基礎控除の人数は減らない。条文が「その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数」と明記している。

「1人が放棄すれば控除が600万円減る」と思っている方がいる。減らない。この点だけで安心につながる相談もある。

②は、養子を増やして控除を膨らませることを止める規定である。実子がいる場合は養子1人まで。実子がいない場合でも2人まで。

③が②の例外になっている。15条3項は特別養子縁組による養子配偶者の実子で被相続人の養子となった者実子とみなすとしている。連れ子を養子にした場合は、人数制限の枠外になる。再婚された方の相談では、ここを確かめる。

基礎控除を超えたら、どう計算されるか

相続税の総額は、……合計額からその遺産に係る基礎控除額を控除した残額を当該被相続人の前条第二項に規定する相続人の数に応じた相続人が民法第九百条(法定相続分)及び第九百一条(代襲相続人の相続分)の規定による相続分に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額……につきそれぞれその金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。(相続税法16条)

法定相続分に応ずる取得金額税率
1,000万円以下10%
1,000万円超 3,000万円以下15%
3,000万円超 5,000万円以下20%
5,000万円超 1億円以下30%
1億円超 2億円以下40%
2億円超 3億円以下45%
3億円超 6億円以下50%
6億円超55%

条文が「相続分に応じて取得したものとした場合」としている点が要である。実際にどう分けたかではなく、いったん法定相続分で分けたものとして税率を当てる

だから分け方を変えても、相続税の総額は変わらない。変わるのは、その総額を誰がいくら負担するかである。

お客様が「どういう分け方にすれば税金が安くなりますか」と聞かれたときの答えが、ここにある。総額は動かない。ただし後で述べる配偶者の軽減など、誰が取得するかで最終の税額は変わる

そして超えた部分だけに課税される。基礎控除を1円超えても、その1円に対する税であって、全体に課税されるわけではない。「4,800万円を1円でも超えたら全部に税金がかかる」ではないと伝えておく。

基礎控除とは別に、非課税の枠がある

次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
六 相続人の取得した第三条第一項第一号に掲げる保険金……については、……五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(……「保険金の非課税限度額」という。)……
七 相続人の取得した第三条第一項第二号に掲げる給与(……「退職手当金等」という。)については、……五百万円に……相続人の数を乗じて算出した金額……(相続税法12条1項6号・7号)

金額
生命保険金500万円 × 相続人の数
死亡退職金500万円 × 相続人の数

ここに放棄した人の扱いの違いが出る。

枠の大きさは15条2項の相続人の数で計算するので、放棄した人も頭数に入る。ここは基礎控除と同じだ。

ところが、非課税を使えるのは「相続人の取得した」保険金・退職手当金である。放棄した人は相続人ではないので、自分が受け取った保険金にこの非課税を使えない

つまり枠の計算には数えられるが、自分は使えない数え方と使える人が、条文の中で分かれている

「借金があるから放棄して、生命保険金だけ受け取る」という相談は実際にある。受け取ること自体はできるが、非課税は使えない。ここは必ず伝える。

相続人が3人なら、基礎控除4,800万円に加えて、保険金1,500万円と退職金1,500万円の枠がある。「保険に入っているから足が出る」と早合点しない

配偶者には大きな軽減がある

……次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額……
イ ……課税価格の合計額に民法第九百条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続分)を乗じて算出した金額……に相当する金額(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格に相当する金額(相続税法19条の2第1項2号)

イのかっこ書が「一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円」である。つまり法定相続分と1億6,000万円の、大きいほうまで軽減される。

今回の3人(母・本人・弟)なら、お母さまの法定相続分は2分の1。財産が3億2,000万円までなら、法定相続分のほうが1億6,000万円以上になる。

ただし2項に条件がある。申告期限までに分割されていない財産は、この計算の基礎に含まれない分け方が決まらないと使えない。ただし書で、申告期限から3年以内に分割された場合は対象になるとされている。

お客様には「配偶者には大きな軽減があります。ただし分け方が決まっていることが前提です」と、セットで伝える。

税額が0でも、申告が要る場合がある

……財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格……の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格……に係る第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで及び第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内に……申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(相続税法27条1項)

この列挙をよく見たい。「第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで」である。

19条の2だけが飛ばされている。19条の2は、いま見た配偶者に対する相続税額の軽減だ。

つまり配偶者の軽減を当てる前の段階で税額があれば、申告義務が生じる軽減を使った結果0円になっても、申告は要る

しかも19条の2第3項は、この軽減は「第二十七条の規定による申告書……に、第一項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の計算に関する明細の記載をした書類……の添付がある場合に限り、適用する」としている。申告しなければ、そもそも軽減が使えないという構造になっている。

期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内亡くなった日からではなく、知った日の翌日からである。

相談では「基礎控除以下なら申告は要りません。ただし、配偶者の軽減や特例を使って0円にする場合は申告が必要です」と、必ず分けて伝える。

説明の順番——この順で伝える

  1. 民法どおりの相続人を確かめる。式に入れる人数はここで決まる(15条2項)。
  2. 養子がいるかを確かめる。実子がいれば1人まで(同項1号・2号)。
  3. 連れ子を養子にしていないか。実子とみなされる(同条3項)。
  4. 基礎控除を計算する。3,000万円+600万円×人数(同条1項)。
  5. 財産の見当をつける。不動産・預貯金・有価証券など。
  6. 保険金・退職金の枠を足す。それぞれ500万円×人数(12条1項6号・7号)。
  7. 超えそうなら、配偶者の軽減を見る。法定相続分と1億6,000万円の大きいほう(19条の2)。
  8. 申告が要るかを判定する。軽減を使って0円なら申告は必要(27条1項の列挙)。
  9. 期限を伝える。知った日の翌日から10月以内。

プロならこう説明する

相続税には基礎控除があり、財産の合計がその範囲に収まれば税金はかかりません。式は法律にそのまま書かれています。

3,000万円 + 600万円 × 相続人の数です。

お母さま・ご本人・弟さんの3人でしたら、3,000万円 + 600万円 × 3人で4,800万円になります。お父さまの財産の合計がこれ以下でしたら、相続税は生じません。

ここで、よくご質問いただく点を先にお伝えします。

相続を放棄された方がいても、この人数は減りません。法律に「放棄がなかつたものとした場合における相続人の数」と書かれています。ですので、どなたかが放棄されても4,800万円のままです。

それから、基礎控除とは別の枠もあります。

お父さまに生命保険がおありでしたら、500万円 × 3人 = 1,500万円が非課税になります。死亡退職金も同じく1,500万円の枠があります。

ですので、保険にお入りだからといって、すぐに足が出るとは限りません。まずは財産の見当をつけさせてください。

ただし1つご注意ください。この保険金の非課税は「相続人が受け取った保険金」が対象です。相続を放棄された方は相続人ではなくなりますので、この非課税は使えません。枠の計算には人数として数えられるのに、ご自身は使えない、という形になっています。

もし基礎控除を超えそうな場合ですが、税額の計算はこうなります。

超えた部分を、いったん法定相続分で分けたものとして税率を当て、それを合計します。実際の分け方を変えても、相続税の総額は変わりません。変わるのは、その総額を誰がいくら負担するかです。

それと、超えた部分だけが対象です。4,800万円を少し超えたからといって、全体に税金がかかるわけではありません。

お母さまについては、大きな軽減があります。法定相続分か1億6,000万円か、大きいほうまで税額が軽減されます。お母さまの法定相続分は2分の1ですので、かなりの部分がここで収まります。

ただしこの軽減には分け方が決まっていることが前提です。申告の期限までに分割が済んでいない財産は、計算に入れられません。

最後に、申告についてお伝えします。

基礎控除以下でしたら、申告は要りません。

ですが、お母さまの軽減を使って税額が0円になる場合は、申告が必要です。法律の作りとして、申告書を出して初めて軽減が使える形になっているためです。

期限は相続があったことをお知りになった日の翌日から10か月以内です。亡くなられた日からではなく、お知りになった日からです。

まずは、お父さまの財産のおおよそと、養子縁組の有無を確認させてください。ここで人数が変わることがあります。

よくある質問と、その答え方

「相続を放棄したら、基礎控除は減りますか」
減らない。相続税法15条2項が「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする」と明記している。3人のうち1人が放棄しても、基礎控除は4,800万円のままである。19条の2第1項2号イも同じく、配偶者の相続分を放棄がなかったものとした場合の相続分で計算する。

「放棄して、生命保険金だけ受け取れますか」
受け取ること自体はできる。ただし非課税は使えない。相続税法12条1項6号は「相続人の取得した……保険金」を対象としており、放棄した人は相続人ではないからだ。一方、枠の大きさ(500万円×人数)を計算するときの人数には、15条2項により放棄した人も数えられる数え方と使える人が分かれている点を、そのまま伝える。

「分け方を工夫すれば、税金は安くなりますか」
総額は変わらない。相続税法16条は、基礎控除を引いた残額を「相続分に応じて取得したものとした場合」の金額に税率を当てて合計する、としている。実際の分け方は総額に影響しない。ただし、誰が取得するかで最終的な各人の税額は変わる。とくに配偶者の軽減(19条の2)は、配偶者が取得した分にかかるため、分け方の検討はここから入る。

「税金が0円なら、申告は要りませんよね」
場合による。相続税法27条1項は申告義務の判定に用いる規定を「第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで」と列挙しており、19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)だけを飛ばしている。つまり軽減を当てる前に税額があれば、結果が0円でも申告が要る。さらに19条の2第3項は、この軽減を申告書に明細を添付した場合に限り適用するとしている。申告しなければ軽減も受けられない

説明で外したくないポイント

  1. 基礎控除=3,000万円+600万円×相続人の数(15条1項)。
  2. 放棄があっても人数は減らない(同条2項)。
  3. 養子は実子がいれば1人、いなければ2人まで(同項1号・2号)。
  4. 特別養子・配偶者の実子で養子となった者は実子とみなす(同条3項)。
  5. 総額は法定相続分で分けたものとして計算。分け方で総額は動かない(16条)。
  6. 超えた部分だけが課税対象。
  7. 保険金・退職金にそれぞれ500万円×人数の非課税枠(12条1項6号・7号)。
  8. 放棄した人はその非課税を使えない。枠の人数には数えられる。
  9. 配偶者は法定相続分と1億6,000万円の大きいほうまで軽減。分割済みが前提(19条の2)。
  10. 軽減で0円でも申告が要る。期限は知った日の翌日から10月以内(27条1項)。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
相続税法12条1項6号・7号相続税の非課税財産保険金・退職手当金は500万円×15条2項の相続人の数。対象は「相続人の取得した」もの
相続税法15条1項遺産に係る基礎控除3,000万円+600万円×相続人の数
相続税法15条2項同上放棄がなかったものとした場合の相続人の数。養子は1人/2人まで
相続税法15条3項同上特別養子・配偶者の実子で養子となった者・代襲相続人は実子とみなす
相続税法16条相続税の総額法定相続分で取得したものとした場合の金額に税率(10%〜55%の8段階)
相続税法19条の2第1項配偶者に対する相続税額の軽減法定相続分と1億6,000万円のいずれか大きいほうまで
相続税法19条の2第2項同上申告期限までに未分割の財産は計算の基礎に含まれない。ただし書で3年以内の分割
相続税法19条の2第3項同上申告書に明細を添付した場合に限り適用
相続税法27条1項相続税の申告書列挙から19条の2を除外。期限は知った日の翌日から10月以内
条文の記述は執筆時点のもの。税制は毎年の改正で変わるため、実際のご提案では最新の制度をご確認ください。土地の評価や小規模宅地等の特例など、この記事で扱っていない要素で結論が変わることがあります。

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