【FPの実務】自宅の土地の相続税が心配──「誰が取るか」で決まることから説明する
相続を心配するお客様から、こんな相談が届く。
「母の自宅の土地に高い相続税がかかると聞いて不安です。自宅の土地の評価を下げられる特例があるそうですが、どんな制度ですか?」
FPの実務で、小規模宅地等の特例はよく相談される。効果が大きい分、力になるのは「誰が取得するかで結論が変わる」と先に伝えられたときだ。この特例は土地に付いているのではなく、取得する人に付いている。この記事では、条文の構造から整理する。
まず結論:減額の割合と面積は、条文に4区分で書かれている
……限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(……「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
一 特定事業用宅地等である小規模宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 百分の二十
二 貸付事業用宅地等である小規模宅地等 百分の五十(租税特別措置法69条の4第1項)
| 区分 | 課税価格に入れる割合 | 限度面積(同条2項) |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 20%(=80%減) | 330㎡ |
| 特定事業用宅地等/特定同族会社事業用宅地等 | 20%(=80%減) | 400㎡ |
| 貸付事業用宅地等 | 50%(=50%減) | 200㎡(按分あり) |
条文は「20%を課税価格に算入する」という書き方をしている。実務でよく言う「80%減額」は、その裏返しである。
効果が大きいので、この特例が使えるかどうかで、相続税がかかるかどうかが変わることが珍しくない。基礎控除を超えそうな相談では、必ず確認する。
「誰が取得するか」で決まる
二 特定居住用宅地等 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等……で、当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。……)が相続又は遺贈により取得したもの……をいう。(租税特別措置法69条の4第3項2号)
この号の主語をよく読みたい。「配偶者」または「イロハのいずれかを満たす親族」が取得したものである。
つまり配偶者が取得する場合、イロハの要件を満たす必要がない。配偶者だけが無条件である。
同居や、申告期限までの保有・居住といった要件は、配偶者以外の親族にかかるものだ。
ここが相談でいちばん先に伝えるべきことになる。同じ土地でも、誰が取得するかで結論が変わる。「土地に付いている特例」と思っていらっしゃると、遺産分割の話が変わってしまう。
配偶者以外の親族については、イロハの3通りが置かれている。
| 号 | 誰か | 要件 |
|---|---|---|
| イ | 同居していた親族 | 相続開始時から申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつその建物に居住していること |
| ロ | 同居していない親族 | 下の3要件を全て満たすこと。かつ配偶者・同居親族がいない場合に限る |
| ハ | 生計を一にしていた親族 | 申告期限まで引き続き有し、かつ相続開始前から申告期限まで自己の居住の用に供していること |
ロ 当該親族……が次に掲げる要件の全てを満たすこと(当該被相続人の配偶者又は相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で政令で定める者がいない場合に限る。)。
(1)相続開始前三年以内に……当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある法人……が所有する家屋(相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと。
(2)当該被相続人の相続開始時に当該親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
(3)相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること。(租税特別措置法69条の4第3項2号ロ)
ロは、いわゆる「持ち家のない親族」の規定である。「全てを満たすこと」とあるので3つとも要る。
さらに柱書のかっこ書に「配偶者又は……居住していた親族……がいない場合に限る」とある。配偶者や同居していた親族がいれば、そもそもロは使えない。ロは順番として最後である。
(1)の範囲が広い。本人だけでなく、配偶者、三親等内の親族、特別の関係がある法人が所有する家屋まで含む。親名義や兄弟名義の家に住んでいた場合も入る。
(2)も見落とされる。いま住んでいる家を、過去に所有していたことがないことである。自分の家を売って、その家に住み続けているような形は当たらない。
この3要件はご本人の記憶だけでは判定できない。登記や住民票で確認していただくようお伝えする。その場で「大丈夫でしょう」と言わない。
面積の按分——貸付事業用を混ぜると枠が食われる
三 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等 次のイ、ロ及びハの規定により計算した面積の合計が二百平方メートル以下であること。
イ 特定事業用等宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に四百分の二百を乗じて得た面積
ロ 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等がある場合の当該選択特例対象宅地等の面積を合計した面積に三百三十分の二百を乗じて得た面積
ハ 貸付事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積を合計した面積(租税特別措置法69条の4第2項3号)
この号が、実務でいちばん見落とされる。
貸付事業用宅地等を選ばない場合は、2項1号と2号がそれぞれ独立して働く。だから特定事業用等400㎡と特定居住用330㎡を、合わせて730㎡まで使える。
ところが貸付事業用を1㎡でも選ぶと、3号の按分式に切り替わる。イとロで他の区分の面積が200㎡換算に引き直され、その合計が200㎡以下でなければならなくなる。
たとえば特定居住用を330㎡すべて選ぶと、ロで330×(200/330)=200㎡となり、その時点で200㎡の枠を使い切る。貸付事業用は1㎡も選べない。
だからアパートの敷地と自宅の土地の両方がある相続では、どの組み合わせが有利かを計算して選ぶことになる。減額割合も面積も違うので、単純に大きい土地を選べばよいわけではない。
1項が「政令で定めるところにより選択をしたもの」としているとおり、これは選択である。選び方で税額が変わる。
3年以内に始めたものは外れる
3項1号(特定事業用)と4号(貸付事業用)に、同じ形のかっこ書がある。
1号は「相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等……を除き」、4号は「相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等……を除き」である。
相続の直前に始めた事業や賃貸は、原則として対象にならない。それぞれ一定規模以上の事業を行っていた場合、3年を超えて貸付事業を行っていた場合という除外もあるが、「相続対策で始める」という発想が通らない作りになっている。
相談で「アパートを建てれば」という話が出たときは、この3年の期間があることを先に伝える。効果が出るまでに時間がかかるという事実として伝えればよく、煽る必要はない。
使うには申告が要る
第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の……申告書……に第一項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。(租税特別措置法69条の4第7項)
「添付がある場合に限り、適用する」である。申告しなければ、この特例は使えない。
だからこの特例を使った結果として相続税が0円になる場合でも、申告が必要になる。「0円だから申告不要」と案内しない。
配偶者の税額軽減(相続税法19条の2第3項)とまったく同じ構造である。特例で0円にするものは、申告して初めて使えると覚えておくと間違えない。
8項に救済もある。やむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、後から書類を提出することで適用できる場合がある。ただしこれを当てにした案内はしない。
第一項の規定は、……申告期限までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から三年以内……に分割された場合……には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。(租税特別措置法69条の4第4項)
分け方が決まっていないと使えない。こちらも配偶者の税額軽減と同じ形で、ただし書により申告期限から3年以内に分割された場合は適用できる。
相談の進め方——この順番で確認する
- 誰が取得する見込みかを伺う。ここで結論が決まる(措置法69条の4第3項2号)。
- 配偶者がいらっしゃるか。配偶者なら無条件で使える(同号本文)。
- 同居しているご家族がいるか。イに当たるか(同号イ)。
- いない場合、取得する方の住まいの経歴を確認する(同号ロの3要件)。登記と住民票で。
- 他に土地があるか。事業用、賃貸用(同条2項)。
- 貸付事業用を選ぶかを検討する。選ぶと按分になる(同項3号)。
- 始めた時期を確認する。3年以内は原則対象外(同条3項1号・4号)。
- 組み合わせを計算する。どれを選ぶかで税額が変わる。
- 分割の見込みを確認する(同条4項)。
- 申告が必要とお伝えする(同条7項)。0円でも申告する。
- 税理士におつなぎする。要件の当てはめは専門の判断になる。
プロならこう説明する
ご心配のとおり、自宅の土地は評価が大きくなりやすい部分です。ただ、その評価を大きく下げられる特例があります。
まず効果からお伝えします。自宅の土地について、330平方メートルまでの部分の評価を8割減らせます。この特例が使えるかどうかで、相続税がかかるかどうかが変わることも珍しくありません。
そのうえで、いちばん大事なことをお伝えします。
この特例は、土地に付いているのではなく、取得する方に付いています。つまりどなたが相続されるかで、使えるかどうかが変わります。
法律の作りをご説明します。使えるのは「配偶者」または「一定の要件を満たす親族」です。
お父さまがご健在であれば、お父さまが取得される場合は無条件で使えます。同居していたかどうかも、その後どうされるかも問われません。
配偶者以外の方の場合は、要件が3通りあります。
1つめが同居されていたご家族。この場合は、申告の期限まで土地を持ち続け、その家に住み続けていることが条件です。
2つめが生計を一にされていたご家族。
3つめが同居していないご家族で、こちらは条件が細かくなります。3つの条件を全部満たす必要があり、しかも配偶者や同居のご家族がいらっしゃらない場合に限られます。
この3つめについては、ご本人の記憶だけでは判定できません。ご自身やご配偶者、三親等内のご親族が所有する家に住んだことがないか、という条件が入っていますので、登記と住民票で確認させてください。
ですので、まずどなたが取得される見込みかを教えていただけますか。分け方のご相談は、ここから始めたほうがよいと思います。
もう1点、伺わせてください。アパートや駐車場など、貸している土地はお持ちですか。
実は、そちらも対象になるのですが、自宅の土地と一緒に選ぶと、面積の枠が減る仕組みになっています。
自宅だけでしたら330平方メートル使えるのですが、貸している土地を1平方メートルでも選びますと、計算のしかたが切り替わります。どの組み合わせがいちばん有利かは、計算してお出しします。
それから、これから対策として始められる場合についてもお伝えしておきます。
法律に、相続が起きる前の3年以内に新しく始めた事業や賃貸は、原則として対象から外すと書かれています。効果が出るまでに時間がかかる、ということです。
最後に、手続きです。この特例を使うには、相続税の申告が必要です。法律に「申告書に記載し、明細書を添付した場合に限り適用する」と書かれています。
この特例を使った結果、相続税が0円になる場合でも、申告は必要です。ここは間違えやすいので、はっきりお伝えしておきます。
細かい要件の当てはめは税理士の領域になりますので、ご希望でしたらおつなぎします。私のほうでは、どなたが取得されると有利かという組み立てを、ご一緒に整理させてください。
よくある質問と、その答え方
「自宅の土地なら、誰が相続しても使えますよね」
そうではない。租税特別措置法69条の4第3項2号は、特定居住用宅地等を「当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族……が相続又は遺贈により取得したもの」と定めている。この特例は土地ではなく取得する人に付いている。配偶者だけが無条件で、それ以外の親族はイ・ロ・ハのいずれかを満たす必要がある。
「実家を出ていますが、持ち家がないので使えますよね」
確認することが多い。同号ロは「次に掲げる要件の全てを満たすこと」とし、さらに柱書のかっこ書で「配偶者又は……居住していた親族……がいない場合に限る」としている。配偶者や同居親族がいれば、そもそもロは使えない。(1)は本人・配偶者・三親等内の親族・特別の関係がある法人が所有する家屋まで範囲に入り、(2)はいま住んでいる家を過去に所有していたことがないことを求める。登記と住民票で確認する。
「自宅とアパート、両方の土地で使えますよね」
面積の枠が変わる。貸付事業用宅地等を選ばなければ2項1号と2号が独立して働き、特定事業用等400㎡と特定居住用330㎡を合わせて730㎡まで使える。ところが貸付事業用を選ぶと2項3号の按分式に切り替わり、他の区分の面積が200㎡換算に引き直されて合計200㎡以下という制約になる。どの組み合わせが有利かを計算して選ぶ。1項も「選択をしたもの」という書き方をしている。
「この特例で0円になるなら、申告は要りませんよね」
必要である。同条7項は「適用を受けようとする旨を記載し……明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する」としている。申告しなければ特例が使えないので、0円という結果にもならない。配偶者の税額軽減(相続税法19条の2第3項)と同じ構造で、特例で0円にするものは、申告して初めて使える。あわせて同条4項により申告期限までに分割されていないと使えない点も押さえる。
説明で外したくないポイント
- 効果は課税価格に20%を算入(=80%減)。貸付事業用は50%(措置法69条の4第1項)。
- 面積は330㎡・400㎡・200㎡(同条2項)。
- この特例は取得する人に付いている(同条3項2号)。
- 配偶者だけが無条件。それ以外はイ・ロ・ハのいずれか。
- ロは3要件すべて、かつ配偶者・同居親族がいない場合に限る(同号ロ)。
- ロの(1)は三親等内の親族や法人の所有家屋まで含む。記憶で判定しない。
- 貸付事業用を選ぶと面積が按分される(同条2項3号)。730㎡ではなくなる。
- 3年以内に始めた事業・貸付は原則対象外(同条3項1号・4号)。
- 未分割では使えない。3年以内の分割で救済(同条4項)。
- 申告し、明細書を添付して初めて使える(同条7項)。0円でも申告する。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 租税特別措置法69条の4第1項 | 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 | 選択したものに限り、区分に応じ20%または50%を課税価格に算入 |
| 同条2項1号・2号 | 同上(限度面積要件) | 特定事業用等400㎡、特定居住用330㎡ |
| 同条2項3号 | 同上 | 貸付事業用を選ぶ場合の按分式(400分の200、330分の200、合計200㎡以下) |
| 同条3項1号 | 特定事業用宅地等 | 事業を引き継ぎ申告期限まで営むこと。3年以内に新たに事業の用に供したものを除く |
| 同条3項2号 | 特定居住用宅地等 | 配偶者は無条件。イ(同居)/ロ(3要件すべて・配偶者や同居親族がいない場合に限る)/ハ(生計一) |
| 同条3項3号 | 特定同族会社事業用宅地等 | 株式等の10分の5超を有する法人の事業の用 |
| 同条3項4号 | 貸付事業用宅地等 | 3年以内に新たに貸付事業の用に供したものを除く |
| 同条4項 | 同上 | 未分割には適用しない。ただし書で申告期限から3年以内の分割 |
| 同条7項・8項 | 同上 | 申告書への記載と明細書の添付がある場合に限り適用。やむを得ない事情の救済 |