【FPの実務】生前贈与、2つの方法の違いは?──「戻せるかどうか」で分けて説明する
財産を早めに渡したいお客様から、こんな相談が届く。
「元気なうちに、子どもたちに少しずつ財産を渡したいと考えています。生前贈与には方法が2つあると聞きましたが、違いを教えてください。」
FPの実務で、生前贈与の課税方法の説明はよく扱う。金額の比較も大事だが、力になるのは「一方は選び直せない」と先に伝えられたときだ。条文にはっきり書かれている。この記事では、その違いを条文の構造から整理する。
まず結論:いちばん大きな違いは「戻せるかどうか」
相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない。(相続税法21条の9第6項)
金額の話に入る前に、この1文をお伝えする。相続時精算課税を選ぶと、その贈与者との間では、暦年課税に戻せない。
5項も見ておきたい。届出書を提出した者が、特定贈与者の推定相続人でなくなった場合においても、その者からの贈与には引き続き適用があるとしている。関係が変わっても続く。
だから「とりあえず選んでみる」ができない。相談ではこの点を最初に伝えて、その後の説明を聞いていただく。順番を逆にすると、金額の大きさで決めてしまいかねない。
| 暦年課税 | 相続時精算課税 | |
|---|---|---|
| 選び直し | — | 撤回できない(相税21条の9第6項) |
| 使える人 | 制限なし | 贈与者60歳以上、受贈者は18歳以上の推定相続人(直系卑属)(同条1項) |
| 基礎控除 | 110万円(措置法70条の2の4) | 110万円(措置法70条の3の2) |
| 特別控除 | — | 2,500万円(相税21条の12) |
| 相続時 | 7年以内の贈与を加算(相税19条) | 贈与財産を課税価格に加算 |
110万円は、読み替えで出てくる数字
贈与税については、課税価格から六十万円を控除する。(相続税法21条の5)
平成十三年一月一日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第二十一条の五の規定にかかわらず、課税価格から百十万円を控除する。(租税特別措置法70条の2の4第1項)
本則の相続税法21条の5は60万円である。よく知られている110万円は、措置法が読み替えている数字だ。
この構造を知っておくと、数字が改正で動きうるものだと分かる。本則に書かれた数字ではなく、特例で置き換えられた数字である。
相続時精算課税のほうの110万円は、措置法70条の3の2という別の条文で、令和6年1月1日以後の贈与について置かれている。2つの110万円は、根拠条文が違う。
だから「どちらも110万円だから同じ」ではない。片方だけが改正されることもありうる。お客様には数字ではなく、それぞれに基礎控除があるという構造でお伝えする。
暦年課税——相続前7年分が戻ってくる
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、……その価額(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし……(相続税法19条1項)
| 贈与の時期 | 加算 |
|---|---|
| 相続開始前3年以内 | 全額を加算 |
| 3年超7年以内 | その部分の合計額から100万円を控除した残額を加算 |
条文の見出しが「相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額」になっている。かつての3年から延びている。
100万円の控除の書き方に注意したい。「当該財産の価額の合計額から百万円を控除」である。年ごとに100万円ではなく、3年超7年以内の部分の合計から1回だけ100万円を引く。
実務上の意味は「早く始めるほど効く」ということである。ただしこれは煽る材料ではない。贈与は本来、渡したい相手に渡したい時に渡すもので、税の計算はその後についてくる。「急いだほうがよい」ではなく「時間が味方になる仕組みです」と伝える。
そして加算されるのは、相続又は遺贈により財産を取得した者である。相続で何も取得しない人への贈与は、この加算の対象にならない。孫への贈与が話題になるのは、この構造による。ただし遺贈を受けた場合や、生命保険金を受け取った場合などは扱いが変わるので、その場で断定せず確認する。
1項のかっこ書は「特定贈与財産を除く」としている。これは2項で定義されていて、贈与税の配偶者控除を受けた居住用不動産等が該当する。この部分は加算されない。
相続時精算課税——選べる人が決まっている
贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年一月一日において十八歳以上であるものに限る。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において六十歳以上の者である場合には、……この節の規定の適用を受けることができる。(相続税法21条の9第1項)
3つの条件がある。推定相続人であること、直系卑属であること、その年1月1日で18歳以上であること。そして贈与する側が同じ日に60歳以上であること。
判定日が「その年1月1日」である点に注意する。年の途中で60歳や18歳になっても、その年は使えない。誕生日を伺って、いつから使えるかを確認する。
そして直系卑属である。配偶者や兄弟姉妹は対象外だ。孫は直系卑属だが推定相続人であることも要るので、子が健在なら通常は当たらない(措置法に別の特例が置かれている場合があるので、その年の条文で確認する)。
4項にも手当てがある。年の途中で養子になったなど、推定相続人となった時より前の贈与には適用がない。
……特定贈与者ごとの……贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの……贈与税の課税価格
2 前項の規定は、期限内申告書に……記載がある場合に限り、適用する。(相続税法21条の12)
1号のかっこ書が、この控除の性質を示している。2,500万円は累計の枠で、使った分だけ減っていく。毎年2,500万円ではない。
「特定贈与者ごとの」とあるので、父からと母からで、それぞれ2,500万円の枠がある。
2項が「期限内申告書に……記載がある場合に限り、適用する」としている。期限内申告である。期限を過ぎると、この特別控除が使えない。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減と同じく、申告して初めて使える形だが、こちらは「期限内」という限定が付いている点がより厳しい。贈与を受けた翌年の申告期限を、必ずお伝えする。
3項に救済もあるが、やむを得ない事情があると税務署長が認めるときに限られる。当てにしない。
もう1つの選択肢——贈与税の配偶者控除
その年において贈与によりその者との婚姻期間が二十年以上である配偶者から専ら居住の用に供する土地……若しくは家屋……(……「居住用不動産」という。)又は金銭を取得した者(その年の前年以前のいずれかの年において贈与により当該配偶者から取得した財産に係る贈与税につきこの条の規定の適用を受けた者を除く。)が、当該取得の日の属する年の翌年三月十五日までに当該居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合……においては、その年分の贈与税については、課税価格から二千万円……を控除する。(相続税法21条の6第1項)
条件が4つある。婚姻期間20年以上、居住用不動産または取得のための金銭、翌年3月15日までに居住し、その後も引き続き居住する見込み、そして同じ配偶者からは一度きりである。
かっこ書の「その年の前年以前のいずれかの年において……この条の規定の適用を受けた者を除く」が、一度きりを表している。
そして19条2項により、この控除を受けた部分は相続開始前7年以内の加算からも除かれる。2つの条文がつながっている。
相談では婚姻期間を伺う。20年に届いていない場合は、いつから使えるかをお伝えする。ここは時間が解決する条件である。
どちらを選ぶかの考え方
金額の比較だけでは決められない。相続時精算課税は撤回できないからである。
整理の材料になるのは、次のような点である。
- 渡したい財産の性質。値上がりが見込まれるものか、収益を生むものか
- 渡す時期。すぐにまとまった額を渡したいのか、時間をかけられるのか
- 相続財産の全体像。そもそも基礎控除の範囲に収まりそうか
- 他のご家族。特定の子だけに渡すことで、後の分割に影響しないか
- 渡したあとに気が変わる可能性。撤回できないことをどう受け止めるか
いちばん大事なのは、税の損得だけで決めないことである。生前贈与はご本人の財産を、ご本人の意思で渡す行為である。税は結果としてついてくる。
FPは「どちらが得か」ではなく「何を実現したいか」から入る。そのうえで、それぞれの方法で税がどうなるかをお出しする。順番を逆にしない。
そして具体的な当てはめと申告は税理士の領域である。とくに相続時精算課税は撤回できないので、選ぶ前に税理士に確認していただくようお伝えする。
相談の進め方——この順番で確認する
- 何を実現したいかを伺う。税の話より先に。
- ご年齢を伺う。1月1日時点で判定する(相税21条の9第1項)。
- 渡す相手を確認する。推定相続人である直系卑属か(同項)。
- 撤回できないことを伝える(同条6項)。ここで一度立ち止まっていただく。
- 婚姻期間を伺う。配偶者への贈与なら20年(同法21条の6第1項)。
- 相続財産の全体像を確認する。基礎控除に収まるか。
- 7年の加算を説明する(同法19条1項)。3年超は合計から100万円。
- それぞれの方法で試算する。
- 期限内申告が必要なことを伝える(同法21条の12第2項)。
- 税理士におつなぎする。撤回できないものを選ぶ前に。
プロならこう説明する
方法は2つあります。ただ、金額のお話をする前に、1つだけ先にお伝えしたいことがあります。
2つのうち「相続時精算課税」のほうは、一度選ぶと、その方からの贈与については、もう一方の方法に戻せません。法律に「届出書を撤回することができない」と書かれています。
ですので、「とりあえず選んでみる」ということができません。この点を頭に置いたうえで、以下を聞いていただければと思います。
1つめの暦年課税は、特に手続きをしなければこちらになります。年110万円までの基礎控除があります。
こちらで気をつけていただきたいのが、相続が起きたときに、その前の一定期間の贈与が相続財産に戻されるという仕組みです。
いまの法律では7年以内とされています。ただし3年より前の部分については、合計から100万円を差し引いた残りが戻される形になっています。
ですので、時間をかけられるほど、この仕組みの影響が小さくなります。ただ、急いだほうがよいという話ではありません。贈与は本来、渡したい方に渡したいときに渡すものだと思います。
2つめの相続時精算課税は、選べる方が決まっています。
贈与される方が60歳以上、受け取る方が18歳以上のお子さんやお孫さん——正確には推定相続人である直系卑属です。年齢はその年の1月1日で判定しますので、年の途中でお誕生日を迎えられた場合は翌年からになります。
こちらは累計2,500万円まで、贈与のときには税がかからない形です。毎年2,500万円ではなく、使った分だけ枠が減っていきます。
そのうえで、相続のときに、その贈与財産を相続財産に足して計算します。「精算課税」という名前は、ここから来ています。
ここで手続きのご注意があります。この2,500万円の控除は、期限内の申告書に記載した場合に限り使えます。期限を過ぎると使えません。贈与を受けられた翌年の申告期限を、必ず控えておいてください。
それと、奥さまへの贈与をお考えでしたら、もう1つ別の仕組みがあります。
婚姻期間が20年以上のご夫婦の間で、お住まいの不動産、またはその購入資金を贈与される場合、2,000万円まで控除できます。ただし同じ配偶者からは一度きりで、翌年3月15日までに住み始めて、その後も住み続ける見込みであることが条件です。
こちらは、先ほどの「相続財産に戻される」対象からも外れます。2つの条文がつながっています。
最後に、選び方についてです。
税の損得だけでお決めにならないほうがよいと思っています。生前贈与は、ご自身の財産を、ご自身のお考えで渡されるものです。税は結果としてついてきます。
ですので、まず何を実現されたいかを教えてください。誰に、何を、いつまでに渡したいか。そこが決まれば、それぞれの方法で税がどうなるかをお出しします。
そして相続時精算課税は戻せませんので、選ばれる前に税理士にも確認していただくようお願いします。ご希望でしたらおつなぎします。
よくある質問と、その答え方
「相続時精算課税を試して、合わなければ戻せますよね」
戻せない。相続税法21条の9第6項は「相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない」と定めている。しかも5項により、その後に推定相続人でなくなった場合でも、その贈与者からの贈与には引き続き適用がある。「とりあえず選ぶ」ができないので、金額の説明より先にこの点を伝える。
「相続時精算課税は毎年2,500万円ですよね」
累計である。相続税法21条の12第1項1号は「二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)」としており、使った分だけ枠が減る。ただし「特定贈与者ごとの」なので、父からと母からでそれぞれ枠がある。また同条2項は「期限内申告書に……記載がある場合に限り、適用する」としており、期限を過ぎると使えない。
「3年より前の贈与は、毎年100万円ずつ引けるのですよね」
そうではない。相続税法19条1項のかっこ書は「当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額」としている。3年超7年以内の部分の合計から、1回だけ100万円を引く。年ごとではない。なお、3年以内の部分は全額が加算される。
「年110万円は法律で決まった額ですよね」
本則は違う。相続税法21条の5は「課税価格から六十万円を控除する」としており、110万円は租税特別措置法70条の2の4が読み替えている数字である。相続時精算課税の110万円は措置法70条の3の2という別の条文で、令和6年1月1日以後の贈与について置かれている。2つの110万円は根拠が違うので、片方だけが改正されることもありうる。数字ではなく、それぞれに基礎控除があるという構造で伝える。
説明で外したくないポイント
- 相続時精算課税の届出は撤回できない(相税21条の9第6項)。金額の前に伝える。
- 推定相続人でなくなっても適用は続く(同条5項)。
- 年齢はその年1月1日で判定。贈与者60歳以上、受贈者18歳以上の直系卑属(同条1項)。
- 2,500万円は累計。特定贈与者ごと(同法21条の12第1項)。
- 期限内申告書への記載がある場合に限り適用(同条2項)。
- 暦年課税の加算は相続開始前7年以内(同法19条1項)。
- 3年超7年以内は合計から100万円。年ごとではない(同項かっこ書)。
- 110万円は措置法の読み替え。本則は60万円(同法21条の5、措置法70条の2の4)。
- 贈与税の配偶者控除は婚姻20年・2,000万円・一度きり・翌年3月15日まで(相税21条の6第1項)。加算からも除かれる(同法19条2項)。
- 税の損得だけで決めない。何を実現したいかから入る。選ぶ前に税理士へ。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 相続税法19条1項 | 相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額 | 7年以内を加算。3年超の部分は合計から100万円を控除 |
| 相続税法19条2項 | 同上 | 特定贈与財産(配偶者控除を受けた居住用不動産等)は加算から除く |
| 相続税法21条の5 | 贈与税の基礎控除 | 本則は60万円 |
| 相続税法21条の6第1項 | 贈与税の配偶者控除 | 婚姻期間20年以上。2,000万円。翌年3月15日まで。同じ配偶者から一度きり |
| 相続税法21条の9第1項・4項〜6項 | 相続時精算課税の選択 | 年齢と続柄の要件(1月1日で判定)/推定相続人でなくなっても継続/撤回できない |
| 相続税法21条の12 | 相続時精算課税に係る贈与税の特別控除 | 2,500万円は累計・特定贈与者ごと。期限内申告書への記載が要件 |
| 租税特別措置法70条の2の4 | 贈与税の基礎控除の特例 | 21条の5にかかわらず110万円 |
| 租税特別措置法70条の3の2 | 相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除の特例 | 令和6年1月1日以後、課税価格から110万円 |