FP2級の実務クエスト

【FPの実務】教育資金、何から始める?──「そもそも贈与税がかからない」から話す

子が生まれたお客様から、こんな相談が届く。

「先日、娘が生まれました。将来の大学進学に向けて、いまから教育資金を準備したいです。まわりに聞くと『学資保険がいい』『積立投資がいい』と意見がバラバラで、何から始めればいいのか分かりません。わが家に合った進め方を教えてください。」

FPの実務で、教育資金の相談はよく扱う。手段の比較から入ると意見が割れるが、先に決めるべきことと、知っておくと選択肢が広がる仕組みがある。この記事では、その順番で整理する。特定の商品名や利回りの保証はしない。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「子どもの教育資金プランを提案する」を読み物として再構成したもの。人物・相談はすべて架空です。税制や制度は改正されることがあるため、実際のご提案では国税庁や日本学生支援機構の最新の資料でご確認ください。

まず結論:最初に決めるのは「いつまでに・いくら」

手段の比較から入ると、意見が割れるのは当然である。目的地が決まっていないから、どの乗り物がよいかを比べられない

先に決めるのはいつまでに、いくらである。お子さんが生まれたばかりなら、使う時期はおよそ18年後と分かっている。期間が読めているのは、教育資金の大きな特徴である。

金額は進路によって幅がある。ここはご家庭の希望と、公的な資料の目安で置く。FPが決めるものではない

そして一度に全額を用意する必要はない。次に述べるとおり、必要な都度の教育費は贈与税の対象にならないので、ご親族からの援助も選択肢に入る。手段の話は、その後でよい

知っておきたい前提——教育費に贈与税はかからない

次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの(相続税法21条の3第1項2号)

これが大前提である。祖父母が孫の学費を出しても、贈与税はかからない

条件は3つ読み取れる。扶養義務者相互間であること、生活費又は教育費に充てるためであること、そして通常必要と認められるものであることだ。

「扶養義務者」には直系血族が含まれるので、祖父母と孫の間も入る(民法877条1項)。

大事なのは「充てるためにした」という書き方である。実際にその用途に使われることが前提になっている。渡した資金が使われずに残ると、この規定から外れるという整理につながる。

だから実務では「必要な都度、必要な額を、学校などへ直接または本人へ渡す」形が確実になる。まとめて預けて置いておく形は、この規定では説明しにくい

相談で効くのはここである。「祖父母に出してもらうと贈与税がかかるのでは」というご心配に、この条文で答えられる。心配せずに援助を受けられると分かると、準備の設計そのものが変わる。

まとめて渡したい場合の特例

平成二十五年四月一日から令和八年三月三十一日までの間に、個人(教育資金管理契約を締結する日において三十歳未満の者に限る。)が、その直系尊属と……教育資金管理契約に基づき……取得した場合……には、……千五百万円までの金額……については、贈与税の課税価格に算入しない。ただし、当該個人の……取得した日の属する年の前年分の所得税に係る……合計所得金額が千万円を超える場合は、この限りでない。(租税特別措置法70条の2の2第1項)

冒頭が「平成二十五年四月一日から令和八年三月三十一日までの間に」となっている。期間を区切って設けられている特例である。

だからこの特例が使えることを前提にした提案をしない使えるかどうかを、その年の条文と国税庁の資料で確認するのが先になる。

要件も押さえる。受け取る側は契約を締結する日に30歳未満、渡す側は直系尊属、上限は1,500万円。そしてただし書で、受け取る側の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は使えない

この特例は金融機関との教育資金管理契約を通じて行う形になっており、手続きと管理が伴う。使い残しの扱いや、贈与者が亡くなったときの扱いにも定めがある。

そのうえで大事なのは、21条の3第1項2号があるので、多くの場合はこの特例がなくても足りるということである。「まとめて渡しておきたい」という事情がある場合の選択肢として位置づける。

相談では「必要な都度で足りませんか」と一度伺う。手続きの手間と、使い道が縛られることを考えると、都度のほうが軽いことが多い。

自分で準備する部分——2つに分けて考える

役割性質使う時期
確実に用意する部分元本が変動しない、または変動が小さい近い将来に使う分
時間を使う部分値動きがあるが、期間を長くとれる先に使う分

この分け方の根拠は使う時期である。近く使うお金は、そのときの相場に左右されると困る先に使うお金は、時間を味方にできる

お子さんが生まれたばかりなら、大学入学までは十数年ある。一方で中学・高校の費用は、それより早く来る教育費は1回ではなく、階段状に発生する

だから「全部を確実に」も「全部を時間に」も、どちらも合わない時期ごとに分けて置くという考え方になる。

どの割合にするかはご家庭の考え方による。FPが決めない値動きのあるものをどこまで受け入れられるかを伺って、一緒に決める。

そして利回りを前提にした計画を立てない。金融サービス提供法5条が断定的判断の提供等を禁じているとおり、「この利回りなら届きます」という言い方はしない運用しない前提でも足りる部分を先に確保するのが順序になる。

公的な支えも、選択肢に入れておく

機構は、第三条の目的を達成するため、次の業務を行う。
一 経済的理由により修学に困難がある優れた学生に対し、学資の貸与及び支給その他必要な援助を行うこと。(独立行政法人日本学生支援機構法13条1号)

条文が「貸与及び支給」と書いている。返すものと、返さなくてよいものの2種類があるということである。

「奨学金=借金」と受け取られていることがあるが、条文の段階で2種類ある。相談ではここを分けてお伝えする。

ただし要件や金額は機構の定めによるので、具体的な内容は機構の最新の資料で確認していただくFPが金額を言わない

これらを最初から当てにするのではなく、知っておくことに意味がある。「足りなかったら終わり」ではないと分かると、準備の計画に無理がなくなる。

あわせて高等学校等就学支援金や、自治体・学校ごとの制度もある。時期が近づいたら改めて調べるということを、いま伝えておく。

準備の順番——この順で進める

  1. いつ、いくら必要かを置く。進路の希望と公的な資料の目安で。
  2. 階段状に発生することを確認する。中学・高校・大学で時期が違う。
  3. ご親族からの援助の見込みを伺う。都度なら贈与税はかからない(相税21条の3第1項2号)。
  4. まとめて渡す事情があるかを確認する。あれば特例を調べる(措置法70条の2の2)。
  5. いま出せる額を確認する。家計から無理なく続けられる額。
  6. 近く使う分を、確実に用意する部分に置く。
  7. 先に使う分を、時間を使う部分に置く。
  8. 運用しない前提でも足りるかを計算する。
  9. 公的な支えを知っておく(学生支援機構法13条1号)。
  10. 毎年見直す。進路も家計も変わる。

プロならこう提案する

ご相談ありがとうございます。周りの方のご意見が割れるのは自然だと思います。目的地が決まっていないと、どの手段がよいかは比べられないためです。

ですので、手段の前に2つ決めさせてください。いつまでに、いくらです。

お子さんが生まれたばかりでしたら、大学に入られるまでおよそ18年と分かっています。期間が読めているのは、教育資金の強みです。

金額のほうは進路によって幅がありますので、ご希望と、公的な調査の目安で置きましょう。

その前に、先に押さえておきたい前提を1つお伝えします。

教育費として必要な都度お渡しする分には、贈与税はかかりません。法律に「扶養義務者相互間において……教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は課税価格に算入しない、と書かれています。

ですので、おじいさま・おばあさまに学費を出していただく場合も、贈与税のご心配は要りません。「必要なときに、必要な額を」という形であれば大丈夫です。

まとめて渡しておきたい、というご事情がある場合には別の特例もあるのですが、期間を区切って設けられているものですので、そのときに使えるかを確認いたします。多くの場合は、都度で足ります。

そのうえで、ご自身で準備される部分についてです。2つに分けてお考えいただくとすっきりします。

1つめが確実に用意する部分。2つめが時間を使う部分です。

分ける基準はいつ使うかです。近く使うお金は、そのときの相場に左右されると困ります。一方で先に使うお金は、時間を味方にできます。

ここで大事なのが、教育費は1回ではなく、階段状にかかるということです。中学、高校、大学と時期が違います。ですので「全部を確実に」も「全部を運用で」も、どちらも合いません。

どの割合にされるかは、ご家庭のお考えによります。値動きのあるものをどこまで受け入れられるか、お聞かせください。

1つだけ、私の側の方針を申し上げます。「この利回りなら届きます」という計算はいたしません。利回りは約束できないものだからです。

代わりに、運用しない前提でも足りる部分を先に確保する形で組ませてください。そのうえで、上乗せを時間に任せる部分を置きます。

最後に、知っておいていただきたいことがあります。公的な支えがあります。

奨学金は借りるものだけではありません。法律にも「学資の貸与及び支給」と書かれていて、返さなくてよいものもあります。高校の就学支援金や、自治体・学校ごとの制度もあります。

これらを最初から当てにするという話ではなく、知っておいていただくということです。「足りなかったら終わり」ではありません。

そのほうが、いまの計画に無理がなくなると思います。ご家計を削りすぎないほうが、結果として長く続きます。

では、まずいま無理なく出せる額を教えてください。そこから逆算しましょう。そして毎年見直します。進路もご家計も変わりますので、一度決めて終わりにはしません。

よくある質問と、その答え方

「祖父母に学費を出してもらうと、贈与税がかかりますよね」
かからない。相続税法21条の3第1項2号が「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」を課税価格に算入しないとしている。祖父母と孫は直系血族なので扶養義務者に含まれる(民法877条1項)。ただし「充てるためにした」という書き方なので、実際にその用途に使われることが前提になる。必要な都度、必要な額を渡す形が確実である。

「1,500万円の特例を使ったほうが得ですよね」
事情による。租税特別措置法70条の2の2は「平成二十五年四月一日から令和八年三月三十一日までの間に」期間を区切った特例で、受け取る側が30歳未満、渡す側が直系尊属、上限1,500万円、そしてただし書で受け取る側の前年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えない。金融機関との教育資金管理契約が必要で、管理の手間もかかる。21条の3第1項2号があるので、都度で足りることが多いまとめて渡しておきたい事情がある場合の選択肢と位置づける。使えるかどうかはその年の条文で確認する。

「学資保険と積立投資、どちらがいいですか」
どちらか一方ではなく使う時期で分けると整理しやすい。近く使うお金は元本の変動が小さいもの先に使うお金は時間を使えるものという分け方である。教育費は中学・高校・大学と階段状に発生するので、時期ごとに置く。割合はご家庭の考え方によるもので、FPが決めるものではない。利回りを前提にした計画は立てず、運用しない前提でも足りる部分を先に確保する

「奨学金は借金ですよね」
2種類ある。独立行政法人日本学生支援機構法13条1号は機構の業務を「学資の貸与及び支給その他必要な援助を行うこと」としている。条文の段階で「貸与」と「支給」が分かれている。要件や金額は機構の定めによるため、具体的な内容は最新の資料で確認していただく。最初から当てにするのではなく、知っておくことで、いまの計画に無理がなくなる。

提案で外したくないポイント

  1. 手段の前に「いつまでに・いくら」を決める。
  2. 必要な都度の教育費に贈与税はかからない(相税21条の3第1項2号)。
  3. 「充てるためにした」=実際に使われることが前提。都度渡す形が確実。
  4. 一括贈与の特例は期間を区切った特例(措置法70条の2の2)。使えるかを確認してから話す。
  5. 特例には30歳未満・直系尊属・1,500万円・前年所得1,000万円以下の要件がある。
  6. 教育費は階段状に発生する。中学・高校・大学で時期が違う。
  7. 使う時期で「確実に」と「時間を使う」に分ける
  8. 利回りを前提にした計画を立てない。運用しない前提でも足りる部分を先に確保する。
  9. 奨学金には貸与と支給がある(学生支援機構法13条1号)。
  10. 毎年見直す。進路も家計も変わる。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
相続税法21条の3第1項2号贈与税の非課税財産扶養義務者相互間の生活費・教育費で通常必要と認められるもの
民法877条1項扶養義務者直系血族が扶養義務者に含まれる
租税特別措置法70条の2の2第1項直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税期間を区切った特例。30歳未満・直系尊属・1,500万円。ただし書で前年の合計所得金額1,000万円超は除く
独立行政法人日本学生支援機構法13条1号業務の範囲学資の貸与及び支給。2種類ある
金融サービス提供法5条断定的判断の提供等の禁止利回りを前提にした断定的な説明をしない根拠
条文の記述は執筆時点のもの。税制や奨学金の要件は改正されることがあるため、実際のご提案では国税庁・日本学生支援機構・自治体の最新の資料でご確認ください。この記事は特定の金融商品を勧めるものではありません。

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架空の実務場面をもとにした学習用の解説記事です。実在の会社・物件・取引ではありません。制度は改正されることがあるため、受験年度の最新情報もあわせてご確認ください。