【FPの実務】自営業の年金、上乗せの方法は?──「併用できるか」と「やめられるか」で並べる
自営業のお客様から、こんな相談が届く。
「自営業なので、会社員のような厚生年金がありません。将来の年金が国民年金だけだと少し不安です。上乗せできる方法があれば知りたいです。」
FPの実務で、自営業の方の上乗せ提案はよく扱う。選択肢を並べること自体は難しくないが、力になるのは「どれとどれが一緒に使えるか」と「あとでやめられるか」を整理して渡せたときだ。どちらも条文に書かれている。この記事では、その2つの軸で並べる。
まず結論:4つの選択肢を、2つの軸で並べる
| 控除の系統 | あとでやめられるか | |
|---|---|---|
| 付加年金 | 社会保険料控除(所法74条2項5号) | 申し出てやめられる(国年法87条の2第3項) |
| 国民年金基金 | 社会保険料控除(同号) | 自己都合ではやめられない(同法127条3項) |
| iDeCo | 小規模企業共済等掛金控除(所法75条2項2号) | 掛金は止められるが受け取りは原則60歳以降 |
| 小規模企業共済 | 小規模企業共済等掛金控除(同項1号) | 解約はできるが期間により元本を下回ることがある |
控除の系統が2つに分かれている点が、提案の骨格になる。
所得税法74条の社会保険料控除と、75条の小規模企業共済等掛金控除は別の枠である。だから両方の系統を使える。
そしてやめられるかどうかが、金額の大きさとちょうど逆の関係になっている。大きく備えられるものほど、やめにくい。ここを先に伝えてから、金額の話に入る。
付加年金——いちばん軽く、いちばん戻しやすい
第一号被保険者(……及び国民年金基金の加入員を除く。)は、厚生労働大臣に申し出て、その申出をした日の属する月以後の各月につき、……四百円の保険料を納付する者となることができる。
3 第一項の規定により保険料を納付する者となつたものは、いつでも、厚生労働大臣に申し出て、……第一項の規定により保険料を納付する者でなくなることができる。(国民年金法87条の2第1項・3項)付加年金の額は、二百円に第八十七条の二第一項の規定による保険料に係る保険料納付済期間の月数を乗じて得た額とする。(同法44条)
条文に金額がそのまま書かれている。月400円を納め、年金額は200円×納めた月数である。
納めた額は400円×月数、受け取る年金は年200円×月数なので、受け取り始めて2年で納めた額に達する計算になる。その後は受け取り続ける限り上乗せが続く。
ただし年200円×月数という額は改定されない。老齢基礎年金のような改定の仕組みが44条にはない。物価が上がっても額は変わらない点は、正確にお伝えする。
3項が「いつでも」やめられるとしている。4つのうちで、いちばん身軽である。まず始めてみる、という選択がしやすい。
43条により、付加年金は老齢基礎年金の受給権を取得したときに支給される。老齢基礎年金とセットである。繰上げ・繰下げをすると付加年金も同じように動く。
付加年金と国民年金基金は、一緒に使えない
87条の2第1項のかっこ書に「国民年金基金の加入員を除く」とある。基金に入っている人は、付加保険料を納められない。
しかも4項が「第一項の規定により保険料を納付する者となつたものが、国民年金基金の加入員となつたときは、その加入員となつた日に、前項の申出をしたものとみなす」としている。
基金に入った時点で、付加は自動的に終わる。手続きを忘れて二重になる、ということが起きない作りである。
これは基金の給付に付加年金相当が含まれているためだが、相談の場では「この2つは選択です」と伝えれば足りる。「どちらも」はできない。
ここは提案の分かれ道になる。軽く始めるなら付加、大きく備えるなら基金という選択になる。
国民年金基金——自己都合ではやめられない
第一号被保険者は、その者が住所を有する地区に係る地域型基金又はその従事する事業若しくは業務に係る職能型基金に申し出て、その加入員となることができる。ただし、他の基金の加入員であるときは、この限りでない。
3 加入員は、次の各号のいずれかに該当するに至つた日……に、加入員の資格を喪失する。
一 被保険者の資格を喪失したとき、又は第二号被保険者若しくは第三号被保険者となつたとき。
二 地域型基金の加入員にあつては、当該基金の地区内に住所を有する者でなくなつたとき……
三 ……保険料を納付することを要しないものとされたとき……
四 農業者年金の被保険者となつたとき。/五 当該基金が解散したとき。(国民年金法127条1項・3項)
3項が資格喪失の事由を1号から5号まで並べている。ここに「本人が申し出たとき」がない。
つまり自己都合では脱退できない。これが基金の最大の特徴である。掛金の額を変えることはできても、やめて引き出すことはできない。
1号に「第二号被保険者若しくは第三号被保険者となつたとき」とある。就職して会社員になると、資格を喪失する。この場合、それまでの分は将来受け取る形で残る。
だから相談では「この先、勤めに出る可能性はありますか」を伺う。事業の見通しが立っていない段階では、やめられないものに大きく寄せないほうがよい。
2号にも注意がいる。地域型基金は、その地区に住所がなくなると資格を喪失する。引っ越しの予定も確認しておく。
一方で、やめられないことは確実に積み上がるということでもある。受け取る額が最初に決まっているので、老後の見通しが立てやすい。短所と長所は同じ性質から出ていると伝える。
控除の枠は2系統——だから両方使える
前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるもの……をいう。
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金(所得税法74条2項5号)前項に規定する小規模企業共済等掛金とは、次に掲げる掛金をいう。
一 小規模企業共済法……に規定する共済契約……に基づく掛金
二 確定拠出年金法……に規定する個人型年金加入者掛金(所得税法75条2項1号・2号)
74条2項5号に国民年金基金の掛金が入っている。付加保険料も国民年金の保険料の一部なので、こちらの系統になる。
一方、iDeCoと小規模企業共済は75条の系統である。
2つの控除は別々の条文で、それぞれ上限がない。74条1項も75条1項も「その支払つた金額を……控除する」という書き方で、割合も限度額も置いていない。
だから両方の系統を使えば、そのぶん所得から引ける。ただしそれぞれの制度に拠出の上限があるので、実際に払える額はそちらで決まる。「控除の上限」と「拠出の上限」は別の話である(配偶者控除の記事と同じ構造)。
iDeCoと国民年金基金は、枠を分け合う
一 ……第一号加入者及び第四号加入者 六万八千円(国民年金法第八十七条の二第一項の規定による保険料又は国民年金基金の掛金の納付に係る月にあつては、六万八千円から当該保険料又は掛金の額(その額が六万八千円を上回るときは、六万八千円)を控除した額)(国民年金保険料納付月以外の月にあつては、零円)(確定拠出年金法施行令36条1号)
控除の枠は別でも、拠出の枠は共通になっている。
かっこ書が「六万八千円から当該保険料又は掛金の額……を控除した額」としている。付加保険料や国民年金基金の掛金を納めた月は、その分だけiDeCoの枠が減る。
だから基金とiDeCoの両方に大きく入れることはできない。合わせて月6万8千円の中で配分する形になる。
一方、小規模企業共済はこの枠と関係がない。共済の掛金は月7万円まで(小規模企業共済法4条2項)で、こちらは別に使える。
最後のかっこ書も見落とせない。国民年金保険料納付月以外の月にあつては、零円である。国民年金の保険料を免除されている月は、iDeCoに拠出できない。まず国民年金の納付状況を確認するのが順序になる。
小規模企業共済——対象と上限が法律にある
この法律において「小規模企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 常時使用する従業員の数が二十人以下の個人であつて、工業、鉱業、運送業その他の業種……に属する事業を主たる事業として営むもの
二 常時使用する従業員の数が五人以下の個人であつて、商業又はサービス業……に属する事業を主たる事業として営むもの(小規模企業共済法2条)掛金月額は、千円以上であつて五百円に整数を乗じて得た額とし、共済契約者一人につき七万円を超えてはならない。(同法4条2項)
業種で人数の基準が違う。商業・サービス業は5人以下で、それ以外は20人以下である。従業員が増えると対象から外れるので、事業が伸びている方には確認する。
掛金は月1,000円から7万円まで、500円刻みである。幅が広いので、事業の状況に合わせて調整しやすい。
これは退職金の代わりという性格の制度である。受け取るときは退職所得や公的年金等として扱われる(所得税法施行令72条3項3号など)。iDeCoと同じ出口になるので、同じ年に重ねると退職所得控除の枠を分け合う。出口が近い方には、この点を伝える。
解約はできるが、期間によっては受け取る額が納めた額を下回ることがある。「必要なときにすぐ引き出せる貯蓄ではない」とお伝えする。
提案の順番——この順で確認する
- 国民年金の納付状況を確認する。免除中ならiDeCoに拠出できない(確拠令36条1号)。
- 付加年金から提案する。月400円で、申し出ればやめられる(国年法87条の2)。
- 基金を検討するかを伺う。付加とは選択になる(同条1項かっこ書)。
- 勤めに出る可能性を伺う。基金は資格を喪失する(同法127条3項1号)。
- 引っ越しの予定を伺う。地域型基金は住所で喪失する(同項2号)。
- iDeCoの枠を計算する。基金・付加と合わせて月6万8千円(確拠令36条1号)。
- 従業員の人数を確認する。小規模企業共済の対象か(共済法2条)。
- 掛金の続けやすさを伺う。事業の収入は変動する。
- 出口の重なりを確認する。iDeCoと共済は同じ扱いになる。
- 控除の系統が2つあることを伝える(所法74条・75条)。
プロならこう提案する
上乗せの方法は4つあります。ただ、金額の大きさで並べる前に、2つの見方でご説明させてください。
1つめが一緒に使えるかどうか、2つめがあとでやめられるかどうかです。
まず、いちばん手軽なのが付加年金です。月400円を国民年金の保険料に上乗せして納めると、将来の年金が年200円 × 納めた月数だけ増えます。
納める額は月400円、増える年金は年200円 × 月数ですので、受け取り始めて2年で納めた分に達します。その後は受け取り続ける限り上乗せが続きます。
ただしこの200円という額は改定されません。物価が上がっても増えない点は、正直にお伝えしておきます。
そしてご希望のときにやめられます。法律にも「いつでも」という言葉で書かれています。まず始めてみる、という選び方がしやすいのがこれです。
次に国民年金基金です。こちらは大きく備えられるのですが、2つ、先にお伝えすることがあります。
1つめ。付加年金とは、どちらか一方しか使えません。法律に、基金の加入員は付加保険料を納められないと書かれています。基金にお入りになった時点で、付加は自動的に終わる仕組みです。
2つめ。ご自分の都合ではやめられません。法律に資格を失う場合が5つ並んでいますが、そこに「本人が申し出たとき」がありません。
掛金の額を変えることはできますが、やめて引き出すことはできません。ここは事前にご理解いただきたい点です。
ですので、伺わせてください。この先、どこかにお勤めになる可能性はありますか。会社員になられますと資格を失います(それまでの分は将来受け取る形で残ります)。お引っ越しのご予定はいかがでしょうか。地域型の基金は、その地区から出ますと資格を失います。
3つめがiDeCoです。こちらは自分で運用する形で、掛金は全額が所得から引かれます。
1点、枠のお話があります。付加保険料や基金の掛金を納めた月は、その分だけiDeCoの枠が減ります。合わせて月6万8千円の中で配分する形です。
4つめが小規模企業共済です。こちらは退職金の代わりという性格の制度で、月1,000円から7万円まで500円刻みで決められます。
こちらは先ほどの6万8千円とは別枠です。ご確認したいのですが、従業員の方は何人いらっしゃいますか。商業やサービス業でしたら5人以下、それ以外の業種でしたら20人以下が対象になります。
税の面もお伝えします。控除の枠が2つの系統に分かれています。
付加年金と国民年金基金は社会保険料控除、iDeCoと小規模企業共済は小規模企業共済等掛金控除です。別々の条文ですので、両方の系統を使えます。
最後に、いちばん大事なことを申し上げます。
自営業は、収入に波があります。ですので「いくら入れられるか」より「続けられるか」で決めていただくほうがよいと思っています。
やめられるものから始めて、事業が安定してから大きいものを足していく、という順序もあります。一度に決めなくて大丈夫です。
まず国民年金の納付状況だけ確認させてください。免除を受けていらっしゃる期間があると、iDeCoに拠出できない月が出ます。
よくある質問と、その答え方
「付加年金と国民年金基金、両方入れますよね」
入れない。国民年金法87条の2第1項のかっこ書が「国民年金基金の加入員を除く」としている。しかも同条4項により、基金の加入員となった日に、付加をやめる申出をしたものとみなされる。基金に入った時点で付加は自動的に終わるので、二重になることはない。この2つは選択である。
「国民年金基金は、苦しくなったらやめられますよね」
自己都合ではやめられない。同法127条3項が資格喪失の事由を1号から5号まで並べているが、そこに「本人が申し出たとき」がない。掛金の額を変えることはできても、やめて引き出すことはできない。一方で1号により会社員になった場合は資格を喪失し、2号により地域型基金は地区外に転居すると喪失する。事業の見通しが立っていない段階では、やめられないものに大きく寄せない判断もある。
「iDeCoは月6万8千円まで入れられますよね」
他を使っていなければそうなる。確定拠出年金法施行令36条1号のかっこ書が「六万八千円から当該保険料又は掛金の額……を控除した額」としており、付加保険料や国民年金基金の掛金を納めた月は、その分だけ枠が減る。さらに「国民年金保険料納付月以外の月にあつては、零円」なので、免除を受けている月は拠出できない。なお小規模企業共済はこの枠と別である。
「控除にも上限がありますよね」
控除自体に上限はない。所得税法74条1項も75条1項も「その支払つた金額を……控除する」という書き方で、割合も限度額も置いていない。しかも2つは別の条文で、74条2項5号に国民年金基金の掛金、75条2項1号2号に小規模企業共済とiDeCoが入っている。両方の系統を使える。上限があるのはそれぞれの制度の拠出額のほうである。
提案で外したくないポイント
- 付加年金は月400円、年金額は200円×月数(国年法87条の2第1項、44条)。額は改定されない。
- 付加は「いつでも」やめられる(同法87条の2第3項)。
- 付加と国民年金基金は選択(同条1項かっこ書・4項)。
- 基金は自己都合でやめられない(同法127条3項に本人の申出がない)。
- 会社員になる・地区外へ転居すると基金の資格を喪失(同項1号・2号)。
- 控除は2系統:社会保険料控除(所法74条2項5号)と小規模企業共済等掛金控除(同法75条2項1号2号)。
- 控除自体に上限はない。上限があるのは拠出額のほう。
- iDeCoの枠は基金・付加と分け合う(確拠令36条1号)。
- 国民年金の免除月はiDeCoに拠出できない(同号かっこ書)。
- 小規模企業共済は業種で人数基準が違う(共済法2条)。掛金は月1,000円〜7万円(同法4条2項)。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 国民年金法43条・44条 | 付加年金の支給要件・年金額 | 老齢基礎年金の受給権を取得したときに支給。200円×月数 |
| 国民年金法87条の2 | — | 1項 月400円・基金の加入員を除く/3項 いつでもやめられる/4項 基金加入でみなし |
| 国民年金法127条1項・3項 | 加入員 | 加入の申出。資格喪失事由の限定列挙(本人の申出は含まれない) |
| 所得税法74条1項・2項5号 | 社会保険料控除 | 支払つた金額を控除。国民年金の保険料と国民年金基金の掛金 |
| 所得税法75条1項・2項1号2号 | 小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済の掛金と個人型年金加入者掛金 |
| 確定拠出年金法施行令36条1号 | 拠出限度額 | 6万8千円から付加保険料・基金掛金を控除。保険料納付月以外は零円 |
| 小規模企業共済法2条 | 定義 | 従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下) |
| 小規模企業共済法4条2項 | — | 掛金月額は1,000円以上500円の整数倍、7万円を超えない |