【FPの実務】もしもの公的保障は?──遺族年金が「途中で変わる」ところから設計する
万一への備えを考えるお客様から、こんな相談が届く。
「もし夫(会社員)に万一のことがあったら、公的な保障はどのくらいあるのでしょうか。子は2人います。民間の保険を考える前に、公的な遺族年金のことを知っておきたいです。」
FPの実務は、必要保障額を見積もる前に公的な遺族年金を押さえる。ここで力になるのは、金額を出すことよりも「いつ、いくら変わるのか」という段差を示せたときだ。民間保険で埋めるべきなのは、その段差だからである。この記事では、遺族年金を段差の観点から整理する。特定の商品は勧めない。
まず結論:金額より先に、終わる時期を押さえる
遺族年金は2階建てだが、1階と2階では終わり方がまったく違う。設計に効くのはそこである。
| 遺族基礎年金(1階) | 遺族厚生年金(2階) | |
|---|---|---|
| 受けられる人 | 子のある配偶者、または子 | 配偶者・子・父母・孫・祖父母(順位あり) |
| 終わる時期 | 末子が要件を外れたとき | 原則として再婚などがない限り続く |
| 設計上の意味 | 期限つき。末子の年齢で切れる | 土台。ただし妻の年齢で扱いが分かれる |
お客様は「どのくらいあるか」を聞いていらっしゃるが、必要保障額の設計で効くのは「いつ減るか」である。
末子が要件を外れた瞬間に1階が終わる。ここが最大の段差になる。お子さんが2人なら、下のお子さんの年齢からあと何年で段差が来るかが計算できる。
金額は毎年度改定されるので、記憶で答えずねんきんネットや日本年金機構の最新資料で一緒に確認する。年数の設計は改定に左右されないので、そちらを先に固める。
1階:子がいないと出ない
遺族基礎年金を受けることができる配偶者又は子は、……死亡の当時その者によつて生計を維持し、かつ、次に掲げる要件に該当したものとする。
一 配偶者については、……死亡の当時その者によつて生計を維持し、かつ、次号に掲げる要件に該当する子と生計を同じくすること。
二 子については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか又は二十歳未満であつて障害等級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。(国民年金法37条の2第1項)
1号の書き方が要である。配偶者は「2号の要件に該当する子と生計を同じくすること」が条件になっている。
つまり子がいなければ、配偶者に遺族基礎年金は出ない。「配偶者だから出る」のではない。子がいるから出るという構造である。
そして2号の「十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日まで」。誕生日ではなく年度末で区切る。早生まれか遅生まれかで、実際に受け取れる期間が変わる。
「現に婚姻をしていないこと」も条件に入っている。子が結婚すれば要件から外れる。
2項に手当てもある。死亡の当時胎児であつた子が生まれたときは、将来に向かって生計を維持していたものとみなされる。妊娠中の相談では、この点をお伝えする。
配偶者に支給される額は、子の人数で加算される(39条1項)。3項は、子が死亡・婚姻・配偶者以外の者の養子になったときなどに、その翌月から額を改定するとしている。人数が減れば、その分減る。
2階:誰が受けられるかに順位と条件がある
遺族厚生年金を受けることができる遺族は、……配偶者、子、父母、孫又は祖父母……であつて、……死亡の当時……その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫、父母又は祖父母については、五十五歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか、又は二十歳未満で障害等級の一級若しくは二級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
2 前項の規定にかかわらず、父母は、配偶者又は子が、孫は、配偶者、子又は父母が、祖父母は、配偶者、子、父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは、それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない。(厚生年金保険法59条1項・2項)
1項のただし書「妻以外の者にあつては」が、性別で扱いを分けている。妻には年齢の条件がなく、夫には55歳以上という条件がある。
しかも65条の2が、夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が六十歳に達するまでの期間、その支給を停止するとしている。
つまり夫は55歳以上で受給権を得るが、実際に受け取れるのは60歳からという2段構えになる。受給権と支給は別である。
ただし65条の2のただし書に例外がある。夫が遺族基礎年金の受給権を有するときは支給停止されない。子がいる夫は、60歳前でも受け取れる。
共働きのご家庭で「妻に万一のとき」を設計するときは、ここが大きく効く。夫側の遺族厚生年金は、子がいる間は出るが、末子が要件を外れると60歳まで止まるという形になりやすい。妻が亡くなった場合のほうが、公的の穴が大きくなることがある。
2項の順位も押さえる。上位の人が受給権を取得すると、下位の人は遺族としない。父母が受け取れるのは、配偶者も子もいない場合である。
2階の額——短期要件なら300月とみなす
一 ……遺族が遺族厚生年金の受給権を取得したとき 死亡した被保険者……の被保険者期間を基礎として第四十三条第一項の規定の例により計算した額の四分の三に相当する額。ただし、第五十八条第一項第一号から第三号までのいずれかに該当することにより支給される遺族厚生年金については、その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が三百に満たないときは、これを三百として計算した額とする。(厚生年金保険法60条1項1号)
このただし書が、若い方の相談で効く。
58条1項1号から3号は、在職中の死亡などいわゆる短期要件である。この場合、被保険者期間が300月(25年)に満たなくても300月として計算される。
だから入社数年の方が亡くなった場合でも、額が極端に小さくはならない。「まだ働いた期間が短いから年金はほとんど出ない」というご心配には、この条文で答えられる。
一方、58条1項4号(保険料納付済期間等が25年以上ある者の死亡)だけに当たる長期要件では、この300月みなしは働かない。どちらに当たるかで額の計算が変わる。
60条1項2号は、老齢厚生年金の受給権を有する配偶者について、いずれか多い額とする仕組みを置いている。ご自身の老齢厚生年金がある方の場合の調整である。
妻の年齢で分かれる2つの段差
30歳未満で子がない場合は5年で終わる
遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
二 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
三 直系血族及び直系姻族以外の者の養子……となつたとき。
五 次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める日から起算して五年を経過したとき。
イ 受給権を取得した当時三十歳未満である妻が当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく遺族基礎年金の受給権を取得しないとき 当該遺族厚生年金の受給権を取得した日
ロ ……遺族基礎年金の受給権を有する妻が三十歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が消滅したとき 当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日(厚生年金保険法63条1項)
5号が、若いご夫婦の設計で見落とせない。
イは子がいない30歳未満の妻。5年で終わる。
ロは子がいたが、30歳になる前に遺族基礎年金が終わった妻。この場合も、終わった日から5年である。
「一生続く」ではないことを、若いご夫婦にはお伝えする。ここは民間保険で埋める判断に直結する。
2号の再婚と3号の養子も失権事由である。2号は事実婚を含むと条文が明記している。
40歳以上65歳未満には加算がある
62条1項は、遺族厚生年金の受給権者である妻で、権利を取得した当時40歳以上65歳未満であった者、または40歳に達した当時、要件に該当する子と生計を同じくしていた者が65歳未満であるときに、遺族基礎年金の額に4分の3を乗じた額を加算するとしている。いわゆる中高齢寡婦加算である。
この加算が、末子で1階が切れたあとの段差を一部埋める役割をしている。
設計としては、1階が終わる時期と、この加算が始まる/終わる時期を年表に並べると、埋めるべき期間が目に見える形になる。
62条1項の冒頭にかっこ書がある。58条1項4号に該当することにより支給されるもので、被保険者期間の月数が240未満であるものを除く。長期要件で期間が短い場合は加算されない。
加算の額は遺族基礎年金の額に4分の3を乗じた額と条文が定めている。遺族基礎年金の額が改定されれば、この加算も動く。だから金額は最新の資料で確認する。
保険料の納付要件
ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。(国民年金法37条ただし書。厚生年金保険法58条1項ただし書も同旨)
「死亡日の前日において」という限定に注意したい。亡くなってから慌てて納めても間に合わないという趣旨である。
そして「三分の二に満たないとき」が要件を満たさない場合なので、逆に言えば3分の2以上納めていれば満たす。
これとは別に、経過措置として直近1年間に未納がなければよいとする特例が置かれている。国民年金法附則20条2項は、令和十八年四月一日前に死亡した者について、37条ただし書を読み替えるとしている。
期限のある経過措置なので、これが使えることを前提にした説明はしない。原則の3分の2で説明し、特例は「経過措置がある」と触れるにとどめて、適用の有無はその時点の条文と年金事務所で確認する。
実務としては、ねんきん定期便やねんきんネットで納付状況を確認していただくのが確実である。未納がある方には、そこから話を始める。
相談の進め方——この順番で確認する
- 末子の年齢を伺う。1階が終わる年が決まる(国年法37条の2第1項2号)。誕生日ではなく年度末。
- 配偶者の年齢を伺う。30歳未満か、40歳に届くかで扱いが分かれる(厚年法63条1項5号、62条1項)。
- どちらが亡くなった場合を考えるかを確認する。夫の場合は55歳・60歳の条件が入る(厚年法59条1項1号、65条の2)。
- 納付状況を確認していただく(国年法37条ただし書)。ねんきんネットで。
- 短期要件か長期要件かを見る。300月みなしが働くか(厚年法60条1項1号ただし書)。
- 年表を書く。1階が終わる年、加算が始まる年、加算が終わる年(65歳)。
- 金額は最新の資料で確認する。ねんきんネット、日本年金機構。
- 段差の期間と金額を出す。ここが必要保障額になる。
- そのうえで民間保険を考える。埋めるべき形が決まってから商品の話に入る。
プロならこう説明する
公的な遺族年金は2階建てになっています。ただ、金額よりも先に「いつ変わるか」を整理させてください。備えるべきなのは、その変わり目だからです。
まず下のお子さんはおいくつでしょうか。
1階の遺族基礎年金は、お子さんがいることが条件です。法律の条文が「要件に該当する子と生計を同じくすること」と書いていまして、配偶者だから出るのではなく、お子さんがいるから出るという作りになっています。
そして18歳になった後の最初の3月31日までです。お誕生日ではなく年度末で区切られます。
ですので、下のお子さんの年齢からあと何年で1階が終わるかが計算できます。ここが最初の段差です。
2階の遺族厚生年金は、ご主人が会社員でいらっしゃいますので出ます。こちらは1階と違って、再婚などがない限り続きます。
額は、亡くなった方の厚生年金の4分の3が基本です。ここで1つ、お伝えしておきたい点があります。
在職中に亡くなられた場合は、厚生年金に入っていた期間が300か月(25年)に満たなくても、300か月として計算すると条文に書かれています。お勤めの期間が短くても、額が極端に小さくなることはありません。
次に、奥さまの年齢で分かれる点を2つお伝えします。
1つめ。40歳から65歳になるまでの間、条件を満たせば加算があります。1階が終わったあとの落ち込みを、ある程度埋める仕組みです。
2つめ。これは今回は当てはまりませんが、お子さんがいない30歳未満の妻の場合は5年で終わります。ご親族などでご相談があれば、この点をお伝えください。
それから、逆の場合も一度考えておかれるとよいと思います。
奥さまに万一のことがあった場合です。ご主人が遺族厚生年金を受けられるのは55歳以上で、しかも実際に受け取れるのは60歳からという決まりがあります。
ただしお子さんがいらっしゃる間は、この停止はありません。ですので末子が18歳の年度末を過ぎてから、ご主人が60歳になるまでの期間が、公的の穴になりやすい形です。共働きのご家庭では、こちら側の設計も一緒に見ておくことをおすすめします。
最後に、保険料の納付状況をご確認ください。遺族年金には納付の要件があり、しかも「死亡日の前日において」という書き方になっています。あとから納めても間に合わない仕組みです。ねんきんネットでご確認いただけます。
金額については、毎年度改定されますので、私が記憶でお答えするより、ねんきんネットの試算と日本年金機構の最新の資料で一緒に確認させてください。
年数の設計は改定に左右されませんので、先に年表を作りましょう。1階が終わる年、加算が始まる年、加算が終わる年。ここに金額を当てはめれば、民間保険で埋めるべき期間と金額が出ます。
よくある質問と、その答え方
「配偶者なので、遺族基礎年金は出ますよね」
子がいることが条件になる。国民年金法37条の2第1項1号は、配偶者について「次号に掲げる要件に該当する子と生計を同じくすること」を求めている。子がいなければ配偶者に遺族基礎年金は出ない。「配偶者だから出る」のではなく「子がいるから出る」という構造である。末子が2号の要件を外れれば、そこで終わる。
「18歳の誕生日までですか」
年度末までである。同項2号は「十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか」としている。誕生日ではなく3月31日で区切るため、早生まれか遅生まれかで実際の期間が変わる。あわせて「現に婚姻をしていないこと」も条件に入っている。
「入社して数年なので、遺族厚生年金はほとんど出ないですよね」
そうとは限らない。厚生年金保険法60条1項1号ただし書は、在職中の死亡など短期要件(58条1項1号〜3号)の場合、「被保険者期間の月数が三百に満たないときは、これを三百として計算した額とする」としている。300月(25年)あるものとして計算される。ただし58条1項4号の長期要件だけに当たる場合は、このみなしは働かない。
「妻に万一のとき、夫にも同じように出ますよね」
条件が違う。厚生年金保険法59条1項ただし書は「妻以外の者にあつては」要件を課しており、1号で夫、父母又は祖父母については五十五歳以上であることとしている。さらに65条の2は夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が六十歳に達するまでの期間、その支給を停止するとしている。受給権は55歳、支給は60歳からという2段構えである。ただし同条ただし書により、夫が遺族基礎年金の受給権を有するときは停止されない。共働きのご家庭では、この差を前提に設計する。
「遺族厚生年金は一生続きますよね」
終わる場合がある。厚生年金保険法63条1項5号イは、受給権を取得した当時三十歳未満である妻が遺族基礎年金の受給権を取得しないとき、受給権を取得した日から五年を経過したときに消滅するとしている。ロは、子がいたが30歳に到達する日前に遺族基礎年金の受給権が消滅した場合で、こちらも5年である。加えて2号の婚姻(事実婚を含む)、3号の直系血族・直系姻族以外の者の養子となったときも失権事由になる。
説明で外したくないポイント
- 1階は子がいることが条件(国年法37条の2第1項1号)。配偶者だから出るのではない。
- 子の要件は18歳到達年度末まで。誕生日ではない。婚姻していないことも条件(同項2号)。
- 胎児が生まれたら将来に向かってみなす(同条2項)。
- 2階には順位がある。上位が取得すれば下位は遺族としない(厚年法59条2項)。
- 夫は55歳以上で受給権、支給は60歳から。子がいれば停止されない(同法59条1項1号、65条の2)。
- 短期要件なら300月みなし(同法60条1項1号ただし書)。勤続が短くても極端に小さくならない。
- 30歳未満で子がない妻は5年(同法63条1項5号)。再婚・養子も失権事由。
- 40歳以上65歳未満に加算(同法62条1項)。1階が切れた後の段差を一部埋める。
- 納付要件は「死亡日の前日において」(国年法37条ただし書)。あとから納めても間に合わない。
- 金額は毎年度改定される。年表を先に作り、金額は最新資料で当てはめる。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 国民年金法37条 | 支給要件 | 1号〜3号の支給事由。ただし書で保険料納付要件(死亡日の前日において・3分の2) |
| 国民年金法37条の2 | 遺族の範囲 | 1項1号 配偶者は要件該当の子と生計を同じくすること/2号 子は18歳到達年度末まで等・現に婚姻していないこと/2項 胎児の扱い |
| 国民年金法39条 | — | 子の人数による加算と、減ったときの改定 |
| 国民年金法附則20条2項 | 支給要件の特例 | 令和18年4月1日前の死亡についての読替え(経過措置) |
| 厚生年金保険法58条 | 受給権者 | 1号〜4号の支給事由。ただし書で納付要件 |
| 厚生年金保険法59条 | 遺族 | 1項ただし書「妻以外の者にあつては」/1号 夫・父母・祖父母は55歳以上/2号 子・孫/2項 順位 |
| 厚生年金保険法60条1項 | 年金額 | 1号 4分の3。ただし書で短期要件は300月みなし/2号 老齢厚生年金の受給権を有する配偶者はいずれか多い額 |
| 厚生年金保険法62条1項 | — | 中高齢寡婦加算。40歳以上65歳未満。遺族基礎年金の額の4分の3 |
| 厚生年金保険法63条1項 | 失権 | 2号 婚姻(事実婚を含む)/3号 養子/5号 30歳未満の妻等は5年 |
| 厚生年金保険法65条の2 | — | 夫・父母・祖父母は60歳まで支給停止。ただし書で夫が遺族基礎年金の受給権を有するとき |