【FPの実務】医療費控除、いくらから?──「10万円」が上限であることから説明する
医療費がかかったお客様から、こんな相談が届く。
「昨年、家族の医療費がかなりかかりました。医療費控除で税金が戻ると聞きましたが、いくらから対象で、どう手続きするのか教えてください。」
FPの実務で、医療費控除の案内はよく扱う。力になるのは「10万円から」と答えることではなく、その10万円がどこから出ている数字かを説明できたときだ。条文を読むと、10万円は基準ではなく上限である。この記事では、条文の構造から整理する。
まず結論:10万円は「基準」ではなく「上限」
居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。(所得税法73条1項)
差し引く基準額の書き方をよく読みたい。
「総所得金額等の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)」である。
つまり原則は5%で、5%が10万円を超えるときだけ10万円で頭打ちになる。10万円は上限であって、基準ではない。
5%が10万円になるのは総所得金額等が200万円のときなので、200万円未満の方は10万円より小さい額を超えれば対象になる。
ここは相談で実際に効く。「10万円を超えないから無理です」とおっしゃる方に、所得を伺ってから答える。パート収入の方、年金だけの方、その年だけ所得が少なかった方では、結論が変わることがある。
控除される額の上限は200万円である。こちらは所得に関係なく一律である。
3つの言葉が範囲を決めている
①「その年中に支払つた」
支払った年で数える。診療を受けた年ではない。
だから年末の治療費を翌年1月に支払えば、翌年分になる。未払いのままでは対象にならない。
相談で効くのは、治療が年をまたぐ場合である。「どちらの年に寄せると有利か」は、その年の所得と、他の医療費の合計で変わる。5%と10万円の関係があるので、所得が少ない年に寄せたほうが有利になることもある。
②「補てんされる部分の金額を除く」
保険金、損害賠償金その他これらに類するもので補てんされた分は引く。生命保険の入院給付金や、高額療養費で戻ってきた分がこれにあたる。
実務では「その給付の目的となった医療費から差し引く」という取扱いがされている。他の医療費からは引かない。
たとえば入院給付金が入院費用を上回った場合でも、その差額を通院費など別の医療費から引く必要はないという考え方になる。ここを知らずに全体から引いてしまうと、控除額を少なく申告してしまう。
ただしこれは条文そのものではなく取扱いなので、具体的な当てはめは国税庁の資料や税務署で確認していただく。
年をまたぐ場合の注意もある。申告の時点で給付額が確定していないときは、見込額で計算して、確定後に差額を修正するという扱いになる。「まだ保険金が決まっていないので申告できない」ではない。
③「自己と生計を一にする配偶者その他の親族」
ここが範囲を大きく広げる。扶養親族であることは要件になっていない。「生計を一にする」ことである。
だから仕送りをしている別居のご両親や、下宿しているお子さんの医療費も合算できる。同居している必要はない。
反対に、共働きで生計が別とみられる場合は合算できない。
そして誰が支払ったかで決まる。条文は「居住者が……医療費を支払つた場合」としているので、支払った人の控除になる。
だから家族の中で誰にまとめるかを考える余地がある。基準額が総所得金額等の5%(10万円が上限)なので、所得が少ない方にまとめると基準額が下がって有利になる場合と、税率が高い方にまとめたほうが戻りが大きい場合がある。両方を計算して比べるのがFPの仕事になる。
対象になる医療費の範囲
前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。(所得税法73条2項)
2項が範囲を決めている。「治療」という言葉と、「通常必要であると認められるもの」という限定が入っている。
この2つが、実務での線引きになる。治療のためか、それ以外かで分かれ、通常必要な範囲を超える部分は外れる。
具体的な当てはめは政令と国税庁の資料によるので、迷うものは一覧で確認していただく。「これは入りますか」という個別の質問には、その場で断定せず、一緒に資料を開くのが確実である。
領収書の保管については、医療費の明細書を作成して申告する形になっており、健康保険の医療費のお知らせを使える場合がある。ここも運用が変わることがあるので、その年の様式で確認する。
セルフメディケーション税制——読み替えられるのは2か所だけ
……居住者が平成二十九年一月一日から令和八年十二月三十一日までの間に自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る特定一般用医薬品等購入費を支払つた場合において当該居住者がその年中に健康の保持増進及び疾病の予防への取組として政令で定める取組を行つているときにおける……医療費控除については、その者の選択により、同条第一項中……「その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)」とあるのは「一万二千円」と、「二百万円」とあるのは「八万八千円」として、同項の規定を適用することができる。(租税特別措置法41条の17第1項)
| 通常の医療費控除 | この特例 | |
|---|---|---|
| 差し引く基準額 | 総所得金額等の5%(10万円が上限) | 1万2千円 |
| 控除の上限 | 200万円 | 8万8千円 |
| 対象 | 医療費(73条2項) | 特定一般用医薬品等購入費 |
| 追加の要件 | — | 健康の保持増進及び疾病の予防への取組 |
この条文は読み替えの形で作られている。読み替えられるのは2か所の金額だけである。
だからそれ以外は73条1項がそのまま生きる。「保険金等で補てんされる部分を除く」も、「生計を一にする配偶者その他の親族」も、そのまま適用される。
そして「その者の選択により」とある。通常の医療費控除との選択であり、両方は使えない。
選択の判断は、両方で計算して大きいほうを選ぶのが基本になる。ただし特例には上限8万8千円があるので、医療費が多い年は通常の控除のほうが大きくなることが多い。
もう1つ、「その年中に……取組を行つているとき」という要件がある。健康診断や予防接種などが対象になるが、これを受けていないと使えない。お客様には、この取組の記録を残していただくようお伝えする。
そして冒頭。この特例は「平成二十九年一月一日から令和八年十二月三十一日までの間」と期間を区切って設けられている。期限のある特例なので、使えることを前提にした説明はせず、その年の条文で確認する。
相談の進め方——この順番で確認する
- その年の所得を伺う。基準額が10万円になるとは限らない(所法73条1項)。
- ご家族の範囲を確認する。生計を一にしていれば別居でも合算できる(同項)。
- 誰が支払ったかを確認する。支払った人の控除になる(同項)。
- 誰にまとめるかを計算で比べる。基準額が下がる方と、税率が高い方。
- 補てんされた金額を確認する。給付の目的となった医療費から引く(同項かっこ書)。
- 支払った年で仕分ける。診療の年ではない(同項)。
- 対象になるかを一覧で確認する。断定せず一緒に開く(同条2項)。
- セルフメディケーション税制と比べる。選択なので両方は使えない(措置法41条の17第1項)。
- 取組の記録を確認する。特例を選ぶ場合(同項)。
- 確定申告で行う。明細書の様式はその年のもので。
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医療費控除は「10万円から」とよく言われますが、法律の書き方は少し違います。ここからご説明させてください。
条文は、差し引く基準額を「総所得金額等の合計額の5%に相当する金額。ただしそれが10万円を超えるときは10万円」としています。
つまり本来の基準は5%で、10万円は頭打ちの数字です。5%が10万円になるのは所得が200万円のときですので、それより所得が少ない方は、10万円に届かなくても対象になります。
ですので、まず昨年の所得を教えていただけますか。ここで結論が変わることがあります。
次に、合算できるご家族の範囲です。
条文は「生計を一にする配偶者その他の親族」としています。扶養に入っている必要はありません。そして同居している必要もありません。
ですので、仕送りをされている親御さんや、下宿中のお子さんの医療費も合算できます。
そのうえで、ご家族の誰にまとめるかを考えます。ここは計算して比べたほうがよい部分です。
基準額が所得の5%ですので、所得が少ない方にまとめると基準額が下がって、控除できる額が増えます。一方で、税率が高い方にまとめたほうが、戻る税金が大きくなることもあります。両方で計算いたしますので、ご家族の所得を教えてください。
それから、保険金や高額療養費で戻った分は差し引きます。
ここで1つお伝えしておきたいのですが、差し引くのは「その給付の目的になった医療費」からです。たとえば入院給付金でしたら入院費用から引きます。それを超えた分を、通院費など別の医療費から引く必要はありません。
ここを知らずに全体から引いてしまいますと、本来より少なく申告してしまうことになります。
もう1つ、支払った年で数える点です。診療を受けた年ではありません。年末の治療費を年明けにお支払いいただいた場合は、翌年分になります。
それから、セルフメディケーション税制という別の仕組みもあります。
こちらは、対象となる市販薬の購入費について、差し引く基準額が1万2千円と決まっています。ただし控除できる上限が8万8千円です。
そして通常の医療費控除との選択ですので、両方は使えません。健康診断や予防接種などを受けていることも条件になります。
昨年の医療費がかなりかかったとのことですので、通常の医療費控除のほうが大きくなる可能性が高いと思いますが、両方で計算してお出しします。
この特例は期間を区切って設けられているものですので、使えるかどうかも含めて、そのときの制度で確認いたします。
手続きは確定申告です。医療費の領収書を、ご家族の分もまとめてお持ちください。それと、加入されている健康保険から届く「医療費のお知らせ」があれば、それも一緒にお願いします。
よくある質問と、その答え方
「10万円を超えていないので、対象外ですよね」
所得による。所得税法73条1項は基準額を「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)」としている。原則は5%で、10万円は頭打ちである。5%が10万円になるのは所得が200万円のときなので、それより少ない方は10万円未満でも対象になる。先に所得を伺う。
「別居の親の医療費は、扶養に入れていないので無理ですよね」
合算できる場合がある。同項は「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族」としており、扶養親族であることを要件にしていない。「生計を一にする」かどうかで判断されるため、仕送りをしている別居の親や下宿中の子も対象になり得る。ただし支払った人の控除になる点は押さえる。
「入院給付金が入院費より多かったので、全体から引くのですよね」
そうではない扱いになる。同項かっこ書は「保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く」としており、実務ではその給付の目的となった医療費から差し引くという取扱いがされている。超えた分を別の医療費から引く必要はない。全体から引くと、控除額を少なく申告してしまう。個別の当てはめは国税庁の資料や税務署で確認する。
「セルフメディケーション税制と両方使えますか」
使えない。租税特別措置法41条の17第1項は「その者の選択により」73条1項を読み替えて適用できるとしており、選択である。読み替えられるのは基準額(10万円等→1万2千円)と上限(200万円→8万8千円)の2か所だけなので、補てんされる金額を除くことや、生計を一にする親族の範囲は、そのまま同じである。両方で計算して大きいほうを選ぶ。なおこの特例は期間を区切って設けられているので、その年の条文で使えるかを確認する。
案内で外したくないポイント
- 10万円は上限であって基準ではない(所法73条1項)。原則は総所得金額等の5%。
- 控除の上限は200万円(同項)。
- 支払った年で数える(同項)。診療の年ではない。
- 補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費から引く(同項かっこ書と実務の取扱い)。
- 生計を一にする親族なら別居でも合算できる(同項)。扶養親族である必要はない。
- 支払った人の控除。誰にまとめるかを計算で比べる。
- 対象は治療のためで、通常必要と認められるもの(同条2項)。個別は資料で確認する。
- セルフメディケーション税制は選択(措置法41条の17第1項)。両方は使えない。
- 読み替えは2か所の金額だけ。その他の要件は73条1項のまま。
- 期間を区切った特例である。その年の条文で確認する。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 所得税法73条1項 | 医療費控除 | 生計を一にする親族/その年中に支払った/補てんされる部分を除く/総所得金額等の5%(10万円が上限)/控除は200万円まで |
| 所得税法73条2項 | 同上 | 医療費の範囲。治療のためで通常必要と認められるものとして政令で定めるもの |
| 租税特別措置法41条の17第1項 | 特定一般用医薬品等購入費を支払つた場合の医療費控除の特例 | 期間を区切った特例。選択適用。読み替えは基準額1万2千円と上限8万8千円の2か所。取組の要件 |