FP2級の実務クエスト

【FPの実務】iDeCoは何がお得?──3つの優遇と、受け取れる年齢の決まり方

老後資金を考えるお客様から、こんな相談が届く。

「老後資金づくりにiDeCoが良いと聞きました。税金の面でお得らしいのですが、仕組みや注意点を教えてください。」

FPの実務で、iDeCoの説明はよく扱う。力になるのは、優遇を並べるだけでなく「いつから受け取れるか」を正しく伝えられたときだ。この記事では、3つの優遇の中身、受取開始年齢の決まり方、掛金の上限、そして途中で出す道までを通しで整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「iDeCoの仕組みを説明する」を読み物として再構成したもの。人物・相談はすべて架空です。税制は改正されることがあるため、実際のご提案では最新の制度をご確認ください。

まず結論:「60歳から受け取れる」とは限らない

お得さの話に入る前に、ここを押さえておきたい。60歳で受け取れるかどうかは、加入していた期間で決まる

企業型年金加入者であった者……であって次の各号に掲げるものが、それぞれ当該各号に定める年数又は月数以上の通算加入者等期間を有するときは、その者は、……老齢給付金の支給を請求することができる。
一 六十歳以上六十一歳未満の者 十年/二 六十一歳以上六十二歳未満の者 八年/三 六十二歳以上六十三歳未満の者 六年/四 六十三歳以上六十四歳未満の者 四年/五 六十四歳以上六十五歳未満の者 二年/六 六十五歳以上の者 一月(確定拠出年金法33条1項、73条により個人型年金に準用)

通算加入者等期間受け取れる年齢
10年以上60歳から
8年以上10年未満61歳から
6年以上8年未満62歳から
4年以上6年未満63歳から
2年以上4年未満64歳から
1月以上2年未満65歳から

60歳から受け取れるのは、通算加入者等期間が10年以上ある場合である。「原則60歳」とだけ伝えると、遅く始めた方に誤った期待を渡してしまう

そして期間の数え方に、見落としやすい限定がある。2項が通算加入者等期間を「その者が六十歳に達した日の前日が属する月以前の期間に限る」としている。

60歳より後に加入した期間は、この年数に入らない。だから55歳で始めた方は、60歳時点で5年しか積み上がらず、63歳からの受け取りになる

相談では「今おいくつですか」を先に聞く。ここで受取開始年齢が決まる。

なお33条1項にはただし書があり、60歳以上75歳未満で通算加入者等期間を有しない者は、加入者となった日その他の厚生労働省令で定める日から起算して五年を経過した日から請求できるとされている。60歳以降に始めた場合の道が、ここに置かれている。

請求しないまま75歳に達したときは、裁定に基づいて支給される(34条、73条により準用)。

3つの優遇——入口・途中・出口

入口:掛金が全額、所得から引かれる

居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払つた場合には、その支払つた金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する
2 前項に規定する小規模企業共済等掛金とは、次に掲げる掛金をいう。
二 確定拠出年金法……第五十五条第二項第四号(規約の承認)に規定する個人型年金加入者掛金(所得税法75条1項・2項2号)

「その支払つた金額を……控除する」である。上限も割合もない。払った額がそのまま所得から引かれる

控除の名前は小規模企業共済等掛金控除で、生命保険料控除とは別枠である。生命保険料控除の上限とは関係なく使える点を伝えると、比較の話がしやすい。

軽くなる額はその方の税率で決まる。同じ掛金でも、所得の多い方ほど軽くなる額は大きい。「いくら得か」は人によって違うと正確に伝える。

途中:運用中は課税されない

運用中に出た利益は、受け取るときまで課税されない。加えて、積立金そのものについては特別法人税という制度があり、これは期間を区切って課税を停止する形で長く運用されてきた。

法人税法第八十四条第一項に規定する退職年金業務等……を行う法人の平成十一年四月一日から令和八年三月三十一日までの間に開始する各事業年度の退職年金等積立金については、……退職年金等積立金に対する法人税を課さない。(租税特別措置法68条の5)

条文が期間を区切っていることに注目したい。恒久的に非課税と書かれているのではなく、期限を定めて課税を停止する形になっている。

この停止は延長を重ねてきた措置である。だからお客様への説明は「運用中の利益は、受け取るときまで課税されません」という所得税の側の仕組みで組み立てる。特別法人税の停止が続いていることを前提にした言い方にしないほうが、説明が長持ちする。試験でもここは問われる。

適用期間は改正で動くので、資料を作るときはその年の条文を確認する

出口:受け取り方で控除が変わる

受け取り方所得の区分使える控除条文
一時金退職所得とみなす退職所得控除所得税法31条3号、同法施行令72条3項7号
年金公的年金等公的年金等控除所得税法35条3項3号、同法施行令82条の2第2項6号

どちらも政令が「個人型年金規約に基づいて……老齢給付金として支給される一時金」「同……年金」と名指ししている。

一時金の場合、退職所得の金額は収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一である(所得税法30条2項)。控除を引いたうえ、さらに半分になる

ただし勤務先の退職金と同じ年に受け取ると、退職所得控除の枠を分け合う形になる。受け取る年をずらす選択肢があることを、出口が近い方には伝えておく。

年金で受け取る場合は公的年金等控除だが、これは公的年金と合算して計算される。老齢基礎年金・老齢厚生年金と重なる点も同じく伝える。

入口の優遇は誰でも同じだが、出口の有利不利はその方の状況で変わる。ここは「どちらが得ですか」と聞かれたときに、即答せず状況を伺う場面である。

掛金の上限——立場で6つに分かれる

法第六十九条の政令で定める額は、個人型年金加入者期間の計算の基礎となる期間の各月の末日における次の各号に掲げる個人型年金加入者の区分に応じて当該各号に定める額を合計した額とする。(確定拠出年金法施行令36条)

立場月額の上限
1号・4号第1号被保険者(自営業者等)ほか6万8千円(国民年金基金の掛金・付加保険料を納めた月はその額を控除)
2号第2号被保険者で、下の区分に当たらない方(企業年金のない会社員)2万3千円
3号第2号被保険者で企業型年金加入者2万円(事業主掛金が3万5千円を上回るときは、その超えた分を控除)
4号第2号被保険者で他制度加入者2万円(他制度掛金相当額が3万5千円を上回るときは同様。零を下回る場合は零)
5号第2号被保険者で第2号・第3号厚生年金被保険者(公務員等)2万円(共済掛金相当額が3万5千円を上回るときは同様)
6号第3号被保険者2万3千円

3号から5号に共通する「三万五千円を上回るときは……控除した額」という書き方に注目したい。

会社の掛金が3万5千円までなら、iDeCoは2万円まるごと使える。超えた分だけ、iDeCoの枠が削られていく。

だから会社員の方の相談では「会社の掛金がいくらか」を確認する。ここが分からないと上限が出せない。

1号加入者のかっこ書も見落とせない。国民年金保険料納付月以外の月にあっては、零円である。保険料を免除されている月は掛金を出せない。そもそも62条1項1号が保険料免除者を加入者から除いている

加入できない場合

次の各号のいずれかに該当する者は、前項の規定にかかわらず、個人型年金加入者としない
一 個人型年金の老齢給付金の受給権を有する者又はその受給権を有する者であった者
二 国民年金法又は厚生年金保険法による老齢を支給事由とする年金たる給付その他の老齢又は退職を支給事由とする年金である給付であって政令で定めるものの受給権を有する者(確定拠出年金法62条2項)

1号の「又はその受給権を有する者であった者」が効く。一度iDeCoの老齢給付金を受け取り始めた方は、その後もう加入できない

だから受け取りを始めるタイミングは、掛金を出し続ける選択と両立しない。まだ働く予定があり掛金も出したい方には、この点を先に伝える。

2号は、老齢年金の受給権を持つ方を除いている。繰上げ受給を検討している方には、iDeCoへの影響もあわせて説明する

途中で出す道——あるが、条件は7つ全部

当分の間、次の各号のいずれにも該当する者は、……脱退一時金の支給を請求することができる
一 六十歳未満であること。
二 企業型年金加入者でないこと。
三 第六十二条第一項各号に掲げる者に該当しないこと。
四 国民年金法附則第五条第一項第三号に掲げる者に該当しないこと。
五 障害給付金の受給権者でないこと。
六 その者の通算拠出期間……が政令で定める期間内であること又は請求した日における個人別管理資産の額……が政令で定める額以下であること。
七 最後に企業型年金加入者又は個人型年金加入者の資格を喪失した日から起算して二年を経過していないこと。(確定拠出年金法附則3条1項)

柱書が「次の各号のいずれにも該当する者」である。7つ全部を満たす必要がある

3号が実質的に大きい。62条1項各号に掲げる者に該当しないこととは、国民年金の被保険者でないことを意味する。働いていて国民年金に入っている方は、この時点で外れる

6号だけは「又は」でつながれている。期間が短いか、資産額が少ないか、どちらかで足りる。ここだけ選択の形になっている。

そして5項。脱退一時金の支給を受けたときは、その月の前月までの期間は通算加入者等期間に算入しないとされている。受け取ると、受取開始年齢の計算に使う期間がリセットされる

お客様に伝えるときは「出せません」ではなく「出せる道はありますが、7つの条件を全部満たす必要があり、働いていらっしゃる方はまず当てはまりません」と正確に言う。そのうえで、当面使う予定のない資金で始めていただくという話につなげる。

説明の順番——この順で伝える

  1. 年齢を伺う。ここで受取開始年齢が決まる(法33条1項・2項)。
  2. お立場を伺う。会社員か自営業か、企業年金があるか(令36条)。
  3. 受取開始年齢を伝える。60歳からとは限らないことを先に。
  4. 入口の優遇:掛金は全額所得控除(所得税法75条)。
  5. 途中の扱い:運用中は課税されない(措置法68条の5)。
  6. 出口の控除:一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除。
  7. 上限を出す。会社の掛金額を確認したうえで。
  8. 途中で出す道:7条件すべてが要る(法附則3条1項)。
  9. 受け取り始めると加入できなくなることを伝える(法62条2項1号)。
  10. 無理のない掛金から:当面使う予定のない資金で。

プロならこう説明する

iDeCoは、ご自身で掛金を出してご自身で運用し、その成果を老後に受け取る仕組みです。

税制の優遇のお話をする前に、お歳を伺わせてください。ここで受け取れる年齢が決まります。

よく「60歳から受け取れる」と言われますが、法律はもう少し細かく決めています。60歳から受け取れるのは、加入されていた期間が10年以上ある場合です。

期間が短いと、受け取り始められる年齢が後ろにずれます。8年以上で61歳、6年以上で62歳、4年以上で63歳、2年以上で64歳、1か月以上で65歳という順です。

しかも、この期間に数えられるのは60歳になるまでの分です。ですので、たとえば55歳からお始めになりますと、60歳の時点で5年ですから、63歳からの受け取りになります。

そのうえで、優遇のお話です。入口・途中・出口の3つに分けてご説明します。

1つめ、入口です。掛金は全額が所得から引かれます。法律に「その支払つた金額を……控除する」と書かれていて、上限も割合もありません。

生命保険料控除とは別の枠ですので、そちらをすでに使い切っていらっしゃる方でも使えます。ただし軽くなる額はその方の税率で変わりますので、金額はお伺いしてから計算させてください。

2つめ、途中です。運用で出た利益は、受け取るときまで課税されません。

3つめ、出口です。受け取り方で扱いが変わります。一時金なら退職所得として、年金なら公的年金等として、それぞれ控除が使えます。

ここは「どちらが得か」を今お答えできません。勤務先の退職金を同じ年に受け取られると、控除の枠を分け合う形になりますし、年金で受け取られる場合は公的年金と合算されます。出口が近づいてきましたら、そのときのご状況で一緒に考えさせてください。

掛金の上限は、お立場で変わります。企業年金のない会社員の方で月2万3千円自営業の方で月6万8千円です。

企業型の年金にお入りの方は月2万円が基本ですが、会社の掛金が3万5千円を超えている場合は、その超えた分だけ枠が減ります。会社の掛金額をご確認いただけますか。

最後に、2つお伝えしておきます。

1つめ。途中で引き出す道はありますが、条件が7つあり、そのすべてを満たす必要があります。働いていらっしゃって国民年金に加入されている方は、この時点で当てはまりません。ですので、当面お使いになる予定のない資金でお始めください。

2つめ。いったん受け取りを始められますと、その後は加入できなくなります。まだ掛金を出したいお気持ちがあるうちは、受け取りの開始を急がないという選び方もあります。

では、月々いくらでしたら無理がないか、そこから一緒に考えさせてください。

よくある質問と、その答え方

「60歳になったら受け取れるのですよね」
期間による。確定拠出年金法33条1項(73条により個人型に準用)は、60歳から受け取るには通算加入者等期間10年以上を求めている。10年未満なら61歳〜65歳へ順にずれる。さらに同条2項は、その期間を「その者が六十歳に達した日の前日が属する月以前の期間に限る」としている。60歳より後の期間は年数に入らない。遅く始めた方には、この2点を先に伝える。

「掛金の控除には上限がありますよね」
掛金の控除自体に上限はない。所得税法75条1項は「その支払つた金額を……控除する」としており、割合も限度額も置いていない。上限があるのは拠出できる掛金の額のほうで、こちらは確定拠出年金法施行令36条が立場ごとに定めている。「控除の上限」と「拠出の上限」は別の話である。

「一時金と年金、どちらが得ですか」
その方の状況による。一時金は退職所得とみなされ(所得税法31条3号、同法施行令72条3項7号)、退職所得控除を引いた残額の二分の一が所得になる(同法30条2項)。ただし勤務先の退職金と同じ年に受け取ると控除の枠を分け合う。年金は公的年金等として公的年金等控除が使えるが(同法35条3項3号、同法施行令82条の2第2項6号)、公的年金と合算して計算されるその場で答えず、退職金の予定と年金の見込みを伺ってから整理する。

「どうしても必要になったら引き出せますか」
道はあるが、確定拠出年金法附則3条1項は「次の各号のいずれにも該当する者」として7つの条件を並べており、すべて満たす必要がある。3号により国民年金の被保険者でないことが要るため、働いている方はまず当てはまらない。さらに同条5項は、脱退一時金を受け取るとその月の前月までの期間は通算加入者等期間に算入しないとしている。受取開始年齢の計算に使う期間が失われる

説明で外したくないポイント

  1. 60歳から受け取れるのは通算加入者等期間10年以上(法33条1項)。
  2. その期間は60歳到達までの分だけ(同条2項かっこ書)。
  3. 60歳以降に始めた場合は加入から5年経過で請求できる(同条1項ただし書)。
  4. 掛金は全額所得控除、小規模企業共済等掛金控除(所得税法75条1項・2項2号)。
  5. 特別法人税は期間を区切って課税を停止する形(措置法68条の5)。恒久の非課税として書かれてはいない。適用期間はその年の条文で確認する。
  6. 一時金は退職所得、年金は公的年金等。控除の枠は他と分け合う。
  7. 上限は立場で6区分。企業型は事業主掛金3万5千円超で枠が減る(令36条)。
  8. 保険料免除の月は掛金を出せない(令36条1号かっこ書、法62条1項1号)。
  9. 受け取り始めると加入できなくなる(法62条2項1号)。
  10. 脱退一時金は7条件すべて。受け取ると期間が算入されなくなる(法附則3条1項・5項)。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
確定拠出年金法33条1項支給要件通算加入者等期間に応じた受取開始年齢。ただし書で60歳以上75歳未満の5年経過
確定拠出年金法33条2項同上通算加入者等期間は60歳到達日の前日が属する月以前に限る
確定拠出年金法34条七十五歳到達時の支給請求しないまま75歳に達したときの支給
確定拠出年金法62条1項・2項個人型年金加入者加入できる者。保険料免除者を除く。老齢給付金の受給権を有した者は加入者としない
確定拠出年金法73条企業型年金に係る規定の準用33条・34条等を個人型年金に準用
確定拠出年金法附則3条脱退一時金7つの条件すべてに該当すること。5項で期間の不算入
確定拠出年金法施行令36条拠出限度額6区分の月額上限。事業主掛金3万5千円超の控除。保険料納付月以外は零円
所得税法75条1項・2項2号小規模企業共済等掛金控除個人型年金加入者掛金は支払つた金額を控除
所得税法30条2項退職所得退職所得控除額を控除した残額の二分の一
所得税法31条3号/同法施行令72条3項7号退職手当等とみなす一時金個人型年金規約に基づく老齢給付金の一時金
所得税法35条3項3号/同法施行令82条の2第2項6号雑所得(公的年金等)個人型年金規約に基づく老齢給付金の年金
租税特別措置法68条の5退職年金等積立金に対する法人税の課税の停止期間を区切って課税しない
条文の記述は執筆時点のもの。拠出限度額や特別法人税の課税停止の期限は改正で変わるため、実際のご提案では最新の制度をご確認ください。また、この記事は制度の説明であり、特定の金融商品を勧めるものではありません。

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架空の実務場面をもとにした学習用の解説記事です。実在の会社・物件・取引ではありません。制度は改正されることがあるため、受験年度の最新情報もあわせてご確認ください。