【FPの実務】保険の見直し──先に開くのは証券ではなく、公的年金の「子」の定義
保険の見直しについて、お客様から相談が届く。
「独身の頃に入った保険に、そのまま入り続けています。結婚して子どもも生まれたので、見直した方がいいのか、どこを見ればいいのか分かりません。」
この相談で最初に開きたくなるのは保険証券だ。ただ、証券から始めると「今の保障が多いか少ないか」を比べる話にしかならない。FPの知識がここで力になるのは、見直しを引き算として渡せたときだ。そして引き算の相手側にあるのは、保険会社の商品ではなく公的な保障になる。この記事では、その順番で整理する。
まず結論:保険で用意するのは、引き算の残り
必要な保障額は、次の引き算で出る。
| 順 | 見るもの | どこで分かるか |
|---|---|---|
| ① | これから出ていくお金(生活費・教育費・住まいの費用) | 家計の聞き取り |
| ② | 公的保障で出るもの(遺族年金・高額療養費など) | 年金事務所・加入している健康保険 |
| ③ | 今ある資産(預貯金・企業の保障・住宅ローンの団体信用生命保険) | お客様の手元 |
| ④ | ①−②−③=保険で用意する額 | ここではじめて証券を開く |
②を飛ばすと、公的保障で出る部分にもう一度保険をかけることになる。逆に②を数えすぎると足りなくなる。見直しの精度は、②をどこまで正確に置けるかで決まる。
公的保障は、家族構成で出方が変わる
遺族への年金は、国民年金と厚生年金で受け取れる人の範囲が違う。
| 条文 | 制度 | 受け取れる人 |
|---|---|---|
| 国民年金法37条 | 遺族基礎年金の支給要件 | 被保険者などが死亡した場合に、その配偶者又は子へ支給 |
| 国民年金法37条の2 | 遺族の範囲 | 配偶者は「子と生計を同じくすること」、子は「18歳に達する日以後の最初の3月31日まで」など |
| 厚生年金保険法59条 | 遺族厚生年金の遺族 | 配偶者・子・父母・孫・祖父母。妻以外は年齢などの要件がつく |
| 厚生年金保険法62条 | 中高齢寡婦加算 | 受給権を取得した当時40歳以上65歳未満であった妻など |
ここから、相談の現場で効く分かれ目が2つ出てくる。
分かれ目その1:「子」の定義が、保障額の形を決める
国民年金法37条の2第1項2号は、子の要件をこう書いている。
子については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか又は二十歳未満であつて障害等級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと
誕生日ではなく年度末だ。そして同項1号を読むと、配偶者の側の要件が「その子と生計を同じくすること」になっている。子が要件から外れると、配偶者の遺族基礎年金もそこで終わるという組み立てだ。
この構造から、必要保障額の形が決まる。子が小さいうちは「これから出ていくお金」が大きく、公的保障は出る。子が育つにつれて、出ていくお金も公的保障も減っていく。必要保障額は一定ではなく、右肩下がりの線を描く。だから見直しでは「いくら」だけでなく「どんな形か」を見る。年数とともに保障が減っていく型の商品が選択肢に入るのは、この線に合わせるためだ。
もう1つ、出産前後の相談で効く条文がある。37条の2第2項は、死亡の当時に胎児だった子が生まれたときは、将来に向かってその子は死亡の当時に生計を維持されていたものとみなし、配偶者もその子と生計を同じくしていたものとみなす、としている。生まれる前と後で扱いが分かれる論点なので、妊娠中のご相談では、この条文の存在まで渡しておく。
分かれ目その2:夫と妻で、条件が違う
厚生年金保険法59条1項のただし書は、妻以外の遺族に要件を付けている。
ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。一 夫、父母又は祖父母については、五十五歳以上であること。
さらに62条の中高齢寡婦加算は「妻」について定められている。共働きのご夫婦でも、どちらが先に亡くなるかで残る公的保障の形が変わるということだ。
実務でつまずくのはここだ。相談は「主に稼いでいる人の保険」から始まることが多く、そのまま片方だけを見て終わりやすい。両方向で引き算をすると、片方だけ大きく空いていることが見つかることがある。見直しは、世帯で2回する。
医療は、数字ではなく仕組みで押さえる
健康保険法115条1項は、一部負担金等の額が著しく高額であるときに高額療養費を支給する、と定めている。そして2項がこう続く。
高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、(略)政令で定める。
金額が法律の本体に書かれておらず、政令に委ねられている。改定されることが前提の作りになっているということだ。だから助言では限度額の数字を覚えて話さず、「この制度で戻る部分があります。今の金額は、ご加入の健康保険の案内で一緒に確認しましょう」と、確認先ごと渡す。数字を出さない理由が、条文から説明できる形になる。
医療保障の見直しも同じ順番だ。公的保険で戻る部分を引いてから、残りをどう埋めるかを考える。
減らす手は、解約だけではない
「保険料を下げたい」という相談で、いきなり解約を並べない。契約を続けたまま調整する手がある。
| 手 | 何が起きるか |
|---|---|
| 減額 | 保障額を下げて、その分の保険料を下げる。契約自体は続く |
| 払済保険 | 以後の保険料の払い込みをやめ、そのときの解約返戻金をもとに保障額の小さい保険へ変える |
| 延長(定期)保険 | 同じく払い込みをやめ、保障額を保ったまま期間の決まった保障へ変える |
| 特約の解約 | 主契約を残し、重なっている特約だけを外す |
| 契約者貸付 | 解約返戻金の範囲で借りる。契約は続くが利息がつく |
これらは法律ではなく約款で決まっている仕組みなので、取扱いは契約ごとに違う。ご契約のしおり・約款と、契約先の窓口で確認するところまでが助言になる。
ここにもう1つの分かれ目がある。古い契約は、契約した時期の予定利率で組まれている。保障の中身だけを今の商品と見比べると、その部分が視野から落ちる。「今の保障として足りているか」と「置いておく価値があるか」は別の問いだ。転換(今の契約を下取りに出して新しい契約に組み替えること)を検討するときは、新しい契約の条件で組み直されることを前提に、両方の問いを分けて確認する。
入り直すときは、順番を間違えない
足りない部分を新しく契約する場面では、保険法の3つが効いてくる。
| 条文 | 中身 |
|---|---|
| 保険法37条 | 告知義務。保険者になる者が告知を求めた事項について、事実の告知をしなければならない |
| 保険法55条1項 | 故意又は重大な過失により告知をせず、又は不実の告知をしたときは、解除することができる |
| 保険法55条4項 | 解除権は、保険者が解除の原因を知った時から1か月行使しないときは消滅する。締結の時から5年を経過したときも同様 |
| 保険法56条 | 締結後に危険増加が生じ、通知すべき定めがあるのに故意・重過失で通知しなかったときの解除 |
告知は「聞かれたことに事実で答える」義務であって、思い当たることを全部書き出す義務ではない(37条は「保険者になる者が告知を求めたもの」と限っている)。ここを取り違えると、お客様は告知を怖がる。
順番の話が、いちばん実務に効く。今の契約を先に解約してから新しい契約を申し込むと、健康状態によっては新しい契約が成立せず、保障の無い期間が生まれる。新しい契約の責任開始を確認してから、今の契約を解く。この順番だけは、どの商品でも変わらない。
申し込んだ後で考え直す道もある。保険業法309条1項は、書面又は電磁的記録による申込みの撤回等を認めており、1号で「撤回等に関する事項を記載した書面を交付された日と申込みをした日とのいずれか遅い日から起算して8日を経過したとき」を除外している。ただし同項には他にも除外があり、たとえば4号は保険期間が1年以下の契約、2号は営業・事業として締結する契約を挙げている。「必ず8日間ある」ではなく、除外に当たらないかを見るのが正確な読み方だ。
受取人の見直しは、結婚・出産のときにこそ効く
保障額の話に気を取られて抜けやすいのが、受取人だ。独身時代の契約は、受取人が親のままになっていることがある。
| 条文 | 中身 |
|---|---|
| 保険法43条1項 | 保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる |
| 保険法43条2項・3項 | 変更は保険者に対する意思表示による。通知が到達したときは、発した時にさかのぼって効力を生ずる |
| 保険法44条 | 受取人の変更は遺言によってもできる。ただし相続人が保険者に通知しなければ対抗できない(2項) |
| 保険法45条 | 死亡保険契約の受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力を生じない |
43条3項のさかのぼりがあるので、手続きの途中で保険事故が起きた場合の扱いも条文で決まっている。44条2項は「遺言に書いたのに保険会社が知らない」状態を想定した規定だ。遺言で変えられるが、伝わらなければ動かない。この2つは、お客様に渡すと驚かれる。
保障額を組み替える前に、受取人が今の家族構成に合っているかを見る。ここは費用がかからず、その日のうちに手続きへ進める部分だ。
更新型は、更新のたびに条件が新しくなる
更新のある型は、更新時の年齢で保険料が計算し直される。更新できる年齢に上限があるかどうか、更新後の保障がどうなるかは契約ごとに違う。ここは約款の領域なので、ご契約のしおり・約款で「更新」の項目を開いて、上限年齢と更新後の扱いを一緒に読む。将来の負担が読めると、今どこまで整えるかの判断がしやすくなる。
プロならこう助言する
証券を拝見する前に、先に別のものを見せていただけますか。保険で用意する額は、これから必要になるお金から、公的な保障で出るものと、今あるものを引いた残りです。引き算の相手を先に決めないと、保障が多いか少ないかを決められません。
お子さまがいらっしゃる間は、遺族基礎年金という制度が土台になります。この制度でいう「子」は、18歳になった後の最初の3月31日までという決まりで、誕生日ではなく年度末で区切られます。そして配偶者の方の受給は、その子と生計を同じくしていることが要件です。つまりお子さまが育つにつれて、公的な保障も、必要な保障も、両方減っていきます。必要な額は一定ではなく、下がっていく線を描きます。
それから、ご主人の分だけでなく、奥さまの分も同じ引き算をします。遺族厚生年金は、妻以外の方には年齢の要件がつきますし、加算の仕組みも妻について定められています。どちらが先に亡くなるかで、残る公的保障の形が違います。片方だけを見て終わると、もう片方が大きく空いていることがあります。
減らす方だけをお話しすると、解約以外にも、保障額を下げる、払い込みを止めて保障の形を変える、重なっている特約だけ外す、といった手があります。ご契約の時期によっては、置いておく価値のある契約もありますので、そこは分けて確認します。
新しくご契約される場合は、順番だけ気をつけていただきたいです。新しい契約の保障が始まるのを確認してから、今のご契約を解きます。先に解約すると、その間の保障が空いてしまうことがあります。
最後に、受取人をご確認ください。独身の頃のご契約は、受取人がご両親のままになっていることがあります。ここは費用もかからず、今日お伝えできる部分です。
この場面で効いているFPの知識
- 引き算の順番:必要額 −(公的保障 + 今ある資産)= 保険で用意する額
- 子の定義:18歳に達する日以後の最初の3月31日(国民年金法37条の2第1項2号)
- 配偶者の要件:その子と生計を同じくすること(同項1号)
- 夫と妻の違い:妻以外は年齢要件(厚生年金保険法59条1項ただし書)・加算は妻(同62条)
- 医療は仕組みで:支給額は政令に委ねられている(健康保険法115条2項)
- 入り直しの順番:新契約の責任開始を確認してから解約する
助言で外したくないポイント
- 最初に開くのは証券ではない。公的保障を置いてから、残りを保険で埋める。
- 「子」は年度末で区切られる。誕生日ではない。
- 配偶者の遺族基礎年金は、子と生計を同じくすることが要件。子が外れると終わる。
- 必要保障額は右肩下がり。額だけでなく形を見る。
- 胎児は、生まれたときに将来へ向かってみなされる(国民年金法37条の2第2項)。
- 妻以外の遺族には年齢の要件がつく。世帯で2回、引き算をする。
- 高額療養費の支給額は政令で定まる。数字は覚えず、確認先を渡す。
- 減らす手は解約だけではない。減額・払済・延長・特約解約・契約者貸付。
- 古い契約は「置いておく価値」を別に見る。転換は新しい条件での組み直しになる。
- 告知は、聞かれたことに事実で答える義務(保険法37条)。解除権には1か月・5年の制限がある(同55条4項)。
- 解約より先に、新契約の責任開始を確認する。
- 受取人の変更には被保険者の同意が要る(保険法45条)。遺言でもできるが、通知しなければ対抗できない(同44条2項)。