【FPの実務】生命保険はいくら必要?──引き算の「引く側」から埋める
保険の入り方に悩むお客様から、こんな相談が届く。
「生命保険にいくら入ればいいのか分かりません。すすめられるまま入ると保険料が高くなりそうです。必要な保障額の決め方を教えてください。」
FPの実務で、必要保障額の考え方はよく相談される。式そのものは引き算ひとつだが、力になるのは「引く側」を先に、漏れなく埋められたときだ。ここが薄いまま計算すると、必要額は実際より大きく出る。この記事では、埋め方と見直しの考え方を整理する。
まず結論:引き算だが、順番は「引く側」が先
必要保障額 = これから必要になるお金 − 入ってくる見込みのお金
式は単純である。ところが埋める順番で結果が変わる。
足す側(必要になるお金)から埋めると、数字が大きくなって不安が先に立つ。その状態で保険の話に入ると、不安の大きさで決めることになる。
引く側から埋めると、順番が逆になる。すでに備わっているものが先に見えるので、本当に足りない部分だけが残る。
そして引く側のほうが、抜けやすい。公的な保障は、ご本人が把握していないことが多いからだ。FPが渡せる価値は、この側にある。
引く側——4つを漏らさない
| 中身 | 確認の仕方 | |
|---|---|---|
| ①公的な遺族年金 | 遺族基礎年金・遺族厚生年金 | ねんきんネット、年金事務所 |
| ②勤務先の制度 | 死亡退職金、弔慰金、企業年金、団体保険 | 就業規則、退職金規程 |
| ③団体信用生命保険 | 住宅ローンの残債が無くなる | ローンの契約内容 |
| ④いまの資産と遺族の収入 | 貯蓄、有価証券、配偶者の収入見込み | ご本人に伺う |
③がいちばん見落とされる。住宅ローンに団体信用生命保険が付いていれば、万一のときに残債が無くなる。つまりそれ以降の住居費から、ローンの返済分が消える。
ところが足す側では住居費を計上するので、両側で同じものを見落とすと、必要額が大きく出る。「住居費は賃貸に移る場合か、管理費・固定資産税だけか」を確認する。
②も抜けやすい。就業規則や退職金規程を見ないと分からないので、ご本人に取り寄せていただく。団体保険に入っていることをご存じないこともある。
①は0095で整理したとおり、「いつ変わるか」まで見る。末子が要件を外れると遺族基礎年金が終わるので、1つの金額ではなく、時期ごとの金額になる。
この4つを埋めると、必要額はかなり小さくなることが多い。「思ったより備わっていました」という結論も、立派な提案である。
足す側——期間で区切って積む
| 費目 | 期間の考え方 |
|---|---|
| 遺族の生活費 | 末子の独立まで/その後の配偶者の生活期間、で分けて置く |
| 教育費 | お子さんごとに、残りの期間で |
| 住居費 | 団信があるなら、返済分を除いた額で |
| 一時的な支出 | 葬儀費用、相続の手続きの費用など |
生活費を2つの期間に分けるのが要点である。お子さんがいる間といない間で、必要な額が変わるからだ。
ここでも1つの数字にまとめない。時期ごとに置くほうが、次の「必要額は減っていく」という話につながる。
そしてこの数字はご家庭が決めるものである。いまの生活費のうち何割で暮らすかは、ご家族の考え方による。FPが一般的な割合を当てはめて終わりにしない。
必要額は、時間とともに減っていく
必要保障額は1つの数字ではなく、右下がりの線である。
理由は2つある。残りの教育費が減ることと、残りの生活費の期間が短くなることだ。時間が経つほど、備えるべき額は小さくなる。
だからいま計算した金額を、20年間そのまま持ち続ける必要はない。保険料を払い続ける形と、必要額の線は、そのままでは合わない。
ただしここで特定の商品をすすめない。「必要額が減っていく形をしている」という事実をお伝えして、それに合う形をご一緒に選ぶのがFPの役割である。
そして減るのは必要額であって、必要性ではない。「もう要りませんね」と決めつけない。減った分をどうするかは、ご本人が決めることである。
見直しの時期は、出来事で決める
| 出来事 | 何が変わるか |
|---|---|
| お子さんが生まれた | 教育費と生活費の期間が増える |
| 末子が18歳の年度末を過ぎた | 遺族基礎年金が終わる(引く側が減る) |
| 末子が独立した | 足す側が大きく減る |
| 住宅を買った | 団信で住居費の見方が変わる |
| 働き方が変わった | 遺族厚生年金の有無・配偶者の収入が変わる |
| ご家族の状況が変わった | 両側が変わる |
「◯年ごと」ではなく「この出来事があったら」で決めるほうが、実際に見直される。
期間で決めると忘れられる。出来事で決めるとそのとき思い出していただける。
とくに住宅の購入は大きい。団信が付くことで引く側が一気に増えるので、それまでの保障が多すぎる状態になることがある。住宅の相談を受けたら、保険の話もセットで確認する。
末子が18歳の年度末を過ぎるときも押さえておきたい。引く側の遺族基礎年金が終わる一方で、足す側の教育費も減っている。両側が同時に動くので、計算し直す価値がある。
数字を出すときに気をつけること
公的な金額は、公的な試算で出す。遺族年金はねんきんネットや年金事務所で確認する。FPが概算で置かない。金額が大きいので、置き方で結論が変わってしまう。
1つの数字で出さない。置いた前提(生活費の割合、配偶者の収入、物価)を変えると必要額は動く。いくつかの前提で幅としてお見せする。
前提を書き残す。キャッシュフロー表と同じで、1年後に見返したときに何を前提にしたか分かる形にしておく。
そして不安を数字で作らない。必要額を大きく見せることはいくらでもできるが、それは提案ではなく誘導になる。引く側から埋めるという順番は、この意味でも大事である。
相談の進め方——この順番で確認する
- ご家族の構成と年齢を伺う。ここで期間が決まる。
- ねんきんネットで遺族年金を確認する。時期ごとの金額で。
- 勤務先の制度を取り寄せていただく。退職金規程、団体保険。
- 住宅ローンの団信を確認する。あれば住居費の見方が変わる。
- いまの資産と、配偶者の収入見込みを伺う。
- ここまでで引く側を積む。時期ごとに。
- 足す側を、期間で区切って積む。金額はご家庭が決める。
- 差額を時期ごとに出す。1つの数字にしない。
- いくつかの前提で幅を示す。前提は書き残す。
- 見直しの引き金を決める。出来事で。
プロならこう説明する
必要な保障額は引き算で出します。これから必要になるお金から、入ってくる見込みのお金を引くという形です。
ただ、埋める順番を先にお伝えさせてください。私は「引く側」から埋めます。
必要になるお金から先に計算しますと、大きな数字が出て、その不安のまま保険を決めることになりがちだからです。すでに備わっているものを先に見たほうが、本当に足りない部分だけが残ります。
引く側は4つあります。順に確認させてください。
1つめが公的な遺族年金です。会社員でいらっしゃいますので、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が対象になります。
ここは私の概算ではなく、ねんきんネットで実額を出していただけますか。金額が大きいので、置き方で結論が変わってしまいます。
それと、遺族年金はずっと同じ額ではありません。末のお子さんが要件を外れると、1階部分が終わります。ですので1つの金額ではなく、時期ごとの金額で出します。
2つめがお勤め先の制度です。死亡退職金、弔慰金、企業年金、団体保険。就業規則や退職金規程を取り寄せていただけますか。団体保険にお入りだとご存じない方も多いところです。
3つめが住宅ローンの団体信用生命保険です。お住まいは持ち家でしょうか。
団信が付いていますと、万一のときにローンの残りが無くなります。つまりその後の住居費から、返済の分が消えます。ここは見落とされやすく、しかも金額が大きい部分です。
4つめがいまお持ちの資産と、奥さまの収入の見込みです。
この4つを積みますと、思ったより備わっていたという結果になることも珍しくありません。
そのうえで、必要になるお金を積みます。ここは期間で区切って置きます。お子さんがいらっしゃる間と、その後で、必要な額が変わるためです。
生活費をいくらで見るかは、ご家庭でお決めください。一般的な割合を当てはめることもできますが、それではご家庭の実態と合いません。
そして、知っておいていただきたいことが1つあります。
必要な保障額は、時間とともに減っていきます。お子さんが成長すれば残りの教育費が減りますし、生活費を見る期間も短くなるためです。
ですので、いま計算した金額を、そのまま20年持ち続ける必要はありません。
ただし減るのは金額であって、必要性ではありません。減った分をどうされるかは、そのときにお決めいただくことです。私から「もう要りませんね」とは申し上げません。
見直しの時期は、「何年ごと」ではなく「この出来事があったら」で決めましょう。そのほうが実際に思い出していただけます。
とくに住宅をお買いになったときです。団信が付くことで、引く側が一気に増えます。それまでの保障が多すぎる状態になることがあります。
それと、末のお子さんが18歳の年度末を過ぎるとき。遺族年金の1階部分が終わる一方で、教育費も減っています。両側が同時に動きますので、そのときは計算し直しましょう。
最後に、私の側の方針を申し上げます。数字は1つでは出しません。置いた前提を変えれば必要額は動きますので、いくつかの前提で幅としてお見せします。前提は書いてお渡しします。
不安の大きさで決めていただきたくないと思っています。引く側から埋めるのは、そのためです。
よくある質問と、その答え方
「必要な金額から計算すればいいですよね」
順番を逆にしたほうがよい。足す側から埋めると数字が大きくなり、その不安のまま保険を決めることになりやすい。引く側から埋めれば、すでに備わっているものが先に見えて、本当に足りない部分だけが残る。しかも引く側のほうが抜けやすい——公的な保障や勤務先の制度は、ご本人が把握していないことが多いからだ。FPが渡せる価値は、この側にある。
「住宅ローンがあるので、その分も保険で備えないといけませんよね」
団体信用生命保険を確認してからになる。団信が付いていれば万一のときにローンの残債が無くなるので、その後の住居費から返済分が消える。ところが足す側では住居費を計上するため、両側で見落とすと必要額が大きく出る。「賃貸に移る場合の家賃か、管理費と固定資産税だけか」まで詰めて置く。
「一度決めれば、あとはそのままでいいですよね」
必要額は右下がりの線になる。残りの教育費が減り、生活費を見る期間も短くなるためだ。いま計算した金額を20年持ち続ける必要はない。ただし減るのは金額であって必要性ではないので、減った分をどうするかはご本人が決めること。見直しは「◯年ごと」ではなく「この出来事があったら」で決めると、実際に思い出せる。とくに住宅購入と末子が18歳の年度末を過ぎるときは両側が動く。
「遺族年金はだいたいいくらですか」
概算では置かない。ねんきんネットや年金事務所で実額を出していただく。金額が大きいので、置き方ひとつで必要額が大きく動いてしまうからだ。さらに遺族年金は一定額ではない——末子が要件を外れると1階部分が終わる。だから1つの金額ではなく、時期ごとの金額で積む。
説明で外したくないポイント
- 引く側から埋める。不安の大きさで決めない順番になる。
- 引く側は4つ:公的な遺族年金/勤務先の制度/団信/資産と遺族の収入。
- 団信がいちばん見落とされる。住居費の見方が変わる。
- 勤務先の制度は規程を取り寄せる。ご本人が把握していないことが多い。
- 遺族年金は実額で出す。しかも時期ごとに変わる。
- 足す側は期間で区切る。子がいる間とその後で分ける。
- 生活費の水準はご家庭が決める。一般的な割合を当てはめて終わりにしない。
- 必要額は右下がりの線。1つの数字ではない。
- 減るのは金額であって必要性ではない。決めつけない。
- 見直しは出来事で決める。住宅購入、末子が18歳の年度末を過ぎるとき。