【FPの実務】妻の収入が増えると配偶者控除は?──「壁」の数字がどこから来るかを説明する
共働きのお客様から、こんな相談が届く。
「妻がパートで働いていますが、収入が増えると配偶者控除が受けられなくなると聞きました。仕組みを分かりやすく教えてください。」
FPの実務で、配偶者控除と働き方の関係はよく相談される。力になるのは「◯◯万円の壁です」と数字を答えることではなく、その数字がどこから出ているかを説明できたときだ。数字は改正で動くが、足し算の形は動かない。この記事では、条文の構造から整理する。「こう働くべき」という断定はしない。
まず結論:条文は「収入」ではなく「合計所得金額」で線を引いている
三十三 同一生計配偶者 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(……青色事業専従者等……を除く。)のうち、合計所得金額が五十八万円以下である者をいう。
三十三の二 控除対象配偶者 同一生計配偶者のうち、合計所得金額が千万円以下である居住者の配偶者をいう。
三十三の三 老人控除対象配偶者 控除対象配偶者のうち、年齢七十歳以上の者をいう。(所得税法2条1項33号〜33号の3)
条文には「収入」という言葉が出てこない。使われているのは合計所得金額である。
いわゆる「壁」の金額は、この合計所得金額の基準に、給与所得控除の最低額を足して逆算したものにすぎない。
ここを押さえると、改正で数字が動いても自分で計算し直せる。お客様に渡すべきは、数字ではなくこの足し算である。
三 前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 前項に規定する収入金額が百九十万円以下である場合 六十五万円(所得税法28条3項1号)
| 要素 | 条文 | いまの金額 |
|---|---|---|
| 同一生計配偶者の合計所得金額の基準 | 所得税法2条1項33号 | 58万円以下 |
| 給与所得控除の最低額 | 所得税法28条3項1号 | 65万円 |
| 足すと、給与収入の目安 | — | 123万円 |
この2つの数字は、どちらも改正で動く。だから壁の金額も動く。
お客様への説明は「合計所得金額の基準に、給与所得控除の最低額を足した金額が目安になります」という形にする。その年の2つの数字を当てはめれば、改正の後でも正しい答えが出る。
そして給与以外の収入がある方は、この足し算が当てはまらない。副業や年金、不動産収入がある場合は、合計所得金額そのもので判定する。「パート収入だけですか」を先に確認する。
本人の所得でも変わる
居住者が控除対象配偶者を有する場合には、……次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その居住者の……合計所得金額が九百万円以下である場合 三十八万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、四十八万円)
二 その居住者の合計所得金額が九百万円を超え九百五十万円以下である場合 二十六万円(……老人控除対象配偶者である場合には、三十二万円)
三 その居住者の合計所得金額が九百五十万円を超え千万円以下である場合 十三万円(……老人控除対象配偶者である場合には、十六万円)(所得税法83条1項)
控除額は3段階になっている。そして定義の33号の2により、本人の合計所得金額が1,000万円を超えると、そもそも控除対象配偶者に当たらない。
だから配偶者の収入が変わっていなくても、本人の所得が増えれば控除が減る/なくなる。
相談ではご本人の所得も伺う。「妻の働き方」の話として来た相談が、実はご本人側で決まっていることがある。
33号の3の老人控除対象配偶者(70歳以上)は控除額が大きい。ご両親の世代の相談では確認する。
33号のかっこ書「青色事業専従者等を除く」も落とせない。自営業のご家庭で配偶者に専従者給与を出している場合は、配偶者控除を受けられない。どちらが有利かは計算して比べる。
超えても、急には落ちない
居住者が生計を一にする配偶者(……青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合には、……次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その居住者の合計所得金額が九百万円以下である場合
イ 合計所得金額が九十五万円以下である配偶者 三十八万円
ロ 合計所得金額が九十五万円を超え百三十万円以下である配偶者 三十八万円から……段階的に減る金額
ハ 合計所得金額が百三十万円を超える配偶者 三万円
二 ……九百万円を超え九百五十万円以下である場合 前号の金額の三分の二に相当する金額……
三 ……九百五十万円を超え千万円以下である場合 前号イからハまでに定める金額の三分の一に相当する金額……(所得税法83条の2第1項)
ここが相談でいちばん安心につながるところである。
配偶者控除から外れても、いきなり控除がゼロになるわけではない。イの範囲なら配偶者控除と同じ38万円が受けられ、そこからロで段階的に減っていく。
ロの計算は、条文が5万円の整数倍から3万円を控除した金額という刻みで書いており、階段状に減る設計になっている。1円超えたら大きく落ちる、という作りではない。
そして本人の所得によって3分の2、3分の1と縮む構造も、配偶者控除と同じである。
ただし2つの「限る」を見落とさない。配偶者側は合計所得金額133万円以下、本人側は1,000万円以下である。どちらかを外れると、この控除もない。
税金の話と、社会保険の話は別
相談では「壁」がいくつも混ざって語られる。整理しておく。
ここまで見てきたのは所得税法の話である。配偶者控除・配偶者特別控除の基準は、所得税法2条1項33号と83条・83条の2で決まっている。
一方、社会保険の被扶養者になれるかどうかは、健康保険法・厚生年金保険法の別の基準で決まる。判定の考え方も、使う数字も違う。
さらに、ご本人の勤務先の家族手当が、独自の基準を置いていることがある。これは法律ではなく就業規則の話である。
だから相談では「どの壁のお話ですか」を先に切り分ける。税金の壁を越えても手取りが大きく減るわけではないが、社会保険の壁は影響が大きい——この違いを伝えると、お客様が自分で判断しやすくなる。
そして「こう働くべき」とは言わない。働き方はご本人が決めることである。FPはそれぞれの基準がどこにあるかを示すところまでを担う。
相談の進め方——この順番で確認する
- どの壁の話かを切り分ける。税金か、社会保険か、勤務先の手当か。
- ご本人の合計所得金額を伺う。1,000万円を超えると対象外(所法2条1項33号の2)。
- 配偶者の収入の種類を確認する。給与だけか、他にもあるか。
- 足し算で目安を出す。合計所得金額の基準+給与所得控除の最低額(所法2条1項33号、28条3項1号)。
- 超えた場合の段階を示す。配偶者特別控除がある(同法83条の2)。
- 青色事業専従者かどうかを確認する(同法2条1項33号かっこ書)。
- 年齢を確認する。70歳以上なら控除額が変わる(同項33号の3)。
- 社会保険の基準は別に確認していただく。
- 勤務先の家族手当の基準を確認していただく。
- 数字はその年の資料で確認する。足し算の形だけをお渡しする。
プロならこう説明する
「壁」のお話は、実は3つの別々の話が混ざって語られています。まずそこを分けさせてください。
1つめが税金、2つめが社会保険、3つめがお勤め先の家族手当です。それぞれ根拠が違い、基準の金額も違います。
今日は税金のお話をいたします。
まず知っておいていただきたいのが、法律には「収入」という言葉が出てこないことです。条文が使っているのは「合計所得金額」です。
よく耳にする「◯◯万円の壁」という数字は、この合計所得金額の基準に、給与所得控除の最低額を足して逆算したものです。
ですので、数字ではなく足し算の形を覚えていただくほうが確実です。どちらの金額も改正で変わりますが、足し算の形は変わりません。
そのうえで、ご主人の所得も伺わせてください。ここでも控除の額が変わります。
条文は3段階に分けていて、ご主人の合計所得金額が上がるほど控除は小さくなります。そして1,000万円を超えますと、配偶者控除そのものが受けられなくなります。
つまり奥さまの働き方が変わらなくても、ご主人側の所得で結論が変わるということです。
いちばんお伝えしたいのは、ここからです。
基準を超えても、控除がいきなりゼロになるわけではありません。
配偶者控除から外れても、配偶者特別控除という別の控除があります。しばらくは配偶者控除と同じ額が受けられ、そこから段階的に減っていく作りになっています。
条文も、5万円ごとの刻みで少しずつ減る形で書かれています。1円超えたら大きく損をする、という作りではありません。
ですので、税金の面だけで言えば、働く時間を抑えることが必ずしも有利とは限りません。
ただし社会保険は別のお話です。こちらは判定の考え方も数字も違い、手取りへの影響は税金より大きくなります。奥さまのお勤め先の規模によっても変わりますので、そちらは別に確認しましょう。
それと、ご主人のお勤め先の家族手当に独自の基準がある場合があります。こちらは法律ではなく就業規則ですので、お勤め先にご確認ください。
1点、確認させてください。ご自身で事業をされていて、奥さまに給与をお支払いになっていることはありませんか。その場合は配偶者控除の対象から外れますので、どちらが有利かを別に計算いたします。
最後に、どう働くかはお二人でお決めください。私からは、それぞれの基準がどこにあるかと、越えたときに何がどれだけ変わるかをお出しします。数字はその年の資料で一緒に確認しましょう。
よくある質問と、その答え方
「壁の金額を教えてください」
金額より足し算をお伝えする。所得税法2条1項33号は同一生計配偶者を「合計所得金額が五十八万円以下である者」とし、28条3項1号は給与所得控除の最低額を「六十五万円」としている。この2つを足したものが給与収入の目安になる。どちらも改正で動くので、その年の数字を当てはめる形で覚えていただく。給与以外の収入がある方には、この足し算は当てはまらない。
「妻の働き方の話ですよね」
本人側でも決まる。所得税法2条1項33号の2は控除対象配偶者を「合計所得金額が千万円以下である居住者の配偶者」としており、本人の所得が1,000万円を超えると対象外になる。さらに83条1項は控除額を本人の所得で3段階に分けている。配偶者の収入が変わらなくても、本人の所得が増えれば控除は減る。相談では本人の所得も先に伺う。
「1円でも超えたら、控除が全部なくなるのですよね」
そうはならない。所得税法83条の2の配偶者特別控除があり、1項1号イの範囲なら配偶者控除と同じ38万円、ロで段階的に減る。条文は5万円の整数倍から3万円を控除した金額という刻みで書かれており、階段状に下がる設計である。ただし配偶者側133万円以下・本人側1,000万円以下という2つの「限る」があり、これを外れると受けられない。
「社会保険の扶養も同じ基準ですよね」
別の基準である。ここまでの話は所得税法の話で、社会保険の被扶養者になれるかどうかは健康保険法・厚生年金保険法の別の仕組みで決まる。判定の考え方も使う数字も違う。さらに勤務先の家族手当は法律ではなく就業規則の話である。「どの壁の話か」を先に切り分けると、相談が整理される。
説明で外したくないポイント
- 条文は「合計所得金額」で線を引く(所法2条1項33号)。「収入」ではない。
- 壁の金額は足し算で出る。合計所得金額の基準+給与所得控除の最低額(同法28条3項1号)。
- 給与以外の収入があると、この足し算は当てはまらない。
- 本人の所得が1,000万円超なら対象外(同法2条1項33号の2)。
- 控除額は本人の所得で3段階(同法83条1項)。
- 70歳以上は老人控除対象配偶者で控除額が大きい(同法2条1項33号の3)。
- 青色事業専従者等は対象から除かれる(同項33号かっこ書)。
- 超えても段階的に減る(同法83条の2)。1円で全部なくなる作りではない。
- 配偶者側133万円以下・本人側1,000万円以下という2つの限りがある(同条1項)。
- 税・社会保険・家族手当は別の話。切り分けてから答える。
根拠条文のまとめ
| 条文 | 見出し | この記事で使った内容 |
|---|---|---|
| 所得税法2条1項33号 | 定義(同一生計配偶者) | 生計を一にする配偶者で合計所得金額が一定以下。青色事業専従者等を除く |
| 所得税法2条1項33号の2 | 定義(控除対象配偶者) | 本人の合計所得金額が1,000万円以下であること |
| 所得税法2条1項33号の3 | 定義(老人控除対象配偶者) | 70歳以上 |
| 所得税法28条3項1号 | 給与所得 | 給与所得控除の最低額。壁の金額を逆算する足し算の一方 |
| 所得税法83条1項 | 配偶者控除 | 本人の所得で3段階。老人控除対象配偶者は別枠 |
| 所得税法83条の2第1項 | 配偶者特別控除 | 配偶者側と本人側の2つの上限。イロハで段階的に減る。本人の所得で3分の2・3分の1 |
| 所得税法86条1項 | 基礎控除 | 合計所得金額の区分に応じた控除額 |