FP2級の実務クエスト

【FPの実務】値動きが怖くて始められない──3つが「効くこと」と「効かないこと」

投資に踏み出せないお客様から、こんな相談が届く。

「値動きが怖くて投資に踏み出せません。なるべくリスクを抑えて運用するコツのようなものはありますか?」

FPの実務で、この説明はよく扱う。長期・積立・分散という3つはよく知られているが、力になるのはそれぞれが「何に効いて、何には効かないか」まで分けて伝えられたときだ。効かないことまで伝えて初めて、お客様がご自身で決められる。この記事では、その線引きを整理する。

この記事は、学習アプリ「シカクエ」の実務クエスト「長期・積立・分散の考え方を伝える」を読み物として再構成したもの。人物・相談はすべて架空です。この記事は特定の金融商品を勧めるものではありません。

まず結論:3つは別々のことに効いている

効くこと効かないこと
長期1年あたりで見た振れ幅が小さくなりやすい元本割れの可能性はなくならない
積立買う時期が分かれ、1回の値段に結果が左右されにくくなる下がり続ける相場では損失を防げない
分散値動きの異なるものを組み合わせると全体の振れ幅が小さくなりやすい同じ方向に動くものを並べても効かない

3つはひとまとめに語られることが多いが、効いている場所が違う

長期は時間積立は買うタイミング分散は投資先別々の軸である。

そして右の列がいちばん大事である。効かないことを伝えないと、「これをやれば大丈夫」という理解になる。それは正確ではないし、次に述べるとおり法律が禁じている言い方に近づく

言い方の基準は、法律にある

金融商品販売業者等は、……顧客に対し、当該金融商品の販売に係る事項について、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為……を行ってはならない。(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律5条)

禁じられているのは断定的判断の提供と、確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為の2つである。

後者が広い。「確実です」と言わなくても、確実だと誤解させる言い方なら当たる

だから「長期・積立・分散なら大丈夫です」「20年持てば増えます」という言い方はしない。3つを並べること自体が悪いのではなく、断定の形にすると外れる

言い換えの型を持っておくとよい。「〜なりやすい」「〜という傾向がある」「〜の影響を受けにくくなる」断定しない語尾で言えば、内容は変えずに正確になる。

この条文の名宛人は金融商品販売業者等だが、説明の基準としてこれ以上のものはない販売に関わらない場面でも、この程度を自分の基準にする

長期——「1年あたり」で見ると小さくなる

長期で持つことが効くのは、1年あたりに直したときの振れ幅である。

期間が長くなるほど、年平均に直した成績のばらつきは小さくなる傾向がある。1年だけを切り取ると大きく上下するものも、10年、20年の平均で見れば幅が狭まりやすい

ただしこれは平均の話である。最終的にいくらになるかの幅は、期間が長いほど広がる年あたりのばらつきが小さくなることと、結果の金額が安定することは別である。

そして元本割れの可能性がなくなるわけではない「長期なら必ず増える」は、法律が禁じている言い方にあたる

お客様に伝えるなら「年ごとの上下に一喜一憂しなくてよくなる、という意味では効きます」という形になる。気持ちの面で続けやすくなる——これは実際に大きい効果だが、増えることの保証ではない

積立——「平均を取る」が数学的に言えること

積立で確かに言えることが1つある。毎回同じ金額で買い続けた場合の平均取得単価は、毎回同じ口数で買い続けた場合の平均取得単価を上回らないということだ。価格が変動する限り、これは計算上そうなる。

理由は単純で、定額で買うと、価格が安いときに多くの口数を、高いときに少ない口数を買うことになるからである。

これは「得をする」という意味ではない。比べているのは同じ口数ずつ買った場合であって、一括で買った場合との比較ではない

一括で買うのと積み立てるのと、どちらが有利かはその後の値動きによる上がり続ける相場では一括が有利になるし、下がってから上がる相場では積立が有利になる先に分かることではない

だから積立の意味は「1回の値段に結果が左右されにくくなる」ところにある。いつ買うかを当てなくてよいという点が本質である。

下がり続ける相場では、積み立てても損失は出る。ここも一緒に伝える。

分散——「異なる」ことが条件

分散が効くのは値動きの異なるものを組み合わせたときである。

ここが誤解されやすい。数を増やせば分散になる、ではない同じ方向に動くものをいくつ並べても、全体の振れ幅は小さくならない

だから「何本持っているか」ではなく「何に投資しているか」を見る。似た性格の投資信託を複数持っていても、中身が重なっていれば分散になっていない。

分ける切り口はいくつかある。資産の種類地域通貨1本の投資信託の中で分散されているものもある。

そして分散しても、全体が同じ方向に動く局面はある「分散していれば下がらない」ではない

相談ではいま持っていらっしゃるものの中身を一緒に見るのが確実である。目論見書の投資対象の欄を開けば、重なりが見える。

確実に効くものが1つだけある

ここまで見てきた3つは、いずれも「〜なりやすい」という傾向の話である。

一方で確実に効くものが1つある。費用である。

購入時の手数料、保有中にかかる費用。これらは相場がどう動いても、確実に差し引かれる唯一、先に分かっている数字である。

だから費用を確認することは、他のどの工夫よりも確かな効果を持つ目論見書と交付運用報告書で確認できる

そして税も同じである。運用益への課税は確実にかかる。非課税の制度を使えるかどうかは、先に分かる差になる。

これは断定して言える数少ないことなので、相談ではきちんと伝える。不確実なことは断定せず、確実なことははっきり伝える——この使い分けが、正確な説明になる。

怖さそのものへの向き合い方

相談者は「怖くて始められない」とおっしゃっている。この気持ちを軽く扱わない

怖さは情報が足りないからとは限らない。大事なお金だから怖いのであって、それは自然なことである。

だから「怖がらなくて大丈夫です」とは言わない。代わりに怖さが小さくなる形を一緒に探す。

そして「始めない」も選択であるやらない理由をなくしにいかないご本人が納得できる形が見つからないなら、いま始めなくてよい——そう言えることが、かえって安心につながる。

相談の進め方——この順番で確認する

  1. 怖さの中身を伺う。何が怖いのか。減ることか、分からないことか。
  2. いつ使うお金かを伺う。ここで話が変わる。
  3. 3つを、効くことと効かないことで説明する
  4. 断定しない言い方を使う(金融サービス提供法5条)。
  5. いま持っているものの中身を見る。分散になっているか。
  6. 費用を確認する。唯一、先に分かる数字。
  7. 非課税の制度が使えるかを確認する。
  8. 小さく始める形を一緒に考える。
  9. やめられることを確認する
  10. 「始めない」も選択として残す。

プロならこう説明する

「怖い」というお気持ちは、自然なことだと思います。大事なお金だから怖いのであって、情報が足りないからではないと思っています。ですので「怖がらなくて大丈夫です」とは申し上げません。

そのうえで、よく言われる長期・積立・分散について、何に効いて、何には効かないかを分けてご説明します。効かないほうも一緒にお伝えします。

まず長期です。効くのは1年あたりに直したときの振れ幅です。1年だけを切り取ると大きく上下するものも、長い期間の平均で見ると幅が狭まりやすい傾向があります。

ですので年ごとの上下に一喜一憂しなくてよくなる、という意味では効きます。ただし元本割れの可能性がなくなるわけではありません。「長期なら必ず増える」とは申し上げられません。

次に積立です。こちらは1つ、計算の上で確かに言えることがあります。

毎回同じ金額で買い続けた場合の平均取得単価は、毎回同じ口数で買い続けた場合を上回りません。安いときに多く、高いときに少なく買うことになるためです。

ただしこれは「得をする」という意味ではありません。比べているのは同じ口数ずつ買った場合であって、一括で買った場合との比較ではありません。

一括と積立のどちらが有利かはその後の値動き次第で、先には分かりません。積立の意味は「いつ買うかを当てなくてよい」ところにあるとお考えください。

そして下がり続ける相場では、積み立てても損失は出ます。

3つめが分散です。効くのは値動きの異なるものを組み合わせたときです。

ここが誤解されやすいところで、数を増やせば分散になる、ではありません。同じ方向に動くものをいくつ並べても、全体の振れ幅は小さくなりません。

もしすでにお持ちのものがありましたら、中身をご一緒に見ましょう。目論見書の投資対象の欄を見れば、重なっているかどうかが分かります。

ここまで3つとも「〜なりやすい」というお話でした。断定できることではないためです。

一方で、確実に効くものが1つだけあります。費用です。

購入のときの手数料と、持っている間にかかる費用。これは相場がどう動いても、確実に差し引かれます。唯一、先に分かっている数字です。

ですので、費用を確認することは、他のどの工夫よりも確かです。税金も同じで、非課税の制度が使えるかどうかは、先に分かる差になります。

最後に、始め方についてです。

使うご予定のないお金の範囲で、小さく始めるという形があります。生活に影響しない額でしたら、値動きの受け止め方が変わります。慣れてから増やす、という順序でも構いません。

それと、積立は止められます。始めたら続けなければならない、ということはありません。

そして最後に申し上げておきたいのですが、「いま始めない」も選択です。

私は、始めていただくためにご説明しているのではありません。お決めになるための材料をお渡ししているだけです。納得できる形が見つからないようでしたら、いま始めなくて大丈夫です。

よくある質問と、その答え方

「長期・積立・分散なら、損しないのですよね」
そうは言えない。3つはいずれも「〜なりやすい」という傾向の話で、元本割れの可能性がなくなるわけではない。金融サービス提供法5条は「不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為」を禁じている。「確実です」と言わなくても、確実だと誤解させる言い方なら当たる効かないことまで伝えて、初めてご本人が決められる

「積立なら、一括で買うより有利ですよね」
先には分からない。計算上確かに言えるのは「毎回同じ金額で買い続けた場合の平均取得単価は、毎回同じ口数で買い続けた場合を上回らない」ということで、比べているのは同じ口数ずつ買った場合である。一括との比較ではない。一括と積立のどちらが有利かはその後の値動きによる。積立の意味は「いつ買うかを当てなくてよい」ところにある。

「たくさんの商品を持っているので、分散できていますよね」
中身を見る必要がある。分散が効くのは値動きの異なるものを組み合わせたときで、同じ方向に動くものをいくつ並べても全体の振れ幅は小さくならない「何本持っているか」ではなく「何に投資しているか」を見る。似た性格の投資信託が重なっていることは珍しくない。目論見書の投資対象の欄を一緒に開くのが確実である。

「結局、何をすればいちばん確かですか」
費用の確認である。長期・積立・分散はいずれも傾向の話だが、購入時の手数料と保有中の費用は、相場がどう動いても確実に差し引かれる唯一、先に分かっている数字である。税も同じで、非課税の制度を使えるかどうかは先に分かる差になる。不確実なことは断定せず、確実なことははっきり伝える——この使い分けが正確な説明になる。

説明で外したくないポイント

  1. 3つは別々の軸:長期は時間、積立はタイミング、分散は投資先。
  2. 効かないことまで伝える。伝えないと「やれば大丈夫」という理解になる。
  3. 断定的判断の提供等は禁止(金融サービス提供法5条)。「〜なりやすい」で話す。
  4. 長期で小さくなるのは1年あたりの振れ幅。元本割れの可能性は残る。
  5. 積立で言えるのは「同じ口数ずつ買う場合との比較」。一括との比較ではない。
  6. 下がり続ける相場では積立でも損失は出る
  7. 分散は「異なる」ことが条件。数を増やすことではない。
  8. 確実に効くのは費用。唯一、先に分かる数字。
  9. 非課税の制度が使えるかも、先に分かる差
  10. 「いま始めない」も選択。やらない理由をなくしにいかない。

根拠条文のまとめ

条文見出しこの記事で使った内容
金融サービス提供法5条金融商品販売業者等の断定的判断の提供等の禁止断定的判断の提供、確実であると誤認させるおそれのあることを告げる行為の禁止。言い方の基準として
金融サービス提供法4条2項金融商品販売業者等の説明義務顧客の知識・経験等に照らして理解されるために必要な方法及び程度
この記事は考え方を整理したものです。個別の商品の内容や費用は目論見書と交付運用報告書でご確認ください。特定の金融商品を勧めるものではありません。

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