【FPの実務】将来のお金を見える化──キャッシュフロー表は「4つの式」でできている
将来設計を考えるお客様から、こんな相談が届く。
「将来のお金を見える化したいのですが、キャッシュフロー表というものがあると聞きました。何をどう書けばいいのか、作り方の考え方を教えてください。」
FPの実務で、キャッシュフロー表はライフプランの土台になる。ただ、表を埋めること自体は難しくない。力になるのは「どこで判断が要るか」を分かったうえで作れたときだ。同じ家計でも、置いた前提しだいで結論が変わってしまうからである。この記事では、式の中身と、判断が分かれる場所を整理する。
まず結論:4つの式でできている
| 行 | 式 |
|---|---|
| 収入 | 可処分所得=年収 −(所得税+住民税+社会保険料) |
| 支出 | その年の支出額=現在の額 ×(1+変動率)経過年数 |
| 年間収支 | その年の収入 − その年の支出 |
| 貯蓄残高 | 前年の残高 ×(1+運用率)+ その年の年間収支 |
表の見た目は複雑だが、中身はこの4つだけである。
そして間違いやすいのは、上の2つと4つめである。可処分所得から何を引くかと、貯蓄残高に運用率が入ること。順に見ていく。
①収入——引くのは3つだけ
| 可処分所得の計算 | |
|---|---|
| 引く | 所得税/住民税/社会保険料 |
| 引かない | 生命保険料/住宅ローンの返済/財形貯蓄/持株会/組合費など |
可処分所得から引くのは税と社会保険料だけである。
生命保険料や住宅ローンの返済は引かない。これらは支出の行に書くものだからだ。両方で引くと、二重に引いたことになる。
ここは相談者ご自身が作られた表を拝見するときの確認点になる。給与明細の「差引支給額」をそのまま書いていらっしゃることが多い。差引支給額は財形や組合費まで引かれた後の金額なので、可処分所得より小さい。
「手取り」という言葉は、この2つを区別しない。お客様には「税金と社会保険料だけを引いた額です」と、具体的に言う。
賞与を含めるかも決めておく。含めるなら年額で、含めないなら支出も賞与払いを外す。そろえないと年間収支が合わない。
②支出——将来の値に直す
物価が上がる前提を置くなら、支出は現在の額 ×(1+変動率)経過年数で将来の値に直す。
ここで判断が要る。変動率をいくつに置くかである。
これはFPが決めるものではない。決めてしまうと、その数字が結論を作ってしまう。
実務では複数のケースで作るのがよい。物価が上がらない場合、緩やかに上がる場合、といった具合である。「どちらでも大丈夫か」「どこから苦しくなるか」が見えるほうが、お客様の判断に役立つ。
支出の項目ごとに率を変える判断もある。教育費と生活費は同じ動き方をしない。ただし細かくしすぎると更新できなくなるので、最初は生活費だけに率を掛けて、他は現在の額のまま置く、という作り方でもよい。
大事なのは、置いた前提を表に書き残しておくことである。「変動率1%で計算」と表の外に明記する。書いておかないと、1年後に見返したときに何を前提にしたか分からなくなる。
支出は次のように分けると、更新しやすい。
| 区分 | 中身 | 扱い |
|---|---|---|
| 基本生活費 | 食費・水道光熱費・通信費など | 変動率を掛ける |
| 住居費 | 家賃、住宅ローンの返済、固定資産税 | ローンは返済予定表の額をそのまま |
| 教育費 | 学費・塾 | 進学の年に合わせて置く |
| 保険料 | 生命保険・損害保険 | 契約の内容どおり |
| 一時的な支出 | 車の買い替え、住宅の修繕、旅行 | 起きる年に置く |
住宅ローンの返済額に変動率を掛けない。固定金利なら額は変わらないし、変動金利でも物価の変動率とは別の話である。返済予定表の数字をそのまま置く。
一時的な支出を入れ忘れるのが、いちばん多い抜けである。車の買い替え、住宅の修繕、家電の入れ替え。10年に一度のものでも、その年には確実に出ていく。
これを入れると表が急に厳しく見えるが、入れないほうが実態から遠い。お客様には「厳しく見せるためではなく、実際に起きることを置いています」と伝える。
③年間収支——マイナスの年があってよい
年間収支は収入 − 支出で、そのまま引き算である。
ここで大事なのは読み方のほうだ。年間収支がマイナスの年があること自体は、問題ではない。
お子さんの進学が重なる年や、車を買い替える年は、当然マイナスになる。そのために貯めてきたのだから、貯蓄を取り崩すのは設計どおりである。
見るのは貯蓄残高のほうである。マイナスの年があっても残高が続いていれば、その設計は成り立っている。
この読み方を最初に伝えておかないと、お客様がマイナスの年を見て不安になられる。表を渡す前に、読み方を渡す。
④貯蓄残高——運用率が入る
その年の貯蓄残高 = 前年の残高 ×(1+運用率)+ その年の年間収支
ここがいちばん間違えやすいところである。
前年の残高に運用率を掛けてから、その年の年間収支を足す。単に足していくだけではない。
順番も決まっている。年間収支のほうには運用率を掛けない。その年に入ってきたお金は、まだ1年分運用されていないからである。
そして運用率も置く数字である。ここもFPが決めない。0%で作ることに意味がある——運用に頼らなくても成り立つかが分かるからだ。そのうえで運用率を置いたケースを重ねると、運用がどれだけ効くかが見える。
運用率を高く置いて表を成り立たせるのは、いちばんやってはいけない作り方である。表は成り立つが、現実は変わらない。
作る前に決めておく4つ
- 何年分作るか。ご相談の目的による。教育資金なら末子の卒業まで、老後なら90歳や95歳まで。
- 年齢の基準。その年の12月31日時点など、1つに決める。決めないと進学の年がずれる。
- 賞与を含めるか。含めるなら収入も支出も年額でそろえる。
- 前提の数字。変動率、運用率、退職金や年金の見込み。表の外に書き残す。
4つめの退職金と年金の見込みには注意がいる。
退職金は確定した金額ではない。勤務先の制度で変わり、制度自体も変わる。お勤め先の規程で確認していただくか、入れないケースも作る。
年金の見込みはねんきんネットや年金事務所の試算を使う。概算で入れない。この2つは金額が大きいので、置き方しだいで結論がひっくり返る。
不足が見えたときの読み方
表を作ると、貯蓄残高が細くなる時期が見えることがある。ここからがFPの仕事になる。
大事なのはその年を見ないことである。残高が細くなった年に問題があるのではなく、そこに至るまでの構造にある。
だから手前の年を見に行く。何が重なっているか。教育費と住宅ローンが同時期か。収入が下がる年と支出が上がる年が重なっていないか。
そのうえで、動かせるものを探す。時期をずらせるもの(車の買い替え、大きな支出)、額を変えられるもの(保険の見直し、住宅ローンの借り換え)、増やせるもの(働き方、運用)。
順番は「ずらす」「変える」「増やす」がよい。増やすのは相手のあることで、確実性が低いからである。
そして表は不安を作る道具ではない。「いま気づけたので、動かせる時間がある」という形で渡す。10年先の話は、10年かけて手が打てる。
表には寿命がある
キャッシュフロー表は作った時点の前提でできている。1年経てば、前提はずれる。
だから作りっぱなしにしない。年に1度、実績を入れて作り直す。1年分の実績が入ると、置いた前提が合っていたかが分かる。
だから最初から作り込みすぎないほうがよい。更新できる粗さで作る。細かく作った表ほど、翌年に更新されずに古くなる。
お客様には「これは今年の版です。来年、実際どうだったかを入れて作り直しましょう」と伝えて渡す。1回の答えではなく、続けるための道具である。
作り方の手順
- 目的を決める。何を知りたいか。教育資金か、住宅か、老後か。
- 期間と年齢の基準を決める。
- 今の家計を書き出す。収入は税と社会保険料だけを引いた額で。
- 支出を区分ごとに整理する。基本生活費、住居費、教育費、保険料、一時的な支出。
- ライフイベントを置く。進学、住宅、車、退職。
- 前提の数字を決めて、表の外に書く。変動率、運用率。
- 年間収支と貯蓄残高を計算する。残高は前年残高に運用率を掛けてから加える。
- 運用率0%のケースも作る。
- 残高の推移を読む。細くなる時期の手前を見る。
- 動かせるものを、ずらす・変える・増やすの順に探す。
- 来年の更新を約束して渡す。
プロならこう案内する
キャッシュフロー表は、これから先の各年について「収入」「支出」「年間収支」「貯蓄残高」の4つを並べていく表です。式は4つだけですので、作ること自体は難しくありません。
ただ、いくつか決めていただくことがあります。そこで結論が変わりますので、そちらを中心にご説明します。
まず収入です。ここは税金と社会保険料だけを引いた額を書きます。
お気をつけいただきたいのは、給与明細の振込額をそのまま書かないことです。振込額は、財形貯蓄や組合費、生命保険料まで引かれた後の金額になっていることがあります。
生命保険料や住宅ローンは支出の行に書きますので、収入からも引いてしまうと二重に引くことになります。
次に支出です。ここでご相談したいのが物価をどう見込むかです。
これは私が勝手に決めないほうがよいと思っています。置いた数字が、そのまま結論を作ってしまうからです。
ですので、いくつかのケースで作らせてください。物価が上がらない場合、緩やかに上がる場合。どちらでも大丈夫なのか、どこから変わってくるのかが見えるほうが、お決めになりやすいと思います。
それと、たまにしかない支出を必ず入れさせてください。車の買い替え、住宅の修繕、家電の入れ替えです。
これを入れますと表が厳しく見えるのですが、厳しく見せるためではなく、実際に起きることだから置いています。
3つめ、年間収支です。ここで先に読み方をお伝えします。
マイナスの年があっても、問題ではありません。お子さまの進学や車の買い替えが重なる年は、当然マイナスになります。そのために貯めてこられたのですから、設計どおりです。
見ていただきたいのは、その下の貯蓄残高のほうです。マイナスの年があっても残高が続いていれば、その計画は成り立っています。
4つめ、貯蓄残高です。ここでもう1つご相談があります。運用の利回りをどう見込むかです。
こちらも、まず0%で作らせてください。運用に頼らなくても成り立つかどうかが、先に分かるほうがよいと思います。そのうえで、運用を見込んだ場合を重ねます。
それと、退職金と年金の見込みです。この2つは金額が大きいので、置き方で結論が変わります。
退職金は、お勤め先の規程でご確認いただけますか。年金のほうはねんきんネットの試算を使わせてください。私の概算では置きません。
最後に、この表の使い方についてお伝えします。
この表は、今年の前提で作ったものです。1年経てば前提はずれますので、来年、実際どうだったかを入れて作り直しましょう。
ですので、あえて細かく作りすぎません。細かい表は、翌年に更新されないまま古くなってしまいます。毎年更新できる粗さで作ります。
もし、途中で残高が細くなる時期が見えましたら、その年ではなく、手前の数年を一緒に見ていきましょう。何が重なっているかが分かれば、時期をずらす、額を変える、収入を増やすという順で手が打てます。
10年先のことでしたら、10年かけて動かせます。いま見えることに意味があります。
よくある質問と、その答え方
「収入は、給与明細の振込額でいいですよね」
そのままでは合わないことが多い。可処分所得から引くのは所得税・住民税・社会保険料の3つである。振込額は財形貯蓄・組合費・生命保険料まで引かれていることがあり、それらは支出の行に書くものだ。収入からも引くと二重になる。給与明細を項目ごとに見て、何が引かれているかを確認する。
「貯蓄残高は、前の年に年間収支を足すだけですよね」
運用率を置くなら、それだけでは足りない。式は前年の残高 ×(1+運用率)+ その年の年間収支である。前年の残高に運用率を掛けてから、その年の収支を足す。その年に入ってきたお金は、まだ1年運用されていないので年間収支には掛けない。運用率を0%にするなら、結果として単純な足し算と同じになる。
「途中でマイナスの年があるのですが、まずいですか」
年間収支のマイナスは、それ自体が問題ではない。進学や車の買い替えが重なる年は、貯蓄を取り崩す設計になっているのが普通である。見るのは貯蓄残高のほうで、マイナスの年があっても残高が続いていれば、その計画は成り立っている。表を渡すときは、先にこの読み方を伝えておく。
「変動率や運用率は、いくつが正しいのですか」
正しい数字はない。だからこそFPが1つに決めない。決めた数字が、そのまま結論を作ってしまうためである。複数のケースで作り、どこから結論が変わるかを見るほうが、判断の材料になる。とくに運用率0%のケースは必ず作る。運用に頼らずに成り立つかが分かる。置いた前提は、表の外に必ず書き残す。
案内で外したくないポイント
- 収入は税と社会保険料だけを引く。振込額をそのまま使わない。
- 生命保険料・住宅ローンは支出の行。収入から引くと二重になる。
- 支出は現在の額 ×(1+変動率)経過年数で将来の値に直す。
- 住宅ローンの返済額には変動率を掛けない。返済予定表の額をそのまま。
- 一時的な支出を必ず入れる。車・修繕・家電。
- 貯蓄残高=前年残高 ×(1+運用率)+ 年間収支。年間収支には掛けない。
- 運用率0%のケースを必ず作る。運用で表を成り立たせない。
- 退職金と年金は規程・試算で確認する。概算で置かない。
- 年間収支のマイナスは問題ではない。読むのは貯蓄残高。
- 前提を表の外に書き、毎年更新する。更新できる粗さで作る。